Cupid's Mistake



原作 Angela J.  原作はここ Fictionmania  http://www.fictionmania.com/

日本語版 あむぁい



あらすじ アンジェロ・モーガンを女の子だと思ってしまったキューピッドの仕業で彼の親友ポールはアンジェロに恋してしまう。失策を挽回しようとしたキューピッドのせいで、アンジェロはやがて、、、


2月9日(日)


我らが主人公、アンジェロはにぎやかなパーティーで、一人浮いていた。

嵌められた!

あいつらー!

今度の仮装パーティーには気合をかけて行くべしっ!

ぼくは大きく頷いた。すっごく楽しそうだったし。

だから、姉さんから宅急便で衣装を送ってもらって、気合の入った扮装をしたのだ。

あいつらがあんなやつらだって知ってた筈なのにー。

ぼく以外の誰も、こんなにマジな仮装をしてないのだ!

マスクを付けただけとか。

仮装をしていても、割と普通の格好で。

例えば、クレア・トンプソンは全身黒尽くめだった、、、それだけかいっ!?

ゲイのジェフ・スティーブソンの格好ですら、ぼくの扮装に比べればまともだった!

はうあう。

ぼくの格好。完璧なピンクのドレスに、蝶サイコーな羽。エルフ耳。カツラに魔法の杖。勿論、見えないトコだって手を抜いてないぞ。胸にはパッドを入れてあるし、ブラジャーだってパンティだって着けているのだ。ちょっと恥ずかしいけどっ。でも、妥協はしないんだ。お化粧だって2時間もかけて、、、だから、ほらっ。かなりイケてるだろ?かんっぺきなフェアリーだろ?自信があったんだよ。みんなには負けないって。

、、、なんでお前らそんなにやる気ないんだよ。それじゃあ、勝ってもつまんないだろー。

ぼくはもう泣きそうだ。

みんな笑ってる。

決してぼくを指差したりはしてないんだけどっ。

ぼくを笑ってるんだ!

くっ、屈辱〜。違うんだよ!そうじゃないんだよ!

でもやるからには!あ〜、もうっ。

他にはいないのか、他には?

ぼくはキョロキョロとあたりを見回す。

ハーレム少女がいた。

上半身はペイントだけの男達もいた。

、、、でも、ぼくの方が変かもしんない。

う〜、誰か、誰かいないのかっ!?

お。おおっ!?

そいつはあごヒゲが立派な中年のおっさんで。口には葉巻をくわえてて。

しかし、おしめをして、天使の翼を持ち、弓に先が吸盤になった矢。完璧なキューピッドだっ!おっかしー。あはは。あはははは。


さて、こちらはキューピッドの格好をした男。

彼は、この仕事が嫌いだった。いつも嫌だったと言うわけではない。でも、今は嫌だった。彼がこの仕事を始めたとき。若かった。使命感に燃えていた。カップルを作るって素晴らしい。でも、今は。40年も仕事をしてきて。飽きてきた。つまんないのだ。二人を撃って、そんで立ち去る。それだけ。中でも一番嫌な点は、ほとんどの時間を異次元に隠れていなければならないことだ。

そんじゃあ、おれっちは何時、彼女を見つければいいんだ?だから、彼は仮装パーティーがあると聞いて意気込んだ。ちゃっちゃと仕事を片付けて。そんでもって、パーティーを楽しむのだ。仮装パーティーなら隠れなくってすむしな。どこかにいいカモはいないかな、、、いた!

適当に選んだ場合。三角関係になるのが怖い。気のある二人をくっつけてやるのがベストなのだ。女の子の方はフェアリーの格好。男の方はマスクを付けただけ。彼の方が彼女を好きなのはまず、間違いない。女の子の方はちょっとわかんないけど、、、でも、大丈夫。だって、彼の横に立ってるから。気があるのに違いない。なぁに、おれっちの勘に狂いは無いって。キューピッドは慎重に矢の狙いをつける、、、


一方、そんな事とは知らないもう一方の主人公、ポール・ジョンソンはおかしくってたまらなかった。

アンジェロのやつを嵌めてやったのだ。しかも、思いっきり。事もあろうに、フェアリーのカッコなんかしちゃってるのだ。妙に似合ってるのが、またサイコーにおかしい。アンジェロはつんと俺を無視しようとしちゃってるが、それがまた可笑しくってたまらない。あはは。馬鹿だ。あはははは。

って、あれ?

びよよよんっ、と俺のお尻に何かが当たって、俺の笑いは凍りつく。

なんじゃあ、こりゃあ!?

