1年後の美貌③~幻~ (完)
 作:無名


1年間で、
全てを壊してしまったー

堕落の果てに、
千奈津を待っている運命は…?

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「----……」
千奈津は、薄暗い部屋で
テレビを見つめながら
ポテトチップスを食べていたー。

秋ー。
大学にはほとんど足を運ばなくなった。

まるで別人のように太り、
髪もぼさぼさになり、
肌もボロボロー
表情からは笑顔が消えて、

言われなければ、誰も
千奈津だと気づかれないほどに
千奈津は変わってしまったー

げっぷをしながらコーラを飲む千奈津。

「--あぁぁああああああああ!」
イライラしてペットボトルを放り投げる
部屋では悪臭がしている。

「こんなはずじゃ…こんなはずじゃなかったのに」
千奈津は爪をがりがりかじり始めるー

綺麗だった手や指も、太くなり、
今では爪もボロボロだったー。

「うぅぅぅう~~~うううううう!」
着ているシャツをイライラしながらかじる千奈津。

「--この女がいけないんだ!!!
 こいつ、劣化が早すぎるんだ!」

千奈津は、自分の身体に向かって
怒鳴り声をあげるー。

引きこもるようになり、
お金もなくなっていく千奈津ー
親からの仕送りを使いながら
元々の千奈津の貯金などを使うー

大学も、もう無理だろうー

冬を迎えて
千奈津は、さらに引きこもるようになった。

大学からは退学を勧められているー。

「---」
千奈津は、目の下に隈を作って
パソコンをいじっていたー。

大きな手でキーボードを入力する。
ストーブをかけた部屋で
ランニングシャツ1枚の千奈津は
ブツブツ呟きながら
ポテトチップスを食べているー

「--あん?ふざけんじゃねぇよ」
千奈津は、ネットに夢中になっていたー

ネットで攻撃対象を見つけては
それを叩く日々ー。

徹底的に誰かを叩いて
満足げにほほ笑む千奈津ー。

とある芸能人が炎上したのを見て
千奈津は徹底的にそれを叩いていたー

暴言ー
汚い言葉遣いー

元の千奈津が絶対にしないで
あろうことを次々としていくー

ツイッターでも、
千奈津は同じようなことをしていた。

気に入らないやつを
徹底的に叩いて、
にやりと笑みを浮かべる千奈津。
心底いじわるそうなー
性格の悪い笑みを浮かべて
ゲラゲラ笑う千奈津ー

「---はっははははは、
 こいつ凍結されやがった!
 ひははははははははは!」
笑いながら千奈津は、
ネットを見つめるー

その表情は、狂気に染まっていたー。

・・・・・・・・・・・・・

”一度帰ってきなさい”

