妄想族さん総合



ゴリ押しLOVE
 作:妄想族


「あの、仁科さん…」
「要するに、告白したいけど成功させる自信がない…って事やな」

 仁科詩織はクラス委員だった。別に彼女が望んだわけでなく、部活に入ってるわけでもないからと教師が推してきたのと、僻み症の女子からの他薦が合ったから受けることになったのだ。
 親の都合で関東に来て通ってるだけなので学校への思い入れも執着もなかったが、貢献には変わりないので進路にプラスになるのではという淡い希望と、体育会系でも文化系でもないのでしがらみがない分公平とも言える。
 クラス委員を始めてみると、一部の男子からはメガネ巨乳と好かれていたので男子の協力を取り付けやすく、また元からの有能さもあって、陰険で胸が平らな女子に敵視されていても教師と生徒の間に立つ役割を卒なくこなしていた。

「…うん」
「どうしても、ある程度の結果を残したい」
「シビアな意見ね…でも合ってる」

 彼女は昼休みに女子から相談を受ける。目を通していた本の世界史から同世代の色恋沙汰という落差にため息が漏れそうになるが、なんとか表に出るのを抑えて眼鏡の位置を直すと耳を傾けて田井中瑞樹の話に耳を傾ける。

「私と…一心同体になってくれたら、うまくいくよ」
「ついて来てくれるの?」
「もっと徹底したフォローができるシチュやね。もし、信じて従ってくれたらの話やけど」
「手を貸してくれるの?」
「条件付きやで」
「なんでもいいから、助けて」
「じゃあ、まず私が早退するって言うてきて」

 「瑞樹の力になる」と簡単に答えたのも、親が離婚して離れ離れになった今でも慕っている父が母子家庭という不利な状況で言葉に始まって料理の味付けまで違う環境でも不利にならないようにと渡してくれたアイテムがあるからで、運良く空色の液体が入ってるペットボトルが鞄の中にあった。



『トイレの個室に二人で入るって聞いたときはびっくりしたわ』
『人をなんやと思うてるん?』
『だって、いつもあまりしゃべらないし一人でいるから…強気で意地っ張りだって言ってる人もいるし、強引に迫ってくるのかと…』
『悪いけど、この街も学校も将来への足掛かりでしかないんよ。だから、男も女も愛する事はでけへん』

 瑞樹は午後の授業を受けていたが、周囲にはわからない状況で詩織と対話していた。教師ですら彼女は早退してもう学校にはいないと信じている。

『先を見てるのね。それだったら、留学もできるんじゃない?』
『それより、こうやって乗り移る事ができたのにあんまり驚かへんね』
『だって、言うじゃない「奇跡も魔法もあるんだよ」って』
『幸せな人やね。人に言うたらおかしいと思われるで』
『前から仁科さんは普通と違うって思ってたの。だから…』
『ええからノート取って。放課後の準備のために午後の授業パーにしてんねんで』

 瑞樹の発想が一般的ならリセットで生き返るという認識もありうると詩織は苦笑するが、彼女が喋ったり手をつなぐ程度で納得しないだろうと考えていた。

『ほんまに橋本先輩でええねんな?』
『このときめきは本物よ』

 詩織は彼女の意中の人について少しは知っていた。クラブで部長をしてるといっても地域でトップクラスでもないし、家柄も団地で子沢山の例に漏れず兄弟もいるから、贅沢も知らなくてデートもリーズナブルになりがちだし、恋愛はありでも結婚はまず考えられないと詩織は結論付けるが、あくまで瑞樹の考えなので口を挟まなかった。

『ねえ、どういう言葉で思いを伝えてくれるの?色々知ってるんでしょ』
『大体、そこが甘いわ』
『どうして?』
『なんにも分かってない…口にだす前から、相手の視界に入った時点で既に始まってるねんで。アピールせんと…相手がええと思ってる女に勝たな意味が無い』
『もうライバルがいるの?そんなの聞いてないけど』
『男は意識下では既に脱がしてるんや!目に入った時点で!ムカつく女教師は犯してたり…プールの授業ではどの女子の胸が一番大きいとか…そのレベルや。例えパンツルックでも結婚指輪してても、逃れられへん!奴らはそういう生き物や』
『なにそれこわい…視姦ってやつね』
『だから、それを逆手に取るんよ!既にエロい格好なら、逆に脱がせる過程の妄想で満たされる。いわば、おあずけ状態よ。言葉に出す前から半分OKみたいなもんや』

