シェアワールド「男性化ウィルス」作品 |
吉田一家の一週間 作:どせいさん |
月曜日 その一 私、吉田留美の中学生生活の一ページが、もうすぐ今日も一枚めくられる。 なんて格好良く言ってみたくなる位、私の身の回りには全く波乱万丈さがない。 別に何か特別な出来事があったなんて事ないし、ドラマチックなお話も聞かない。 とはいえ、私の目の前で繰り広げられているこの風景は、半世紀前の人々からしてみれば ビックリするどころの騒ぎじゃないだろう。 日々進歩する各種科学技術。半世紀どころか、数年前には予想だにできない情報ツール。 文化の変遷。戦争が起こり、世界地図が書き換わる。 ・・・そして、あのウイルスの蔓延。 精神男性化ウイルス。 女性の精神を性欲溢れる男性のそれに変えてしまう、未知のウイルス。 それがこの世界に現れたとされている日から、もう二十年近く経っているんだって。 実際、もはや感染者なんて珍しくも何ともなくなってる。 公衆浴場や電車の専用車両も「男性」「女性」「男性化ウイルス感染者」の三つだし、現代を舞台にした(主に中高生〜成人向けの)小説やアニメ、ゲームなんかの登場人物にも、ウイルスに感染してすっかり男性の心になった女性の登場人物が出てくるのが、「普通」とまでは言わないけど、別に違和感を持たれないようになってる。 ここだけの話、大人向けのゲームでは、「ウイルスに感染した女性を操作して、周りの美女・美少女に感染させていく」っていうジャンルが既にあるらしい。それも男の人や感染者、レズの人だけじゃなくって、普通の女の人の間でも密かに流行ってるとかなんとか・・・ 私のクラスメートにも知っている教師にも、感染者は少なからず存在する。 「すっげ〜!何こいつ、でっけえ胸!マジそそる〜〜!!いいエロ本みつけて来たな!」 「だろ〜!こっちの女のエロい太ももとアヘ顔もまたたまんねぇ」 「ちょっとでいいから貸せよ〜!」 会話だけ聞けば男子達のそれそのものだけど、私の視界の中にいるのはどう見ても少女。 いかがわしい本を貸している、金髪で釣り目の子は学級風紀委員の雪奈。 先週までエロ本を隠し持ってる不良男子達を懲らしめてたのに、今や男子や感染者女子の リーダー格になってどっぷり性欲に浸かっている。 「んっ、おれも同じようにこのデカパイ揉んでさぁ、んふっ、もうたまんねぇ!」 エッチな本を読みながら胸を揉んでるのはメガネをかけた、Dカップの胸の持ち主、愛華。 箱入り娘って感じのおっとりした子だったけど、もはや今は昔。 噂だと下校中に突然発症して、穏やかな口調で喋りながら歩き方が乱暴な外股になって、自分の意識の変化に当惑しながら自分の胸ばかり気にし始めたとか。 それから三日とたたずに、暇さえあればその大きな胸を揉むエロ男子少女に。 「こらっ!貴方たち!」 二人は一瞬ビクッとなって後ろを振り返る。 しかし、声の主を見た瞬間、その表情が淫らにゆがんだ。 彼女達に声をかけたのは、はちきれんばかりのバストの持ち主。 それがスーツから半ばはみだし、下着も少し見えている。生物の吉川先生だ。 「せ、先生・・・」 「お、おい、まずいぞ・・・」 二人は真っ青な顔を突き合わせてひそひそと密談していたが、そこに吉川先生が乱入。 「何を読んでいるのかしら!?」 「や、やだなあ先生、女の子が女の裸見て、何の問題もないじゃないですか」 「そうですよ〜!」 「そんなの関係ありません!これは没収します!」 「そ、そんなぁ〜!返してくださいよ〜!」 「そうですよぉ〜。ふにふに。返してくださいよ〜。むにゅむにゅ」 「や、止めなさいっ!!また貴方たちは、そんな事ばかり!」 雪奈ったら、抵抗しながら、どさくさに紛れて(?)