何の事情も知らない母親から
連絡があったのはー
2月のことだったー。
休みを利用して
一度帰ってこい、と。

「----…」
千奈津は戸惑う。

こんなに変わり果てた娘を見たら
両親はなんていうだろうか。

「---…へっ、どうせ、どうせ
 わたしは嫌われ者ですよーだ!」
すっかりひねくれてしまった千奈津は、
両親に嫌われたってどうでもいいや!と
呟くー

仕送りさえ、仕送りさえなんとか
そのまましてもらえればーーー

千奈津は、地元に向かう。

そしてー
地元で、ふとあるお店が目に入ったー

雑貨屋ー。

隼吾によくしてくれていた
おじさんが経営しているお店ー

隼吾はここで憑依薬を購入してー
1年前に、千奈津に憑依したのだったー。

「---いらっしゃい」

気付けば、無意識のうちに
千奈津は雑貨屋に足を運んでいた。

巨体の女性が入ってきたのを見て
雑貨屋のおじさんは、
「こんなところに、珍しいね」と
ほほ笑んだー。

この場所は、地元の人間しか
立ち寄らないのだー。

「---……」
千奈津は、店内を見回わす。
懐かしい店内だー

「---…」
特にこのお店に入った目的はない。

千奈津は、適当にコーラを1本だけ手に取ると
それをレジに持っていく。

そしてー
会計を済ませて足早に店から出ようとしたとき、
おじさんが背後から声をかけた。

「---もしかして、隼吾くんかい?」

「--!?」
千奈津は足を止めた。

「--やっぱり、隼吾くんじゃないか!」
雑貨屋のおじさんが嬉しそうに言う。

「--わ、、、わたし、、そんなんじゃないんで」
千奈津は誤魔化して店から出ようとした。

しかしー
雑貨屋のおじさんに嘘をつくことはできなかった。

「--いやいや、どこからどう見ても
 隼吾くんじゃないか。
 久しぶりだなぁ~」

懐かしそうに言う雑貨屋のおじさん。

「---わ、、わたしは、、隼吾なんかじゃない!」
千奈津は声を荒げた。

そんなやつしらないー
自分は、千奈津に憑依して
憧れの人生を奪ったはずなんだー
なのにーー

なのにーーーー

「--隼吾くん…
 人はね…
 やっぱり…中身なんだよ」
雑貨屋のおじさんが呟いた。

「その子…
 君が、好きだって言ってたコだろ?」

雑貨屋のおじさんが言う。

そして、千奈津の今の姿を見て
少しだけほほ笑むー

「君の憧れだったその子…
 影野さんだったっけ?

 影野さんは、中身が影野さんだからこそ
 輝いていたんだよ

 中身と外見はセットなんだ」

雑貨屋のおじさんの言葉を
千奈津は表情を歪めながら聞くー

1年前
雑貨屋のおじさんに言われた言葉を思い出す。

「でもね、隼吾君の好きな子は、
 その子だからこそ、輝いて見えるんだ。
 中身が変わったら…
 そうだなぁ、1年もすれば別人になっちゃってるよ」

あの時ー
雑貨屋のおじさんはそう言っていたー

その通りだったー
もう、千奈津は別人だー
面影なんて、まるでない。

「---でも、、でも僕は!」
千奈津は叫ぶ。

「僕だって、千奈津ちゃんみたいに人生を
 楽しみたかったんだ!」

さらに千奈津は叫ぶ。

「おじさんに何がわかるんだよ!
 せっかく憑依して手に入れた
 憧れの人生がこんなになっちゃった
 くやしさが、おじさんに分かるのか!
 僕の苦しみが、おじさんに分かるのか!?」
大声を出す千奈津ー

雑貨屋のおじさんは、自虐的に笑うと
奥から写真を持ってきたー。

イケメンの男子高校生と
その横でほほ笑む可愛らしいマネージャーの女子高生が
写っているー

古びた写真だ。

「---昔の、おじさんだよ」
おじさんは呟いた。

「え?」
隼吾は、イケメン男子のほうを見る。
サッカー部か何かの写真だろうか。

「---こっち、だけどね」
おじさんがマネージャーの女子高生のほうを指さす。

「え?」

「--おなじなんだ、君と」
雑貨屋のおじさんは言う。

「--それって…?」

「--おじさんは…、憑依したんだ。この身体にー。
 おじいちゃんが昔手に入れたっていう
 憑依薬を使ってね…

 この身体はおじさんの…いや、わたしのものじゃない…
 別の人の身体だ」

雑貨屋のおじさんは悲しそうに呟いたー

「私は運動音痴でね…
 お店の娘として生まれて、そんな自分が嫌だった。

 そんなときに彼と出会ったんだ。
 サッカー部部長で、スポーツ万能、
 なんでもできる、本当に憧れの存在だったー

 そして、私は彼になりたいと思った。
 私は軽い気持ちで彼に憑依したー

 けどー
 彼にはなれなかったー。
 彼のようにリーダーシップを発揮することは
 できなかった。

 大学に入ってからは、結局、周囲をサポートするような
 そんな立ち回りになっちゃってさ。
 彼のように友達たくさんってのも無理だった。

 で、結局はこうしてお店をやっているー。
 スポーツ選手になりたくて、
 憧れの先輩になりたくて憑依したのにさ、
 やっぱ、ダメだったんだよ。

 中身と外見、それがそろってこその
 先輩だったんだよ」

雑貨屋のおじさんはそう呟いたー

「---……おじさんも……僕と、、同じ」
千奈津は表情を歪めるー

「一時はそれでイヤになってさ、
 隼吾くんと同じように自暴自棄になったこともあったー

 けど…おじさんはね、受け入れることにしたんだ。
 外見を奪っても、中身までは
 そう簡単には変えられないー
 
 だからー、自分を受け入れることにしたよ。

 まぁ、その結果、こんな辺境の地で
 雑貨屋をする怪しいおじさんになっちゃったけどさ」

おじさんの言葉に
千奈津は悲しそうな表情を浮かべるー

「なんで、、なんで、憑依薬をお店に並べてたの…?」

その言葉に、おじさんは、ほほ笑んだ。

「--戒め、かな?
 自分は、他人の身体を乗っ取ってしまったってことを
 おじさんがいつまでも忘れないようにするためー。
 お店にあれば、おじさんは毎日思い出す。

