妄想族さん総合



孤高の花と棘
 作:妄想族


「ふう…」

 智幸は姉が通う大学の女子トイレの個室にいた。別にわいせつ事件になるような行為のためでなく、姉のある計画に基づいて影武者として潜入し、今まで飲んだことのない青いゼリージュースの効果を利用して姉が誘い込んだ敵に憑依するために潜伏していた。
 姉は車で登校し、自分は女装して姉になりすまして徒歩で正門から入る。そして昼前の講義が半分ほど進んだ時間になるまで図書館である程度時間を潰して大教室の側の女子トイレに入る。一番手洗い場に近い個室が乗り移る対象の中林真紀を背後から襲撃するのに最も都合がいいので、無人の間に入り込んでおく必要があった。
 潜入する前から準備しており、脱ぎやすいワンピースから靴や腕時計に至るまで安物で、作戦の支障になれば捨ててもいい品だ。しかも大量に出回っていて足がつかないもので揃えていた。

「浦野さんと隣同士になるって初めてね」
「同じ二女なのに、奇遇ね」
「なめこのペンケースじゃない。育ててたの?」
「始める時期を逃したから…やってないわ。グッズも悪く無いと思って…この色だと可愛くない?」
「女でも黒が似合うわ。浦野さんは特別よ。感性が違うわ」

 はるかは心底嫌う相手と隣同士だった。もちろん休み時間に真紀とトイレにいくための準備で、女子校の頃にもいた一方的に同性愛かそれに類似する独占したい感情を持っているタイプの中でも、独善的で歪んだ執着でしかないから我慢して無理にくっついても正直に頑と拒んでも自分と秀一との関係の障害にしかならないと判断し、壮大な罠にはめる計画を始動させたのだった。 女子校出身なので困ったときだけ甘えて男子に頼るような発想はなく、女子だけで色々やり遂げる習慣が身に付いていたが、秘密の保持のために弟や恋人まで巻き込んだのは正直心が傷んでいた。だが、二人がはるかを崇拝する気持ちは本物であり、二人とも二つ返事で応じたので、はるか自身も我慢して的確な時期と場面の狩場に誘い込まなければと決意していた。
 当の真紀ははるかに会った時は必ず声をかけていたので、彼女がやっと心を許してくれたのだと都合のいい解釈しかしていなかった。
 美形でクールに見えても鈍かったり天然な部分もあるが、ようやくキャンパスライフにも慣れてちゃんと人付き合いしないとダメだと考えて自分を頼りにするようになったのだと勝手に期待をふくらませる。小物を褒めて好印象を得て会話に引きこもうというナンパのようなやり方にはうんざりするし、この日までかなり頭を使って計画を練ったので、教授の話などどうでもよいと内心思っていても真紀に話されるのもうざいので、まじめに講義を受けているふりをしてた。

「やっとお昼ね。学食行くでしょ?」
「…先にトイレに寄りたいんだけど」
「いいわよ」

 特に不審に思われない方法で真紀に主導権を握られることを避けつつ、誘ってこなくても確実に食いついてくると分かっていて、気を使って自分の都合だからと印象づけるセリフとは裏腹に、それとなく自分だけで行くのは嫌だという素振りを見せて、同調してしまう女子の習性を利用する。
 はるか自身は集まってトイレに行く事にあまり意味のあることと考えていなかったが、高校時代も中立で緩やかな繋がりを持つ間柄の仲間とは連れ立っていた。別に必ずそうしていた訳ではなく単に孤立しすぎるのを防ぐための策で、同調しても反論しても得にならない悪口などは適当に聞き流す事にしていたが、今回は警戒心を解かせて油断させるために微塵も好意が持てない上に身勝手な相手に好きに喋らせなければならなかった。
 はるかは秀一と付き合う際に自らの短所も吐露したり、彼の性癖についても尋ねて受け入れられるから親密になって肉体関係で進んだのに、真紀は自分を見つめなおしたり相手の自分と違う部分をを尊重するつもりは微塵もないのが十分わかったので、計画を中止する必要はないとむしろ安堵する。