先生の大きな胸をさわってる。 「あんっ!な、何をするの!?離しなさい!!」 「いいじゃないですか、減るもんじゃなし!大きな胸も、触ってもらって喜んでますって!」 「はぁ!?何を下品な、デカパイだなんてっ!や、やめなさいっ・・・!」 「胸を触らないでちょうだいっ!胸を・・・あら?胸・・・?私に、胸が・・・!? あ、あら・・・?わ、私の、大きな胸が、胸が、大きい・・・いつもと同じなのに・・・?」 さっきまで烈火のごとく怒っていた先生の様子が、少しおかしい。 「せ、先生・・・?」 「ま、まさか・・・?」 雪奈達も驚きと喜びを隠せない様子だ。胸を揉むのを中断しつつ、状況を見守っている。 横で聞き耳を立てている私達も、この展開は正直あんまり予想してなかった。 「へ、変ね・・・?おっきい胸が、触ると、ムニ、ムニ、ってする・・・あんっ・・・」 私たちが見ている前で、先生はふにふにと胸をもみ始めた。 「髪が長いなぁ・・・あ、わ、私の匂い、いい匂い・・・あはっ・・・」 長い髪を鼻に近づけ、自らの臭いを嗅ぐ。真っ白な手を見つめ、不思議がっている・・・ 「はは・・・私、んっ、すごいいい女・・・」 「せ、先生!?」 見かねた私が声をかけると、先生はやっと正気に戻ったようだった。 「な、何なのよ、今の・・・!?わ、私が私を弄んでいた・・・!?」 「先生もとうとう俺達の仲間か・・・いっそう学生生活が楽しみだぜ!」 「そ、そんな・・・う、嘘でしょ・・・!?」 「なあ雪奈、このエロ本、先生に貸してやろうぜ。」 「そうだな。この分なら一週間どころか三日と経たずに一緒に楽しめそうだからな。」 「そ、そうはいくもんですか!と、取りあえず、これは没収しておきます!」 先生は動揺を押し殺しながら本を押収してるけど、男の性欲は押し殺せてないみたい。 雑誌を取り上げながら、雑誌の女の人や愛華や自分の胸にチラチラ視線が移ってる。 どうやら自分でも気付いてないみたい。ああ、先生に幸あれ。 こんな感じで、幼稚園や小学校の頃に感染したとか昨日まで一緒にフツーにテレビの内容を喋ってたのが、今朝になるとまるで別人の言動をするなんてのはもう日常茶飯事。 一体どうして、あんなウイルスがこの世に存在するんだろうか? 誰かが人工的に作り出した生物兵器という説もある。しかし、それにしては感染力が薄い。 それに自然発生の場合でもそうだけど、効果がピンポイントすぎというか、ぶっちゃけ変。 結局、真相は闇の中って感じらしい。 「やあ、留美。何か考え事?」 そういって声をかけてきたのは、友達の翼。 「ううん、何でもない。ボーっとしてただけ。だって、平凡なんだもん」 「いい事じゃないか。何にも起こらないって、贅沢な事なんだよ?」 翼は昔っから私なんかよりず〜っと大人だし、しっかり者で頼もしい性格だ。 「そうかなぁ?ボクなんて、まだまだ子供がわかってるつもりになってるだけだよ」 さっぱりとした髪、引き締まった四肢、中性的な顔立ち。 バレンタインデーには、翼がもらった溢れんばかりのチョコを分けてもらうのが恒例行事。 何も知らない人には、どこから見ても第二次性徴期を迎える前の男の子にしか見えない。 そう。翼はまぎれもない女の子。 幼稚園の頃からの友達。思えばあの頃からしっかり者で、助けてもらってばっかりだった。 「留美ちゃん!ぼ、私、おちんちんが無いの!元々ないんだけど、でも、無いのっ!!」 「ど、どういうこと?どうしたの、つばさちゃん。」 「わ、ボク、何か、おとこのこになっちゃうみたいなんだ、ううん、みたいなのっ!」 小学二年生の時に翼が感染して男の子のようになってからも、私達の友情は崩れなかった。 