 瑞樹は予想に反するアドバイスに仰天するも、思いが大事などといった抽象的な言葉と違って妙に説得力があるので従ってしまう。授業が終わると気がつくと世話好きのおばさんにいいようにされるような形で、顔はチワワ目メイクとピンクのツヤツヤのリップに髪はスプレーで動きをもたせたスタイルになり、下着もブラウスから透けるような光沢のあるピンクのブラと白地の部分がピンクのゼブラ柄の小さなショーツになって仕上げは赤いプラスチックフレームの伊達メガネを身に着けていた。

『どうして眼鏡かけるの?私、目はいいんだけど』
『分かってへんね、エロ仕様やん。それと、すぐに誰か分からんようにする演出やね。大胆になれて好都合やん』

 買い物から戻って再び学校に来ると、スカートをウエストラインの方で巻き上げてこれまでにない短さにしてブラウスも際どい所までボタンを開けた格好で先輩を探して歩いていた。

『もう部活終わりかかかってますよ、どこも』
『部長が帰るのは流れ的に最後やから、好都合やね』

 おめかしの時に何度か戸惑ったのに対して、制しようと体を動かしたら詩織にも動かせたのでより能動的に楽しめる気がして期待が膨らむ。

「あっ、あそこ!」
『分かってたら、自分で走り』

 瑞樹が橋本を発見したことを告げると、詩織は命じる。

「あっ、あの…先輩、お話が…」
「誰だっけ?」
「それは二人きりで…ね?」

 瑞樹は勇気を出して声をかけ、続けて詩織が色っぽく話しかけると当の橋本は思わず絶句する。

「モテモテだな、おい」
「先行ってるぜ」
「行くぞ、おめーら」

 橋本の周りにいた部員は瑞樹の態度と外見を見るとすぐに気を使って去っていった。

『先輩なのよ、強引過ぎない?』
『ここまで来て白黒つけな、告白する意味ないで!』

「あの…あっちでお話しませんか?」
「え?話くらいなら…」

 詩織は物怖じしない本性は隠して提案すると、橋本は困惑しながらも応じると、彼女は腕を組もうとしたがやんわり断られたので裏の神社までの道のりは自分が先に歩くと予想通り脚とヒップに視線を浴びるのを感じた。境内までの階段もエネルギッシュに跳ねるように登ると、すぐにスカートの中が見えるし、見過ぎるとバレると思ってペースを合わせて真横に来ようとすると振り返って後ろ向きに登って前のめりになって見てくるので胸の谷間が視界に入った。

「もしかして、俺の事…」
「自信家なんですね、そういう所も…素敵」

 橋本がまんざらでもない様子で口を開くと、今度は一旦離れるとはぐらかしながら目を半開きにして見つめる。

「さっきも聞いたけど、誰なんだ?お前」
『お前て、失礼やな。すっかり自分の女みたいな物言いやん』
『いいから、何かいいリアクション考えて!』
『しゃーないな…』
「あなたの瑞樹です。こういうの迷惑でした?」

 詩織は二人に腹を立てながらも、両手で眼鏡を取るとさっきと違って縋り付くような眼差しを橋本に送る。

「べ、別に…女の子だし、ちょっとぐらい無礼なのもいいんじゃないかって…」
「礼は尽くしてますよ、ちゃんと勝負下着です。ほら」
『もう、そういうのやめて!』
『軽い冗談や』
「こっちは本気よ!」

 瑞樹は詩織の態度が自分の印象を歪曲させかねないと怒りを露にすると、心の中の言葉が口をついてでた。

「分かったよ。でも、ここまでする意味があるのか?ロッカーに手紙とかでも…」
「文章…得意じゃないんです。漢字も知らなくて、憂鬱とか薔薇って書けません」
「それは、俺も…」
『いや、どうにかなるもんやね』
『どうしてそこまで呑気なんですか?!』
『見てみ、それとなく周りが木ばっかりの場所に誘い込んでるし…もうなんでもできるんちゃう?』
『いきなりすぎよ!』
『私ができるのはお膳立てまでや。少しばかりイケメンいうだけでそんな事言われへん』
「そんな!どうしたら…」

