妄想族さん総合



スタンドイン
 作:妄想族


「立ち入った話ですけど、学内でちょっとしたゴタゴタがあって…知らない人が女友達のスマホを持ってるからってすぐに信じるのは…」

 秀一は待ち合わせ場所にいたウェーブヘアの若干年上であろう大人っぽい美女に向かって口を開く。のんびりした時間帯とは思えない緊張感ある顔つきで、一定の間合い以上接近してこないことからも彼女を警戒していると分かる。

「私が描いた絵だ、と言っても信じない? 随分話し合ったのを覚えてるよ」

 落ち着いた雰囲気の彼女は、彼が関与した件の首謀者であると匂わせる。彼が話し合った異性といえば浦野はるかしかいなかった。

「俺はFランの学生だしチビだけど、心から信じる美女は一人で十分だと思ってる」
「今信じるのはゼリージュースの効果だけでいいよ、秀一くん。入れ替わりも可能なんだ」
「ははっ…でも、俺飲んだことないし」
「いつもはありのままの私を受け入れてくれる。今日は、少し甘え過ぎたみたいだね。つまり、年上でもちゃんと説明責任は果たすべき…そう言いたい気持ちもわかる。でも、悪戯でもなんでもなく…純粋に会いたくなっただけ。女にはそういう時もあるんだ」
「彼女への想いが本物だからこそ、自由でいてほしい…だからこそ、可能性のレベルでも自分からそれをダメにはしたくない。それだけです」
「引っ込みがつかないんでしょ? 乗ってあげるよ、何を試したい?」

 秀一が愛ゆえに今の自分の肉体が河合みちるで中身は恋人であると容易に受け入れられないことが伝わったので、はるかはあえて緊張を解す動きに出る。

「お互いが惚れてるところを言い合うとかどう?」
「いいさ、愛があるから口にできる」
「一緒に言おう」
「大きいところ!」
「あっ…」
「言っちゃったな」

 二人は口にしたことを後悔する。一致していることは喜ぶべきであっても、互いにセックス以外に深い所でも繋がっているはずなのに咄嗟に伝えることが出来なかった。
はるかが周囲が思ってる以上に巨乳なのはマニアなら目測できても、秀一が巨根なのは意外と知られていないし、異性でそれを知ってるのは更に限られていた。

「お互い、若いからね」
「その場の勢いってやつかな」
「今でも一緒に寝る前までの態度を謝りたい位さ。好かれて嬉しいはずなのに…わざと嫌なことを口にしていた」
「いやいや、普通頼んでもダブルペネトレーションはできないし…無礼さも余裕で許容される女っぷりですよ」
「年上だし、胸に頼ってるだけと思われるのも嫌だった…レズなら一度に男二人とするはずがない。信じて欲しかった」
「俺ははるかさんがはじめてでよかったと思う」
「光栄だね。弟もバイに見えて、誰でもってわけじゃない。君にのみ発揮される柔軟性みたい」
「付き合ってから驚かされてばかりさ」
「君が特別だからだよ」

 ある程度信頼があるからセックスできたわけだし、一度でこりごりなら二度目はないはずなので苦笑いしながらも否定はしなかった。
 過激なことをしたところで、一般人なら変態と言われても美形なら性と快楽の探求という別の言い方が似合ってしまうのも、姉弟が恵まれてると秀一は感じていた。

「二番目はなんだろう?」
「クールなのに、極端な個人主義者じゃなくて結構姉御肌なのにも驚きました」
「君こそ、素朴なだけじゃくて案外情熱的じゃないか」
「今…はるかさんはみちるって人と体が入れ替わってる訳だ。その人は何者?」
「友人で、モデルの仕事では少し先輩だな。頭が良くて要領もいい」

 二人は喫茶店に入って静かな席を選ぶとようやく本題に入る。

「確かに、大人っぽい美人だ。でも、何のために?」
「仕事を成功させるためさ。二人で決めたの」

 恋人が能力を抜きにしたら大抵のことは様になりそうなので、疑いもしなかった反面、目の前のみちるもはるかに匹敵するくらい優雅で汗や駆け足など余裕のない世俗の悪あがきとは無縁に見えた。