「いつも学食では会うけど…トイレで一緒はなかったかも…」
「そう? 全然一緒でも良かったんだけど」

 はるかはトイレに入ると、手筈通り智幸が潜んでいる個室の壁を音がもれない程度にノックして扉の下からも靴が見えるようにしてから真紀と離れた個室に入る。わざと隣同士になるのは露骨だし、ある程度距離感があったほうが後でそれを埋めようと熱心に話しかけてくると踏んでの事だった。智幸も姉の合図を確認すると音を立てないように服を脱いで腕時計だけを残して全裸になると、わざとドアを開けてその陰に隠れて無人だと思わせる偽装工作を取る。

「前から思ってたんだけど…」
「どんな事?」
「浦野さんだから、言うんだけど…」

 はるかが実は排泄してなく、弟が短い距離で背後から覆い被さりやすい位置を確保するために早く個室から出てわざと蛇口から水が出てるのをアピールしたりしてると、真紀はせっかく二人きりで話す機会なので多少早めに個室から出た。
 内心ではトイレまで男みたいに早いと感じていたが、親密になれば世間知らずな彼女に対して団体生活や組織内でうまく渡っていく方法に長けた自分が言って聞かせたいと考えていて、そのとっかかりが得られたと思い込んでいたので、入った時に使われいた個室が空になってることなど歯牙にもかけておらず、立ち止まって一瞥したり実際に入ってあちこち見ようなどという発想もなかった。彼女ははるかの隣の洗面台に来て蛇口の水で手を洗うと、自分ではソフトと思ってる口ぶりで喋り始める。
 それははるかの予想通り、興味が湧かない上に異なる意見に微塵も配慮されてない中身で、チアリーディング部は米国では高校のスクールカーストの段階では極めて上位に属するのだという自らが属するサークルの自慢に始まり、秀一とよく一緒にいるけど顔や体格からして彼氏に相応しくないし、どうせ将来性にも乏しい男と斬って捨てる一方で、はるかは優しすぎるので後輩だからと面倒を見てやって誤解させないように気をつけたほうがいいと上から目線での忠告を与える。さらには、胸が大きすぎるのはバランスが悪いし痴漢にあったりしやすいなどデメリットを強調した挙句に運動して筋肉をつけて脂肪を減らせば胸も程よいサイズに収まって服も選びやすくなりボーイッシュにもフェミニンな感じにもなれるという自分の願望を押し付け、人間性でも勝ってると自認する彼女は苦言の後は飴として、自分と仲良くなれば合コンに参加させてやる。そうしたら美人だから他校の体育会系で将来性のある男と付き合えるとノンケには受けるであろう餌をちらつかせて締めくくろうとした。
 だがその瞬間、自信の根拠にもなってる身体能力と反射神経の片鱗が我が身に迫ってくるであろう異変を察知する。

「見て!浦野さん、鏡に何か」
「はるかでいいわ、この…」

 幸いにして真紀には格闘技や武術の経験はなかったので、とっさに反撃することもなかった。そして彼女に取っては空間のゆらぎとも蜃気楼とも見える物体が自分の体に入ってくるような感覚が全身に伝わってくると驚愕のあまり悲鳴を上げることも出来ず、硬直したまま10秒経ってしまう。
 きっちり10秒過ぎるまでにかすかに目が動かせたので、広がる悪寒の中で瞳だけをはるかに向けて必死で危機を訴えようとしたが、われ関せずといった様子ではるかは背を向けていた。

「クサレバカ女」
「きついな、姉さん」

 真紀は完全に智幸に憑依されていた。振り返ったはるかが真紀に対して笑ったのも、中身が弟になったと確信したのと、計画の五割が成功したからだった。

「服と靴は処分しといて。下着はこの子…クサレバカ女のカバンに入れておくから。それと秀一くんからのプレゼントも」
「最後の餞別って訳?とんだプレイボーイね」
「違うよ、最も危険な罠さ」

 智幸は脱法ハーブのパケ袋を持ってくると、カバンと靴に入れた。秀一は真紀が陰で自分を見下してそうな事は分かってたし、特に体育会系をよく思ってるわけでも男女問わず活躍を望む気もなく、学内の無気力や無名レベルゆえの諦めとも映る空気が自分のリア充ライフにはぴったりと思えた上に存在感のあるサークルに所属する彼女が恋人にとって好ましくないものなら共に戦う覚悟があった。
 初めての暗闘でも手抜きはしたくないので、意を決してややガラの悪い街のアダルトショップで購入していた。店からすれば単なる根暗な若者にしか見えず、一度しか訪れていない上に満足に言葉も交わしてない秀一が記憶に残る客になりえるはずもなかった。

