妄想族さん総合



一卵性母娘
 作:妄想族


「まったく、あの子は」

 秋江が朝から出かけている娘の部屋に入ると、室内は相変わらず散らかった様子なので、まず脱いだままの服を洗濯機に入れると、改めていつものように床を掃除しようと掃除機を持って再び部屋に入った。

「あの人が甘いから」

 娘が出かけた理由は既に分かっていた。高校を卒業すると芸能界に入ると言い出してダンスや歌のレッスンの成果を試すべくオーディションを受けるも、顔立ちや髪型が中性的だったり、グラビアにしても巨乳は合格でもロリ顔でないし年齢の割に大人びていたりと素質はあっても売り出す側には都合が悪いキャラと判断され、どの事務所も不況の中で賭けはできないとスルーされて落ちてしまう。
 もっとスタートが早かったり本人に柔軟性があれば脈はあったかもしれない。だが、限られた期間でチャンスをモノにできなかった為にすっぱり諦めたのだ。そしてやることがないので進学を決意したり車の免許を取りに教習所に通った。
 とは言え、満足な志望動機もないしモチベーションも低いので、いい大学に合格することもなく簡単に合格できる所に入っていた。車の運転は若い女性とは思えない才能と飲み込みの早さでコースはストレートで検定に受かって路上だけ運が悪い時のみ補習を受けるに留まった。

 免許取得後のマイカー購入に際して、成績の良い長男ほどには期待していない娘には、最初に乗る車は練習用ぐらいにしか考えておらず、中古であまり人数を乗せるタイプでなくて予算は百万円までとだけ条件を出し、母親の秋江は放置していた。
 娘のはるかのほうも、長男の智幸に両親の期待と注目が集まってるのを知っていたので、条件に合致する中で同世代の女性とは一線を画した好みと要望を盛り込んだ車を勝手に買った。
 父親は少し驚いただけで済み、秋江は娘がアメ車のしかもスポーツカーを買ったのには仰天したが、99年式のカマロはV8エンジンでもないし排気量も3.8リッターに留まるのでマッスルカーとは呼べず、名目上は父親のクラウンマジェスタより小さいので文句は言えなかった。

「女の子なんだから、せめて赤にすればいいのに」

 高級住宅地に居を構えているので付近では外車は珍しくなかったが、大半がドイツ車でシルバーメタリックのスポーツカーは極めて少数派だった。
 ナルシストの傾向があるはるかは部屋に何枚もの写真を飾っているのだが、購入時のサービスでアメ車専門の中古車屋で撮ってもらった写真も個性的で、車の前で星条旗の柄のビキニとスキニージンズというどこか東海岸の白人娘を意識した服装だった。
 購入以来メンテナンスを頼んでいる店では男女問わずスタッフには好かれていたが、母親はもっとお嬢様らしくして欲しいと願っていたので内心眉をひそめていた。

「飲み物も、机の上に置きっぱなしにして」

 秋江は早く掃除を終えて近所の友達の家に行き、車に乗りあわせてデパートに行きたかったので手早く済ませた。しかし、ペットボトルに入った紫色のゼリージュースが視界に入ると、葡萄を含めてフルーツ全般が大好きな秋江は、冷蔵庫に入れるより飲んでみたい欲求にかられ、蓋を開けて飲んでしまった。
 ペットボトルが空になると、ゴミ箱の中身も気になったので、ゴミ箱の方向を振り向くと、再び娘と愛車との写真が視界に入り、ついそこに写った娘の姿を見てしまう。


「あれ、姉さん、車だけ預けてきたの?」
「え?智幸…」

 部屋のドアは開いたままだったので、部屋の前を通りがかった息子が話しかけてきた。しかし、知的でまじめな息子が妙な冗談を口にするはずもなく、秋江は困惑する。

「自分で掃除なんて珍しいね。でも、服装がなんだかババ臭いよ」
「ちょっと!レディに向かって…あ、れ?」
 秋江は息子に注意しようとしたが、視界の端にドレッサーの鏡が入っると、そこに写っていたのは自分ではなく娘の姿だった。

「レディをお待ちかねの人との約束、覚えてる?」
「えっ!?」
「午後から、秀一くんと会うんでしょ?」
「でも…」
 訳がわからないまま娘の姿になって家の外に出るなど考えられなかった。
「母さん、もう友達とデパートに行ったみたいだから…父さんに駅まで送ってもらったら?」
「そ、そうね…」
「デートなんだから、服も変えなきゃ」
「で、デート?」
「しょうがないな、僕が服を選んであげるよ。鏡の前に立ってる時間が長い割に選ぶの遅いから」
 結局息子に言われるまま着替え、夫が運転する車で外に出ることとなった。