「今は、はるかさんの体は中身は別人が動かしてる」
「そう、みちるの方には仕事でのギャラを渡す約束になってるんだ。まだ駆け出しで、拘束時間も短いから安いけど」
「それで、はるかさんにメリットは?」
「最初は実績が必要って訳さ。見た目だけで通用するほど甘い世界じゃないし、みちるの方がスキルは上だから代わってもらった。それに、最初のうちはやりたくないこともしなきゃいけないし」

 秀一にとってはるかに同性の友人がいるのは嬉しくもあったが、同時に対等な関係なのかも気になっていた。

「まさか、枕営業?!」
「発想が週刊誌レベルだね。そんな事企んでる奴とは組む必要ない…広い世界だから。やりたくないってのは、私の顔だけ必要で胸はいらないって仕事。髪が短くて男っぽいのがいいから胸は隠せって」

 もし自分が芸能人になれていたら秀一とは付き合っていないのではと考えるが、彼が自分の個性を魅力といってくれたし女であることをエクスタシーという形で深く理解させた事で前向きに生きれていることも思い出す。

「はるかさんの胸が要らないなんて無礼な話だ。胸を小さく見せるために押さえこむなんて…美への冒涜だ」
「世の中には胸もないくせにいっちょ前に女ぶっておしゃれしたい連中もいるし、女なのに男っぽい服を着るのが好きな女も存在する。まずは興味をひくことが大事さ」
「プロの世界というのは厳しいんだね。でも、はるかさんだからこそできる仕事もきっと…」

 秀一もはるかが中性的で見せ方によっては王子や貴公子という例えが似合うキャラにも成れそうな事と、それを切望する女性がいることも知っていた。
 彼女が望んでいなくても強いられる場面も予想できたが、嫌々で通用するほど単純でないので、理解のある仲間とゼリージュースの存在は僥倖に見えた。

「私はギャルじゃないし、一発屋で終わる気もない。そのうち、みちると一緒に大きな仕事ができる日が来る」
「キャラがかぶらなければ衝突しないし、コントラストがあるからこそ受ける」
「そうなると、嬉しいね」
「じゃあ、今日は前祝いで…」

 はるかの魅力は自分だけでなく世間にも伝わると確信し、たまには自分がおごろうと誘う。

「みちるは遊んでいていいといったけど、この体でいろいろシミュレートしたい」
「具体的に、どんな事を?」
「髪は長いし、胸も形がよくてサイズの割にカップは大きいし、背だって高すぎない。どんな服や下着が似合うのか見てみたい」
「密かに、憧れてたんですか?」

 秀一は彼女がともすれば浮いた存在でありながら独特の魅力を持っていたので、美しくても人混みに紛れてしまいそうなみちるが圧倒的には見えなかった。

「秀一くんも…こんな子が好きなんじゃないか?」
「美人というだけではなんとも…」
「確かに、日には当たりたがらないし、床に座らなかったり…変わったところもある」
「きっとプロ意識なんですよ。日焼けを防いだり脚の細さや膝の綺麗さを維持する努力なんです」
「そうか、ガマンばっかりしてるから…性欲が強いのかと」
「さっき友達って言いましたよね、もっとポジティブに評価しましょう。例えば、プライベートな一面とか」
「趣味とかか…彼女の部屋に行けば分かる」
「部屋の鍵まで預かってるんですか?」
「一応そこで落ち会う約束だからな。彼女より先に着くと思う。せっかくだから秀一くんにも紹介しよう」

 好きという意味を付き合うと捉えると、胸を見てみ見たいと思う程度の気持ちしか湧かないので彼は即答できなかったが、はるかは内面についても知りたいと考え、住んでる場所を見れば分かるだろうと考えた。
 みちるの姿でも本人が不在の間に家に上がり込めるのは自分より親密ではと思いつつも、同性だしゼリージュースを使えるくらいだから当然のような気もしていた。

「まだ時間があるから、服を見るから付き合って欲しい」
「なんだか、デートっぽいですね」
「はたから見たらそうかもしれない、でも…これも勉強さ。こうしている間も、みちるは仕事中なんだ」
「みちるって人に家に行くなら、贈り物があったほうがいいですね。地味でも役に立つものとか」
「値段より気持ちさ…きっと君の優しさも通じる」