 ”この身体は私のものじゃない”って、ね。

 他人の身体を奪って生きているんだー。
 自分勝手な考えだけど、奪った分まで
 一生懸命生きないといけないからさー」

「……そっか」
千奈津は少しだけ笑った

「おじさんも、、僕と同じかぁ…」
千奈津は店内を見つめる。

自分は、千奈津にはなれないー
外側だけではなく、
内側もそろってこその千奈津だったんだー

と、隼吾は自虐的に笑う。

一時的に憑依するだけなら
その人が築き上げてきたものを
そのまま利用することができるー

けれど、ずっとその人になるとなると、
それを維持するのは、
何よりも難しいー。

「--でもね、隼吾くんにもいいところはある。
 一度憑依したら、もう抜け出せない。
 どんなに乗っ取った身体を返してあげようとしても、
 もう、元には戻れない

 だから、隼吾くんも、元々のその子ー、
 影野さんに影響されずに、
 自分なりの影野さんとして、
 生きていくしかないよ」

「僕なりの、千奈津ちゃんに…」

「--そう。おじさんも
 憧れの先輩象をずっと追い続けて
 自暴自棄になっちゃったこともあったけど
 開き直ったら楽になった。

 今は、まぁ、理想の自分には
 なれなかったケド、こうして
 ほどほどの人生、送れているわけだからねー。」

おじさんの言葉を聞いて
少し気持ちが楽になった千奈津は、
頭を下げた。

「ありがとうございましたー」

とー。

自分はずっと、千奈津の幻を追っていたのかもしれないー。

・・・・・・・

千奈津はお店から出て、
両親と再会したー。

千奈津の両親は、
変わり果てた千奈津を見ても
何も言わず、
優しく迎えてくれたー

”ごめん、僕は…千奈津ちゃんじゃないんです”

そう、喉まで出かかったが
隼吾はこらえたー。

言ったところで、何にもならないー
無駄に、両親を悲しめ、苦しめるだけー。
自己満足かもしれないけれど
憑依から抜け出すこともできないのならー
せめて、言わないでおいたほうが、
いいかもしれないー

そう、思った。

自分がもしも死んだときにはー
あの世で千奈津に何をされても構わないー。
どんな償いをしても、償い切れないだろうけれど
それでも、どんなバツでも受ける覚悟を
隼吾はしていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---ふぅ」

半年後ー。

美貌は失ったー
友達も失ったー
成績も失ったー

けれどー。
今の千奈津は、穏やかだったー。

ダイエットを始めて、
まだ太っているけれど、
少しは体重も減ってきたー

健康にも気遣うようにして、
前向きに考えるようにした。

「---千奈津、最近は少し明るくなったね」
唯一残っていた友達が笑う。

「--うん」
千奈津は少しだけほほ笑んで頷いた。

自分は千奈津には、なれない。
自分が乗っ取る前の千奈津は、
見た目が同じでも、中身が違うのだから、
全く同じ人間になることはできないし
彼女のようにふるまうことはできない。

でもー
おじさんの言葉を聞いて
隼吾は、自分なりに生きていこう、と
そう決意したー

数年後ー
千奈津は、隼吾の趣味を生かした会社に
就職し、アニメに関係する仕事をしているー。

部屋は片付き、体重もかなり減って
ある程度元通りの姿になったような気もするー

元の千奈津のような
”憧れの人生”を手にすることはできなかった。

「---」
それでも、今の千奈津は
”そこそこ幸せ”だー。

社会人になった千奈津は、高校時代の自分の写真を部屋に飾っているー。

自分が、この子の身体を乗っ取った、という
罪を永遠に忘れないためにー。

おじさんと同じように、
自分は他人の身体を奪って生きている、
と、いうことを決して忘れないようにー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・


解体新書様ではお祭り以外は
過去作品を私が選んで提出している形で
掲載させて頂いています!

毎回、提出の前には提出する作品を
読み直すのですが、結構忘れている部分も
あったりして、半分読み手側気分になったりすることも
多いですネ~!

この作品はおよそ2年前の作品だったので、
懐かしい気持ちと、今だったらこうしたかも?みたいな
書いた当時とはまた違う気持ちで楽しめました!

ここまでお読み下さった皆様、
ありがとうございました~!