「……」

 待ち合わせ場所も分からずうろつきつつも、今の自分が顔だけでなく腕とウエストも細くなっていて年齢が出る首元も完全に若々しくなっている事を、秋江は素直に喜んでいた。
 胸は垂れてしまっていてもまだまだ娘に負けてないつもりだし、ヒールの高い靴で身長も近くなっているので一応娘を演じきるつもりでいた。
 秋江が若い頃は娘のように髪が短くクールでアバンギャルドなタイプでなかったのだが、別の一面を見せるという形で恋人に違和感を抱かせない作戦に出ようと画策していた。

「はるかさん!」
「…ふっ」

 娘に恋人がいる以上は直接会って確かめたいという親としての思いもあったし、純粋に若い異性に関心があった。普段は自分は昭和生まれの保守的で厳格な熟女にしか見えないのだから、じっと見るのもはしたないと思いつつも、息子よりずっと若い少年も見ていたし、娘と同世代の若者も観察していた。
 目の前に来た娘の恋人は、背は低いものの学生に多い遊びまくってるタイプでも暑苦しい男でもないので、娘の男を見る目はぶっ飛んでいないと安堵する。理性を総動員して微塵も赤の他人との遭遇とは感じさせない落ち着いた表情で応じた。

「やっぱり、クールだなぁ。ロングスカート似合っているよ。ところで、車の気になる部分は直るのに時間かかる?」
「いいじゃない、そんな事。それより、私の運転はどうなの?左ハンドルだし」
「最初は…驚いたけど、ハンドルは左でも助手席に俺がいるから不便しないじゃん。それより、V8でマニュアルの方が早くていいって言ってなかった?」
「そっ、それは…その方が男の子は好きなんじゃないかなって思ったから…もっと、女らしい所は見てくれないの?」
 秋江は運転技術について尋ねたつもりであったが、望んだ情報も得られず興味のない話題を振られたので、あえて秀一がどこまで男として成熟してるか試す。

「そうだね、男は確かにメカも好きだけど…一番はおっぱいかな。でもデカくなくちゃ嫌だな。Gカップ以下はブラをする意味が無いってエライ人が言ったそうだし」
「あなた、シラフで言ってるの?下品ね!昼間の往来で堂々とデカパイが好きとか」
 本物のはるかなら一緒に軽口を叩く内容でも気位が高くて保守的な秋江には通じるはずもなく、説教する。

「そこまで言ってないよ。はるかさんこそ、素直なのは良いって言ってたのに。チビで胸が小さい女は嫌いだろ?オーディションの時に邪魔されたって」
「そういう事は二人きりの時だけでいいの!年下だからって甘えないで」
「ユキさんとは一歳差だけど、はるかさんとは二つ離れてるし、美しいゆえに苦労してることも知ってるつもりさ。俺はアイドルでなくともはるかさんのファンだし」
 はるかが愛車の調子が思ったより悪かったので機嫌が悪いのかと推定した秀一は、気を使うことにした。

「当たり前じゃない、あの子は男なんだから」
 秋江は自分が生んだ姉弟の秘密を知らず、当然智幸と秀一の奇妙な繋がりも知る由もなかった。
「おっしゃるとおりで」
「今日はどこに連れてってくれるの?美術館?それとも恋愛映画?」
「水着見に行くって、前言ったじゃん」
 秋江は若かった頃の夫とのデートを思い出してプランを口にするが、秀一はあらかじめ決めていたプランを提示する。

「ああいう水着はもう嫌よ!もうアイドルとかグラビアの夢は捨てたんだから!」
 秀一が娘をおかしな方向に向かわせないように激しく制した。
「え?競泳水着だろ」
「そ、それは知ってるわよ」
 結局二人は商店街に行くとスポーツ用品店に入る。

「スクール水着ってのは嫌ね。私は胸だってちゃんとあるんだから、このボディに似合うのじゃなきゃ」
「これなんかどうかな?」
 秀一は定番の黒や青をベースにしたものでなくやや派手な赤を選んで勧める。
「いいわね。黒くてゴツゴツした身体じゃないから…彩りがないと」
「水の抵抗が少ないだけのボディより、スタイリッシュなはるかさんの方が断然いいです」

 スポーツではなく茶道や生花をしていた秋江は、女性アスリートはおろか体育会系すら理解の外の存在で、娘もスポーツに入れ込まなかったからこうして恋人もできたと思っていた。異性に対しても野球部やラグビー部に入ってた夫のいる家庭の居心地の悪さが主婦仲間の間で轟いていたので、秀一がそんなタイプでない事に好感を持っていた。

「キャップと水中メガネはいいの?目的は何?」
「桃色スプラッシュみたいにヌルい水泳部ごっことかおもしろいかなって。はるかさんだって女子校はつまらなかったっていうから、こういう遊びもいいんじゃないかな」
「ブルセラ趣味ね。ところでこれを着て欲しい場所は決まってるの?」
 コスプレという単語が思いつかない時点で熟女丸出しであったが、中性的な娘がちゃんと異性を意識してるとのアピールを忘れなかった。

「まだそこまでは…シーズンオフだし、そもそも海やプールでは気合が入りすぎて見えるのが難点…」
「押しが足りないわね! いつまでも、おっぱいや水着マニアとか言ってたら子供のままよ」