 二人は喫茶店を出るとバスで駅前まで行くと電車で都会の駅に着くと、アパレル系の店を何件か回った。はるかはいつもの自分とは違う着こなしを試しては彼の好みじゃないと理由をつけて買わずに出、本屋でファッション誌を立ち読みしている間に秀一は百円ショップであったら便利な小物や予備にあるとありがたい消耗品を買い集めていた。

「アウェー感がハンパないけど、思ってたのに近くてよかったです」
「一人暮らしってだけでも羨ましいのに、都会暮らしだからね。自分だけの家なら堂々とセックスも出来る…早く稼げるようになりたいよ」

 小奇麗なマンションの単身者向けの棟の一室に入ると、室内の様子から生まれ育ちや性格を推察していた。女らしさよりもセンスの良さと整理整頓がなされているのが印象的で、一人暮らし特有の間に合わせ感やチープさがなくて金回りもよさそうに見えた。

「そういえば、はるかさんの親って…はるかさんと俺がつきあってるの知ってる?」
「智幸は言わないし、人を雇った形跡もないけど…母は勘付いてるな。特にあれこれ言ってこないから、君をいい男だと思ってるのかもしれない」
「面識がない以上は、好かれてるかどうかは分からないな。モデルになる事は何も言ってない?」
「水商売以外ならいいって。私達ぐらいの学校じゃバイトでやってて就職できなくてそのまま正業に、なんてケースもあるそうだけど…貢がせるのが当たり前になるとおかしくなるからダメね。ああいうお酒の飲み方も好きじゃないし」
「みちるさんのタンス見ちゃだめかな…こんなこと言ったら軽蔑されそうだね」
「下着のコレクションを見たいのかい?許可貰えばいいじゃないか…盗む気じゃないだろ?」
「単なる興味本意なのに、真顔で言われても困るな。許可以前に言った時点で第一印象ダダ下がりじゃないか」
「そうかい?『別の女のカラダ?いいね、ヤッちゃおう』とかいきなり言わないだけ紳士さ」
「そんな褒め方うれしくないよ。ゼリージュースって、トイレが近い人には向いてないね」
「そうだな、私も朝から何も食べてない。喫茶店でちょっと飲んだだけだし。彼女も仕事が終わるまでは元に戻る訳にはいかないから…結構プレッシャーあるだろう」

 ベランダにも出たかったが、秀一がいるのを見られると周囲にあらぬ誤解を招きかねないので断念すると、急にやることがなくなったので懐古派向けの家ゲーでレースゲーをしながら無駄話をしていた。

「今帰ったわよって…あら」
「みちる、遊ばせてもらってるよ」
「佐藤です、はじめまして。はるかさんがお世話になってます」
「遊ばせてもらってるって、あたしのベッドを使ってから言うセリフじゃない?ふたりして子供みたい」

 部屋の主が戻ると二人はコントローラーを置いて出迎える。はるかを纏っているみちるはどこか包み込むようなオーラを感じさせ、はるかの顔でも目付きや眉の角度にフェミニンさが滲み出ており、素の彼女はかなり女性らしいのではと秀一は感じた。

「これ、つまらないものですが」
「この手の爪切りは使わないのよ。爪に良くないから。でも綿棒は買い置きがあるのは助かるし、油とり紙と消毒液も…父さんは嬉しいぞ」
「誰がお父さんよ」
「なんで、ままごとのノリなんですか」
「なんとなくよ、いつもはるかをフォローしてるから。ポジション的にはお母さんだけど」

 はるかの体のみちるの態度は意外と陽気でイケメンに限るタイプでないと秀一は安堵し、彼女たちが本当に親しいという空気が伝わってきた。

「どうだった?お仕事」
「ルックスが必要なときは男っぽく、グラマラスさが求められるときは女らしく。オドオドした様子もなく自信ありげにこなしたわ。顔は売れたと思う」
「大変じゃなかったですか? 緊張するとトイレに行きたくなる人もいるって言うし」
「やりがいがある仕事の時は集中力が続くの。これなんか、キミも見たことないはるかじゃない?」