 詩織がフォローしても瑞樹自身は会話を繋げる事がすぐにはできす混乱をきたす。

「え?」
『ちょっと、助けて!』
『まるで駄々っ子やな』
「もうダメなんです。ドキドキしすぎちゃって。ほら、こんなに…」
「要するに、テンパってるんだな」
「はい」

 あえて弱みを見せたことで詩織は橋本との間隔を詰めて胸を触らせる代わりに腕に触れることに成功する。

「あたしじゃダメですか?!他に好きな人がいてもいいですから」
『あかん!下手に出すぎや!そんな安売りしたら』
「なんていったら…どうします?裏なんてないですよ。先輩の気持ちを確かめたいだけなんです」
『今更、強気?』
「手を離せよ、完全に触ってる状態だし…俺だって訳がわからなくなりそう…」
「どうでした?」
『胸のサイズいくつ?』
『は…88』
『私が88や、見栄張ってからに』
『85…今は86』
『そういうことにしといたるわ』
「普通…ですよね」

 詩織は橋本と瑞樹の一度に駆け引きをして妥当な反応を返す。

「いや、大きいよ…すごい」
『大した、小僧やで』
『先輩よ!』
「唇も…かわいいよ」
『後ひと押しや!』
『分かったわ』
「じゃあ、キスして」

 さんざん下手に出たり持ちあげると、ようやく橋本はその気になる。

「してくれたんですね」
「最初から…そのつもりで、俺に声かけて来たんだろ?」
「ねえ、覚悟はある?一度に二人相手するぐらいの」
「何だっていいよ。頼む、俺もうこんなに…」
「素直なのね、かわいい…」

 詩織は稚拙なキスに呆れてため息が出そうになるが、瑞樹はメロメロで固まってしまって言葉も出ないようなので詩織はうまく受け身を装って仕掛けさせ、濃厚な愛撫で圧倒してすぐに主導権を握り、彼のキャパシティの限界まで引き出そうとする。



『いいの?あんな状態で放っておいて』
『変に同情したら逆に失礼や。あれはあれでいい気分やからそっとしとけばええ。普段下半身マッパで地面に大の字とかそうはでけへん』

 瑞樹は学校の裏から学校を目指して歩いていた。

『男の人ってあんなに出せるんですね』
『回数としては大したもんやけど、早いな。部長の貫禄もあったもんやない。童貞やな、どうせ』
『仁科さんがすごすぎるんです!まるでプロじゃないですか』
『その手の動画の通りにしただけや。小悪魔とかビッチとかついたのに弱いのがおる。処女丸出しでは楽しまれへん』
『どうして分かったんですか!』
『入った途端に泣いたりしてみっともない。今も歩き方変やで。きゅっと股閉じとかんとからかわれるで。女は骨盤が広いねんから、平気や』
『何から何までフォローしてもらっといて、悪いんですけど…そろそろ、体から出て行ってもらえません?』
『トイレで入ったんやから、元に戻るのもトイレや。それより、コーヒーおごってぇな』

 校門をくぐっても二人は脳内で対話していたが、自販機の前で立ち止まる。

『ちょっと苦いのにも慣れてきたから、ブラックもいいかも。もう大人だし』
『あかんで!あんな苦いのよう飲まれへん』

 硬貨を挿入して両者はコーヒーの列では一致したが、詩織が急遽押すボタンを変更させた。


「本当にお礼はノート見せるだけでいいの?」
「さっきもコーヒー貰ったし」
「あれはあたしの体で飲んだんだし」
「舌を通して感じたからええんよ。それと、並レベルの棒でも楽しかったで」
「仁科さん、恋愛教授超えて性のカリスマだし」
「あれくらい絞っといたら、一度やった程度で俺の女とか軽々しく言い出さへんやろ」

 詩織が精神同居から元に戻ると、二人は学校を後にする。

「相談なんだけど、今度は後輩なんてどう?きっと初々しいはずよ。さんざんかわいがってなつかせて、後は友達も連れてこさせて乱交とか」
「あほう」

 瑞樹が何かに目覚めたかのように語りだすと、詩織は呆れ顔でため息をついた。