 秋江はコンビニで買った雑誌からラブホを探すという古典的な手段でプールのあるラブホを調べ当てると、秀一の手を引いてタクシーに乗って向かう。秀一は一緒にタクシーに乗ってる女性が二歳どころかその十倍は離れているとは夢にも思わないので、熟女の苛立ちではなく、いつものようにカッコ悪さや直感より形式を優先したことへの反発と受け取って黙っていた。


「あるもんですね、プール付きの部屋って」
「知らないの?こういう所は大人の遊園地っていうのよ」

 娘は中性的だし、秀一は見た目は草食系だしギラついた部分を見せない。二人が一線を越えてない可能性もあるし、年上である以上はリードして肉体関係に持ち込めば内面の女らしさが足りなくても進展するのは確実という親心と、秀一が性的に成熟してるのか性癖を確認し、場合によっては振ってしまう腹積もりだった。
 純潔より年下の男に大人の女であると示す事を重要視するという、そんな老獪な熟女の企みも知らずに秀一は素直に感心していた。

「着替えてくるわ、御行儀よく待ってるのよ」

 ゼリージュースの力で娘の姿に変身していると知らない秋江は、もし服を脱いだり濡れたりしたら、魔法とでも認識するしかない状況がいきなり終わらないか不安だった。だが子供を二人生んだ経産婦だけあって腹が座っており、楽天的にむしろヘアがはみ出さないか気になしていた。

「ちょっと小さいんじゃない?パツパツで他の部分がむくんでるみたいに見えるじゃない」
 老いたままの下半身をごまかすために予防線を張りながら秀一の前に出る。
「横乳も最高です、はるかさん」
「私だけ不公平じゃない。貴方も脱いで、全部」
 赤い競泳用水着を身にまとって出てきた秋江は、女が主導的にホテルに連れ込むという異例な行いに対する代償を得ようと秀一を裸にする。

「うふっ、それを目にしたら甘いルックスも口説き文句も無駄に思えちゃう」
 秀一の大きなモノを目にすると秋江が抱いていた年下の男に対する物足りなさは瞬時に吹き飛び、牝としての期待が膨らむあまり抱きついてキスする。見栄すら張らなくても車を持っていなくても許せるとすら感じていた。

「プールに入ろうか?盛り上がってきたし」
「私だけのプールよ、この滾るハートを冷やすにはこれだけの水がいるの」
 秋江は自分でも意味の分からない表現で、なし崩し的に水中でプレイに至る可能性を排除した。

「自分だけずるいよ」
「子供みたいなこと言わないで、冷たい水に入ったら縮んじゃうじゃない。そんなの、もったいないわ。立派なままでいて欲しいの」
 興奮してるのを悟られないように手摺を使ってセクシーな動きで水に入ると、背泳や平泳ぎといった髪が濡れない泳法でバストとヒップをアピールする。

「見て、バスルームの壁…ガラス張りね」
「ホントだ、マットもある。ローション買おうか」

 秋江は水から上がると秀一と手を繋いでキス以上のことをしようと意思表示した。ソープランドにあるようなマットとイスの存在も行為はベッドの上でのみという固定観念を打ち砕き、秋江は彼のために水着を完全には脱がずに及ぼうと決心する。


「たまには…こういうのも、ねえ」
「きょうのはるかさんはいつもより包容力があって…」
「歳上なんだから、当然じゃない。恋をすれば、女は変われるの」

 はるか以外の女性との経験のない秀一は恋人と熟女の膣の差がはっきりとは分からず、コスプレと風俗で見られるアイテムの効果で盛り上がりと新鮮さを楽しめた。秋江は浮気と娘の彼を寝取るという二重のタブーと若い巨根に興奮して最後には夫に抱かれた時よりずっと燃え上がった。

「どこ行くの?」
「ちょっと、ご不浄」
 服を着始めた秀一に対し、秋江は身体が冷えてきたせいかトイレに行きたくなってそのまま向かう。

「ひぃっ!」
 このまま一昼夜は娘の顔のままと根拠もなく思っていた所に、排泄したとたんに体の感触が歳相応に戻っていくを感じるとともに鏡を見たら完全に戻っていたので驚愕とする。

「はるかさん?」
「気にしないで!先に出ていて。もう帰っていいから」
「遅くなると、門限に間に合わなくなるよ」
「いいの、このままじゃ…カッコ悪くて出られない」
「じゃあ、先に行ってるよ」

 秀一は楽しませてくれた相手に恥をかかせるわけにいかないので、おとなしく先に部屋を出て帰路につく。娘の顔でなくなった秋江は、身支度を得るとコソコソとホテルを出て駅前のショッピングセンターで適当に上に羽織る服を買って家を出た時と少し違う服装で家に戻った。
 本来デートに来るはずだったはるか本人は、車のパーツ交換をされている間にたまたま会った同じシボレーの女性オーナーと意気投合して、郊外にあるレストランで食事してから帰宅していた。