「さっさと消えて、あんたが戻ったらちゃんと迎えに行くから」
「確かに姉さんとはまるで吊り合わないキャラだ。人というか動物だね」

 はたから見ると性格の悪い二人にしか見えないが、姉弟は美形だしそれに見合う美意識の持ち主であった。動物と評した女の顔を鏡で見ていると、智幸は幼い頃に女っぽいとからかわれたことを思い出す。それは勉強では勝てない同級生が中傷するために言い出したことで、下町の家庭なのに母親がPTA役員になれたのをいいことに威張っていた少年だけでなくその尻馬に乗って一緒にからかってきた女子が真紀のような顔と印象の少女だったと追憶する。
 姉は素知らぬ顔で学校から出て近くにある喫茶店で食事をし、敵に乗り移った弟は学内でも印象操作をしようと企んでいたが、昼食の時間なので歩いていても無礼や下品で恥じらいのない仕草を晒す機会に恵まれず、結局道につばを吐いたり男の近くを通る時にわざと下着のずれを治す仕草をする程度しかできなかった。姉と正反対の方向に進んで近くのコンビニに入ると、煙草を買って店の間でしゃがんで出入り口の方に尻を向け、一本だけ適当に吸うとすぐ立ち去る。
 ネガティブな気持ちで憑依していても地黒なので日差しに強かったり歩いているだけでも持久力があるのが分かって、小学校まで歩いて行くと周囲で塀から中を覗くなどの不審者ぶりを発揮してから更に歩いてパチンコ屋まで行くと、駐輪場の中でも端っこに放置されたカゴが歪んでカギも壊れている自転車に乗ると駅まで急いだ。駅の側のレストランの駐輪場に自転車を乗り捨てると駅まで歩いて今では少なくなった公衆電話から秀一を呼び出す。

「ゲス女にはゲスキャラで向かわないと…」

 秀一は先に駅前に来ていて100円ショップで買った整髪料で髪型をオールバックに変えて伊達メガネをかけ、オラオラ系の服を扱ってる店で知性もセンスも感じさせない派手なだけの服を買ったのを着て智幸が憑依してる真紀のいる駅に向かう。

「遅いじゃん!あたしなんてぇ、急いできたからノーブラよ」
「こんな所で出すなって!そういやよぉ、パチンコで大負けしたからカネねぇんだ」
「カネならあるわ、このあいだぁ、AV出たから!今度は集団逆レイプ物」
「また顔にもモザイクかよ、消しはマン○だけでいいだろ」
「無理に決まってんじゃん! これでも大学のチアリーディング部よ」
「ところでよ、作品はもう店に並んでるのか?」
「これから行くトコロっしょ」

 周囲からはよく聞こえる割に中身は下品な会話と紙幣のやりとりであったが、両者には印象操作以外にあるメッセージを含んだフレーズで、はるかがアマーラと呼んだ計画の第一段階が無事に終わったことを告げていた。
 そのまま二人で快速に乗って場末の街まで行くと、駅を出てタクシー乗り場に行くとタクシーでラブホテルが多い一画に向かう。ホテル内での行動こそはるかがミシェルと名付けた計画の本丸と呼べる段階で、今や餌食でしかない真紀の全裸やハメ撮り画像を撮影して一部は彼女自身のスマホから拡散させるものだった。

「秀一くん、臭かったらゴメンね」
「ユキさんのせいじゃないですよ。シャワー浴びます?」
「何かとガサツっぽいカラダだからあちこち緩んできたら困るわ。撮影があるし」
「この女なら豪快な屁とかしてそう」
「昼食は取ってないから大丈夫。ガスの元がないよ」

