『いつもの木』
作:風露


雨が降る。
いつもの木の前で。
私はみかんを待っていた。

ずっと続くと思っていた。

立ちよった放課後。
会いたくないって聞かされて。
私はみかんの部屋の前。

壁に近づく。
「さくら」
声がする。

みかんの部屋から声がするけど。
怖い。
聞きなれた声じゃなくて。
だけど。

雨の音が響く。

みかんは何も言わない。
私は何もできない。
「けど」
いっしょにいることはできるから。

手を壁に当てる。
中にいるのはみかんだから。
だから。

手がふんわりする。
あたたかい。

みかんだ。
手を合わせてくれている。
向こうにいる。

もっと、君といっしょにいたい。
ずっと、君といっしょにいたい。
壁に身体を預ける。

私たちはいっしょに寄り添う。
「いつも」
みかんはつぶやいた。


外に出る。
すっかり、晴れていた。

私は知っている。
君は来る。
空はとても、瑞々しい。

お日さまをたっぷり浴びて。
葉で露を弾いて。
花が咲いている。

私はいつもの木に向かう。

足が急ぐ。
息が弾む。
私はみかんに会いに行く。