息子の妻

息子の妻

作　ふゆ

第三章

帰省の時期になった。
紗枝は今まで帰省には乗り気じゃなかったみたいだけど、
私は落ち込んでるあの女を見るのが楽しみで、自分から進んで帰省の段取りをした。
そうそうあのヴィトンのバッグは忘れずに持っていかないとね

「お義母さん、お久し振りです。
　また、お世話になります」

実家に帰省すると、私になった紗枝にそう挨拶した。

「いらっしゃい・・・」

落ち込んだ表情で紗枝がようやくそうつぶやく。

ふふ、どう、私の気持ちが分かった？　ずっと私はそういう気持ちだったのよ

「やあ母さん、元気だった」

正隆にそう言われて、紗枝は訴え掛けるような目で何かを言いたそうだったが

「ええ、元気よ、いらしゃい」

寂しそうな笑顔でそう返事をした。

見せつけるようにヴィトンのバッグを持って、紗枝の前に出る。

バッグを見た瞬間、紗枝が悔しそうな顔をする。

「そのバッグ・・・」

そうつぶやく紗枝に、私は微笑みながら答えた。

「ええ、このバッグ上品で使い易くて、とっても気にいってるんです」

どう、悔しい？　

いい気味ね、こんな高級品買って黙ってるからよ

リビングに入ると、紗枝はもどかしそうに正隆に近況を聞きたがった。

「ねえ、正隆さ・・そっちは上手くいってるの・・・」

「え、なにが？」

「紗枝さんとの仲とか・・・」

正隆は嬉しそうに答えた。

「うん、この前帰省した時に母さんの話を聞いて、それから変わったんだよ。当たりが柔らくなったというか。
美樹も前以上になついてるし、色々気が付くようになって、近所の評判も良くなったみたいだ。
マメに気を遣ってくれて俺を立ててくれるから、同僚にも好評なんだ。夫婦仲は前より良くなったよ」

台所でお茶を入れた私はそれを持ってリビングに入った。

「まあ、貴方ったら。お義母さんの前だからってお世辞言わなくてもいいのよ」

「いや、お世辞じゃないよ。本当にそう思ってるから。紗枝と結婚してよかったと改めて思ってるよ」

「そうなの・・・」

「美樹だって最近はずっと紗枝にべったりだし、なあ美樹」

「うん、ママのこと大好き」

私も、美樹がそう言ってくれたので嬉しくなった。

「ママもね、美樹の事は大好きよ」

私がそう言うと、美樹は嬉しそうに私に抱きついてきた。

どう紗枝さん。正隆も美樹も、もう私のものよ

私は笑いだしたいのを堪え、感激して泣いてる振りをしながら俯いた。

「正隆さん、美樹、ありがとう。嬉しいわ」

そう言うと、皮肉に聞こえるように言ってやった。

「お義母さん、今まですいません、至らない嫁で。これからは正隆さんの為に精一杯尽くしますね」

紗枝は、怒りと悲しみの入り混じった表情で、じっと聞いていた。

「お義母さん、お世話になりました。またきますね」

私の部屋にいた紗枝に、帰りの挨拶に行く。

「私の体返して」

紗枝が泣きついてきた。

「お義母さん、なにを言ってるかわかりません。もうそういうお年なんですか」

そう言うと、泣き出してしまった。

「もしそうだとしても、正隆さんや他の人も私の方がいい妻だと言ってくれてるから、このままの方がいいんじゃない。ねえ紗枝さん」

あはは、笑いながらその場を後にした。

「今回も母さん元気なかったな。もう年かな」

「ええ、そうね。まだ老け込むには早すぎる気もするけど」

車のなかでそう会話をしながら、もう完全に妻の立場を手に入れた。そう思った。

それから数か月、二人目の妊娠が判った。

紗枝がどういう反応を示すか楽しみだわ

「紗枝さん、私よ、お元気」

「ああ、お義母さん・・」

久々の電話だ。
入れ替わりの直後は色々聞くことがあり頻繁に電話のやり取りがあったが、今では全く電話することはなかった。

「電話するのも久しぶりね。実は二人目が出来たんで、お知らせしておこうかと思って」

電話の向こうから叫び声が聞こえてきた。

「な、正隆さんと・・・」

そう言ったっきり絶句してしまった。

「ふふ、夫婦なんだから、当たり前じゃない、貴方としてる時より良いっていってるわよ」

「そんな・・・」

「男の子だそうよ、あなたも白石家の大事な跡取りが出きて嬉しいでしょ」

絶句してなにも言わない紗枝に、畳みかけるように言う。

「実家の両親に話したら、とっても喜んでくれたわ。お父さんなんて五月人形買わないとって張り切ってたけど、私はいくらなんでもまだ早いわよって、断りましたけどね」

「・・・・・・・・・・」

「二人目が出来ると色々大変だから、ご協力お願いしますね、お義母さん」

その夜、お義母さんは交通事故でなくなった。
ふらふらと道路に出てきたところをトラックにはねられて、即死したそうだ。
事故として処理され、多額の保険金が手に入った。

保険金が手に入ったのは嬉しいけど、さすがに死んでしまったのは、目覚めが悪いわね。

自分の葬式に出席しながらそう思っていると、理恵もお母さんの代理でと来てくれて、悲痛な顔でお悔やみを言ってくれた。
だが二人きりになると表情を一変させる。

「良かったわね、介護が必要になる前に死んでくれて」

「それもそうね。身体が不自由になるのを笑ってやるのもよかったけど、
　下の世話とか、施設に入れてお金がかかるも嫌だしね」

「お金がかかるどころか、いっぱい保険金が手に入ったんでしょ」

「そうなのよ、嫁孝行な姑だわ」

「ふふ逆じゃないの、若い体やお金をいっぱいくれたんだもの、姑孝行の嫁じゃない」

「あはは、そうね、考えてみればそうだわ。いい嫁を貰ったのね」

そういって二人で笑った。

正隆は母親が死んで悲しんでいた。

「母さん死ぬなんて、まだ早すぎるよ」

私が死んだのをこんなに悲しんでくれるなんて、嬉しいわと思いながら
正隆、お母さんは貴方の隣にいるわよ。貴方のことはお母さんがずっと守ってあげるから、なにも心配しなくてもいいのよ。

そう心の中で呟いていた。でも・・・

ううん、あの女が母親として死んだ今

正隆さんは私の夫

私はその妻

妻として夫を支えて上げないと、そう思い慰めた。

「正隆さん、貴方には私も美樹もいるわ、気を落さないで」

「そうだな、ありがとう紗枝。二人の為にも頑張らないとな」

「そうよ、これから二人目もできるし、美樹もまだまだ手がかかるから、気持ちを切り替えていかなきゃね」

私は可愛い息子の隣に、妻として一生居られる事に喜びを感じていた。

（終わり）

　この作品は、しんごさんが書かれた「お義母さん」を読んで、
自分もこんな話を書いてみたいと思って作った作品で、
しんごさんの承認を得て書きました。
　原作では実家から自分の家に帰る所で終わっていたため、
その続きが読んでみたいと思って、自分の趣味で書いてしまい、
しんごさんの様に奇麗には書けないので、かなりダークな話になってしまい、
酷い話だと思われるかもしれませんがお許しを。