 一部の男子学生からは健康的な美貌に見えても、二人にしてみればはるかに遠く及ばないし、引き締まった肉体もよくムダ毛が処理されていても少し気を抜くと股と口が開きっぱなしで生まれついての優雅さや上品な色気がなかった。
 顔にも気のきつさが出ていて、万引きや援交に手を染める女子高生のように可愛げのない生意気さとサディスティックと言える程の威厳も特徴もない無礼さが同居して、顔面偏差値の足を引っ張っていた。乙女という言葉はまず似合わないし、オーラの欠片もない若いだけの女で、性的興味でなく下卑た好奇心と計画を完遂させる義務感が支えていた。

「服はどうします?」
「正直ありえないセンスね」
「帰りは持ってきた服と変えるんですか?上だけで良かったら俺が買った服でも」
「買ったのはここに捨て置かれるガワ女用よ。飛んだり跳ねたりしなくても、男どもの視線を釘付けよ」
「優しいんですね」
「あまりに陰湿すぎたら女同士のトラブルって線でいろいろ調べがはいったら、姉さんにもその手が伸びると迷惑かかるじゃない。警察が動かなくても、暴力団を頼る場合だってある。姉さんの学校のOBにいるらしいわ」
「それは困るね」

 女を使い捨てにするというヤリサーや暴走族と大差ない行為であったが、残酷な実行力を発揮する前にここまでたどり着くまでのプレッシャーなど積もり積もったものを発散させるのとよりエロい絵を撮る為に性行為に及ぶことにした。

「残念な胸だね」
「なまじ中途半端にあるから結構ケアされてるのが妙にムカつくわ。だから、駅のトイレで無駄に重くて厚みがあるブラ捨ててきたの」
「そういうのが美乳とかいう連中がいるから笑える。まだ熟女のタレパイのほうが挟めるからありがたいよ」

 智幸が手中に収めた女体の服を脱ぐと、ノーブラなのですぐバストが見える。形は良いが名の知れたAV女優みたいに、乳輪や乳首は色・形・サイズのどれも美しいとは言えなかった。

「秀一くん、いつもそこにたどり着くわね」
「80センチ台が許されるのは成長期までさ、大人の女体なら90は越えないと」
「姉さんは軽く超えてるからね、そこも魅力的だと思う。この女はきっと毛は濃いな」
「絶対剛毛ですよ」
「これは…」
「お風呂に女性用シェーバー…あったよね」

 秀一は十分なサイズがない乳房のくせに題名に巨乳と付いてるDVDに出てるAV女優が、胸を寄せて男性器を挟む際に乳房をギリギリまで押し付け、それでも足りないと指を伸ばして浅い谷間から男根が零れないようにホールドしてパイズリするマニアを苦笑させる光景を思い出す。
 アンダーヘアは二人の予想を裏切らず、範囲よりも密度がすごくて秀一がドン引きして智幸が剃ることを提案すると、秀一は使い慣れない女性用シェーバーを使って陰毛をすべて剃った。パイパンにしても、割れ目からビラビラがはみ出しており、細部までデリヘルならチェンジにするしかないと思える女体だと感じる。
 メインはハメ撮りでも、まず用意した安くて薄いデジカメの調子をチェックしようと、まずはソフトなヌードから撮ろうとした。だが、形の良い胸よりパイパンでやや濁った色のビラビラがはみ出した女性器を撮らせようと指で割れ目を開くと、あっさりと物欲しそうなまでにすぐ開いたので智幸は自分の体でなくてもその品の無さに恥辱を通り越して笑ってしまい、不思議と裏本を思わせるチープさを持った画像がSDカードに溜まっていく。

「この手はポンポンを振ったり厚化粧の筋肉女を持ち上げたり支えるのに使ってるから、手コキはそこそこだと思うよ」
「手は使い過ぎないほうがいいですよ、ビッチぶりをアピールするのにアヘ顔ダブルピースがばっちりじゃないと」
「カメラマンと竿師を一度にこなすのは大変だね。ボクはこの女らしくバカっぽく乱れたらいいから楽かも。鏡に写ったのを見たらさすがに萎えそうだけど」