「そんなの、いつもの事じゃね〜かよ」 「そうよ、留美がぼ〜っとしてるだけじゃないの」 そう言いながら現れたのは、これも私の友達である愛理と里奈だ。 愛理は日焼けしたショートヘアで、翼同様にウイルス感染者。感染したのは丁度一年前。 丁度こうやってここで話してる最中に発症した。あの時の事はよく覚えてる。 「わ、私の肌がすべすべ・・・・おっぱい大きい・・・」 「「あ、愛理ちゃん?」」 「愛理・・・貴方、まさか・・・」 一方の里奈は肘まで伸びたロングで、二人ともさっき騒ぎを起こしてた雪奈の元親友。 里奈は今では彼女に代わってクラスのお目付役になっている。 「ひっど〜!確かに里奈は、どっちかっていうとしっかり者って感じだけどさ。冷血〜!」 「ええ、そうよ。たぶんあのウイルスに罹っても私は冷静沈着でしょうね」 そういえば、隣のクラスでは女子生徒の8割が男性化してしまったらしい。 「あんな病気に罹るなんて、考えただけでもぞっとするわ」 里奈はしきりに自分の手を触りながら、考えるだに恐ろしいという顔をした。 「そうなのかな?確かに女の人の体にドキドキはするけど・・・」 「そう言うけど、結構楽しいぜ、これ。何でみんな毛嫌いすんのかな〜?」 経験者達は語る。とは言え、私たちにはまるでわからない感覚だ。 「女なのに女の身体にドキドキするって、どんな感じな訳?トイレに入る度に・・・とか?」 「確かに男に変わった直後には興奮してたけど、流石にそれはねぇって。」 「そうだなぁ・・・良く『自分の事を男だと思っている』って言ってる人もいるけど、 実際はそこまでキッパリ男になってるって感じでも無いよ。」 「だよな〜。確かに性欲は男そのものだし、精神が男に変わっていく途中や直後には、 昔っから胸がなかったりチンチンがついてたりような感じがして記憶も混乱するけど、 何ヶ月か経つと、そうでもないんだよな」 それって、一般的なイメージとは結構違うね。 「うん、お風呂とかだともう最近はドキドキしないかな。」 「オレはまだ自分の裸でも興奮するけどな〜。温泉とかだともう濡れちゃってたまんねぇ。 色気づく前に感染した奴と思春期後に感染した奴とでも、やっぱり違いってあるらしいぜ。」 もうすでに感染者な二人の感覚について二人で聞いたけど、里奈はますます嫌がってた。 「結局今感染したらエッチな男の子になっちゃうって事じゃないの。ウイルスの感染力が低いって統計が出てなければ、貴方たちとも会いたくないわね」 そう言いながら、自分の胸についたブローチをしきりに気にしている。 「そうは言うけどさ、ホントあの時の感覚ってすごいんだぜ。今まで欠点ばかり目立って何とも思ってなかった自分の身体の神秘に気付いた時の、あんっ、あの震えるような・・・」 また愛理が、昔自分が感染した時の事を思い出しながら、胸を揉み始めた。 これでも昔は愛理・雪奈・里奈の三人組といったら、見た目も中身も清楚で規律にお固いクラスのアイドル兼名物だったんだから、月日の移り変わりを感じてしまう。 愛理がおかっぱのセミロング、雪奈が肩まで伸びた長髪で、ですます調だった頃からの付き合いだった里奈が、二人が変貌していくのをどう感じていかは察するに余りある。 「それにしてもどうしたの、さっきからどうも落ち着かないみたいだけど」 翼がそれとなく尋ねた。 「昨日、学校から帰る途中からどうも体が変な感じなのよ」 「体が変?」 「そうなの。それで今日の放課後に病院に行って、明日にかけて検査を受けるのよ」 「大丈夫なの?」 「大丈夫よ、たぶんどうせ風邪か何かでしょ。心配しすぎなのよ、うちの親」 里奈の病気が何なのか分からないが、どうせ大事にはならないだろう。 そんなこんなで、私の学生生活の一ページは、今日も一枚めくられたのだった。 |