 はるかの問いに対し、みちるは彼女の肉体の可能性と自分の演じ方での成功ぶりを示し、秀一にはウィッグを使用してはるかに文字通りみちるの属性を加えたような姿のメイク完成後の自画撮りのスマホを見せると、彼は思わず息を呑む。

「やっぱり純情ね、見境ないタイプと自分がモテると思ってる男は嫌いらしいから。はるかって」
「みちるさんは、もし俺があなたの体に…その」
「押し倒すこともあるんじゃないかと思ってた。中身ははるかなんだから恋人同士だし…女が上に乗ってくるよりはいいじゃない」
「彼女もレズとよく間違えられるそうだ。私とはキャラが違うのに」
「あたしもつい『あなたが欲しい』って言っちゃったけど、モデルの才能があるって意味だったのよ」
「それだけじゃない、いきなり『はるかの手が好き』ってのも相当アレだったぞ」

 みちるが秀一の反応を楽しんでると、はるかが口を挟む。

「ああ、あれは嘘。今はこの胸が好き。電車の中で高校生の背中に押し付けたらきっとボッキするわね」
「何いってるんだ!投げ飛ばすぞ」
「こういう時は、腕っ節より色気よ!嫉妬してる暇があったらアピールでしょ」
「何の争いですか」
「キミもこの大きな胸が好きなんでしょ?あたしもこの胸を使ってみたいの。女に恥をかかせないで」
「私の方を見るな!いや、私が先に挟もう。これはレクチャーだし、本番まではしない。浮気でも寝取りでもないから。そうだ、勝負下着を借りるぞ。秀一くんが見たがっていたからな」
「そうなの?おっぱいだけじゃなくて結構こだわるのね。いいわよ」

 みちるは友のボディの長所を偏愛している様子で、普段より大きな胸で秀一を挑発すると、その恋人も色めき立ち、うれしい状況であっても恋人の体を持つ美女と美女の体の恋人に迫られてタジタジだった。


「まさか、みちるさんがこんなにエロかったなんて…」
「私の教え方が良かったんだ」
「飲み込みはいいほうなの。立派だとついサービスしちゃいたくなるし」
「いや、本当に飲み込むとは誰も…」
「一度は夢見るプレイなんじゃない?ハーレム気分だし」

 秀一は結局順番に二人と最後は両方から一度にパイズリで抜かれて三発搾り取られていた。貴重な体験であると同時に本番ほどではないにしても疲労していたし、みちるとはるかがトイレに行ってようやく元に戻ってみると、全員が性欲より食欲で一致したのでピザを注文することになった。

「もし、またこんな場面に出会ったときは一目で区別する方法ってないですか?」
「本当に私とみちるの成りすましの区別がつかなかったのか?」
「あら、男はいちいち耳なんて見ないのよ。胸がなかったら目が行くかもしれないけど…まず舌打ちが聞こえてきそうだけどね」
「私は左にだけピアスをしてるんだ」
「で、勾玉は?」
「へ?」

 はるかは鈍い恋人に軽く注意しようとしたが、思わぬ反応に面食らった。

「闘士の証よ、はるかは女子校だったから成都ね。男前な女って事で関羽か…着てみて」
「みちるさん、オタなの?」
「ヌルオタだけど、コスプレも役立つの。目を引く格好でポーズをキメて撮影されるって、仕事にも通じるスキルじゃない」
「今から…着たら、ピザ屋さんに見られるじゃないか」
「最強でメインヒロインより人気のキャラだからいいじゃない。単に丈の短いセーラー服とミニスカだけだと…露骨に怪しいけど。人に仕事させたんだから、度胸試しだと思って…宿命を受け入れなさい」
「ピザで桃園の誓いですか」
「着ればいいんだろ、着れば」

 秀一とみちるが意外な所で共通点を見出すが、当のはるかは訳がわからないまま初期では褐色でもシーズンを経るごとに白くなってきている特Aランク闘士の扮装をすると、さすがにルーズソックスはないんじゃないかと思う一方で、赤い指ぬきグローブと長い黒髪のウィッグは成り切らせてくれると鏡から伝わってきていた。何より恋人が喜んでいるし、仕事も成功したので、赤ワインを飲んで談笑してるとパーティーのようだと思った。