 もし姉がこんな顔と体なら自殺したいと思った智幸も、本来の体の性器よりも大きな秀一の巨根を大きくしてイカせる術は知っていたので、好意を持てない外見というハンデをも補えると信じていた。
 結局行為そのものは体の相性はよくないので、口での愛撫の前にうがい薬を使うのに始まり、指が三本入るまでほぐしてグチュグチュにするのに時間がかかった一方で巨根を受け入れたからでなく処女だったせいで血が出た。美しくもない体でしかも鈍痛を味わう羽目になった智幸を労ろうと陰核に触れると、自慰を良くしてたせいか大きくて意外と鈍感なので雑に触っても痛まずに刺激が快感に変換された。
 別に膜を破ったからといって名誉に感じることもなく、膣の感触もきつい割にヒダが少ないのか濡れやすい割に刺激が乏しかった。肉壷としては深みがない名器とは逆の粗器で、美しくて名器のはるかに比べたら安物のオナホのレベルであり、感じ過ぎないのでハメたまま撮影するのも容易となり、秀一は撮りたかったアヘ顔ダブルピースも撮れてAVのように抜いてからドテに精液をかけた状態でも撮した。

「どうせだから、こっちの穴も試してみよう。こっちもきっと処女だ」
「だったら、ユキさん…また痛くないですか? 訓練されてないケツですよ。快楽の追求に耐えれるかどうか」
「軽く麻痺させるチューブを持ってきてるから大丈夫。それよりこっちはスキンを使ったほうが秀一くんのためだ」

 誇らしい体でなくても、デジカメが自分の方を向いて光と作動音をさせてるだけで、愚かで破滅的なのに本当の自分は完全な安全圏にいるという矛盾してるからこそ得られる快感が沸き起こり、膣に指を三本入れたまま軟膏で入り口の感覚を鈍くしてスキンをした巨根を受け入れる。
 アナルは女装子やシーメールの方が快感に加えていい反応が得れるとの先入観に反し、真紀の前が粗器なのに対して後の穴は高いオナホにも劣らない食いつきと柔軟性で秀一の膨張率と腰の動きを最大限に引き出し、二人は昇りつめる。
 ゲテモノの旨さという表現がピッタリの経験をした二人はしばらく心地良い疲労感に身を任せていたが、智幸は真紀の体を装飾して彼女のスマホで撮そうとサニタリーでタトゥーシールを下腹部とヒップより少し上に貼って自画撮りをし、スマホのメール送信履歴とメールの文章とデコメの特徴を掴むと悪ノリした感じの一文を書いて自画撮りの画像を添付して送信する。
 小さなタトゥーの為にわざわざ全裸という非常識さもドン引きを誘発して拡散の可能性とタトゥーを本物っぽくさせるインパクトを計算に入れての事だった。


「ユキさん、もし戻った瞬間にクソ女が目を覚ましたら後ろ蹴りか目突きですよ」
「暴力は好きじゃないさ。急いでトイレから飛び出すからスプレーを持ってて。もし追ってきたら目に浴びせて押し戻すんだ。そして、ドアに寝かせた椅子を置いてから大急ぎで出よう」

 二人はゼリージュースの効果が切れた際に真紀が瞬時に反応してこないか危惧し、対策を練ってから智幸は用済みの体でトイレに入る。
 警戒状態の秀一に対して静かに出てきた智幸を見て秀一は安堵すると、スプレーを捨ててすぐドアの前に椅子を置いた。智幸がドアをあける時にチラ見したときは、真紀の体は便座にうなだれて大股開きで完全に脱力した状態だった。
 頭の回転の早い彼は、真紀が目覚めたとしても全身に巡る疲労と脱力感に加えて膣とアナルを巨根で押し広げられた感覚、特に後の穴からは痛みが押し寄せてくる上に、全裸で空腹、何よりも見覚えのないトイレというまるで理解できないシチュエーションと、現実感がまるでないことに加えて記憶が途切れているのだ。混乱の極みですぐにトイレを出ようとする気力も湧かないだろうと推測する。
 彼がゆっくり身支度をして女装をしていたのも、バスタオルは全て濡らし、真紀が着るしかない服も扉から最も離れた所に置いておくという仕掛けを用意してたからであった。
 実際に真紀が意識を取り戻して自分のある空間を認識した時、事態が全く理解できなかった。酒は強い方の自分があっさり酔いつぶれる事は考えられないし、今いる場所と学校にいた時と記憶がつながらない上に、何よりトイレの外に誰がいるかも分からない状態で全裸で出るのは危険だし、もしも外に数名の男でもいたらと思うと恐怖に体が震え出す。
 それでもトイレットペーパーを体に巻いて恐る恐るトイレを出ると、そこがラブホテルであることを認識しつつも室内にきわどい服があるのを見つけ、恥ずかしさを堪えながらもそれを着た。そしてようやく少し落ち着きを取り戻すと電話でフロントに連絡しようとした。だが電話線のプラグが抜かれて連絡がつかない事に気がつき途方にくれる。それでも気力を振り絞って更に室内を探すと、カバンを見つける。中に入れておいたスマホを使おうとしたが、急に扉が開いて清掃人と鉢合わせになってしまった。
 最初はびっくりされるが、手違いで部屋に残されたデリヘル嬢か何かと思われ、彼女は部屋から追い出されてしまった。
 灰皿にアルミホイルで作ったパイプがあるのを見つけた清掃人の態度は邪険になり、露骨にラリってると思われて何を言っても相手にされなかったので、真紀はなんという街にいるかすら分からないまま気がつくと外にいた。
 一方あらかじめ自動精算機の側に置いてた料金で手早く精算した二人は、すぐ部屋を出て階段を降り、颯爽とラブホを後にする。
 入った時と出た時の人数は変わらないし、智幸が真紀の服を着てるので監視カメラに写っていても微塵も疑われる理由はなかった。ホテル街の一角から歩いて私鉄まで行き、電車で彼らの町に戻ると、歩いてはるかが車を止めているファミレスに行って合流する。
 二人で車に乗り込みと智幸は狭い中で服を着替える。それが終わるとカマロは走りだす。

 車が駐車場を離れた頃、真紀もチアの衣装より小さくてギリギリ露出でなく羞恥プレイに収まる服装とかなり経ってから気づいたタトゥーシールがついた姿でどうにか女子寮までたどり着くと、奇行を示すメールは既に寮全体で噂になっていた。自室に入る前にもみくちゃにされた時に脱法ハーブの入ったパケ袋が落ちる。真紀はすべてが終わったと悟った。まるで身に覚えのない事なのに、汚名しか値しない愚行で、サークルも学校も親もただで済まさないだろうし誰も助けてはくれないと感じて絶望の涙を流す。
 特に衝撃を与えたのは後輩たちの蔑む視線で、指導の名を借りて特に辛いことを強いていた明らかに自分よりかわいい一女は、部員としての自覚を説いてきたのに明らかに矛盾する行為をした裏切り者と批難した。


「はるかさん、もう噂は広がってる?」
「早いものね、処分の話まで伝わってきたわ」
「苦労した甲斐があります」
「本当に感謝してるわ」
「まるで三銃士みたいです」
「あの子が二人分ね、頭脳明晰な参謀役の智幸と妖しい魅力を放つ潜入と変身の達人のユキってね」
「結束は…固いです」

 次の日の昼休みに、一部では沈んだムードのある学内で二人は楽しそうに話していた。

「秀一くんのお陰で、あのクサレバカ女がいたサークルも活動停止になるらしいわ。いい気味ね。一番学校に協力してるまじめな女ですって態度が気に入らなかったわ」
「久しぶりに図書館に行きませんか? おもしろい写真集があるんです」
「無修正よね? 有害図書じゃない。悪趣味ね」

 せっかく中退が決まった彼女の顔どころか自分より小さい胸や、命じたこととはいえ恋人の巨根を咥え込んでる画像を見るのは不愉快だったので、はるかは眉をひそめる。

「でも、なくなってるかもしれませんよ。他の場所にも紙媒体外にCD-Rにも焼いたのを文化系サークルの人の目にとまるようにもしてます」
「だったら意味ないじゃない。今ならあんなのでも勃つって言いたいの?」
「断じて、皮肉のつもりでは…別に公衆便所に未練なんかないです」
「わかってるさ、計画を練るのが忙しくて…君とのエッチを忘れてたよ」
「じゃあ、午後から…」
「何度も抜けるもんじゃないわ、ちゃんと午後の講義も受けてからよ。一応学生なんだから」
「リア充のです」
「そうね」

 秀一が人懐っこい笑顔を浮かべると、はるかもつられて笑った。