吸盤の付いた矢がぴったりと俺の尻に貼り付いていたのだ。

誰だ、こんな事しやがるのは?

俺は犯人を見つけようと、きょろきょろとあたりを見回す。


怪しい奴ばっかりだ。


そうだ。仮装パーティーだもんな。

俺は尻の矢を引き抜くとぽいっと捨てる。

しょーもない事しやがって。

それより、アンジェロの奴を可愛がってやらないと、、、

可愛がって、、、あれ?

アンジェロの怒った顔。

どきんっ。

なんだか、急にすごく悪い事をしたような気がしてきた。

ごめん。ちがうんだよ。俺はただ、、、

俺は思った事をそのまま口にする。

「ごめん。やりすぎた。もう、からっかりしない」

アンジェロが俺を見る。俺はにっこり笑う。アンジェロは良い奴だ。親友だ。

本当に悪かった。

「それにすっごく可愛いし」

って、俺は何を言ってるんだ?あ。

アンジェロの眉が吊り上る。やば。謝らないと。

「アンジェロ、、、?」


アンジェロは屈辱に打ち震えていた。

「からかわないって言った途端にっ!」

その時、人の群れが二人の間に割り込む。

人波にもまれてアンジェロはポールを見失う。

あれ?

きょろきょろ。


なんだ、あいつ?


キューピッドのコスプレをしたあのおっさんが弓を引き絞って今にも矢を放とうとしている。狙われてるのは、、、えっ、ぼく?

悪寒が背筋を走る。

なんだか、すごくすごく嫌な予感がする!


さてさて、キューピッドの方は。

必殺の矢を放ってこの仕事を終われれば。

おれっちは自分自身の愛を探しにパーティーに混じれるのだ。いただきっ!

そう思った時。ターゲットの少女と目が合ってしまう。なんてこったい!だが、おれっちもプロだ。目をそらし、何気ない振りをして、時を待つ。さあ、その可愛いお尻を、こっちに向けな、ベイビー!じっくりと獲物の油断するのを待つおれっちはハンター。永遠とも思える時が流れる。しかし、ついに、その時が来た。彼女が、お尻を向けたっ。今度こそっ。

どどどどどっ。

人の群れがおれっちを押し流す。

あれよあれよと流されてしまう。

「はわわ〜。ちっくしょ〜」

大丈夫。必ず、仕事はやりとげるっ。

この娘の特徴、しかと覚えた。必ず、やりとげる!

「あわわわ〜」

キューピッドは人の波の中に掻き消えていく、、、

「もう、ぼくをからかったりしないって言ったと思ったけど!」

アンジェロの声にポールは頷く。

「だから、ごめんって。口がすべったんだよ。もう、絶対からかったりなんかしないよ」

だって、本当に可愛い、、、可愛すぎる。

って、どうしちゃったんだ俺は。

すっごく喉が乾く。

もう一杯飲もうかな。あ、そうだ。

「お詫びにおごるよ」

「、、、」

いぶかしむアンジェロの顔。そんな顔もなかなか可愛くって。

アンジェロは黙ったままだ。沈黙が息苦しい。なんだかドキドキしてきた。

俺はじっとアンジェロを見つめる。

おごるって?

おごられるのか?ぼくが。フェアリーの格好をしてるから。

ちょっと、男におごられるってのに抵抗があったけど。

良く考えたらぼくがこんな格好しちゃったのも彼の責任な訳で。

ぼくにはおごられる権利がある気がしてきた。

「わかった」

ぼくが頷くと、ポールは満面の笑みを浮かべていそいそとビールを買いに行った。

ふふん。

ぼくも気分がハイになっているからか、ビールがなかなか美味しい。そうだよっ。仮装パーティーなんだよっ。盛り上がんないと駄目なんだよ!

「ポール、おかわりっ!」

「よしきた!」

あははは。きっもちいー。さいこー。

あ。これ、お酒じゃん。

「おいしー」

顔が火照る。なんだか楽しくなってくる。ポールもすっごく楽しそうだ。

「もう一杯行くか?」

あれっ。もう無くなっちゃったのか。

「おーし、買ってこーい!」

ポールがまたお酒を買いに行く。あー。大分飲んじゃったなぁ。でも、ただ酒っておいしいなー。ポールのやつ、結構お金使っちゃったんじゃないかな。でも、ぼくをからかった罰だもんねー。あははは。

アンジェロが怒ったままだったらどうしようかと思った。

俺はなんだか楽しくなってきた。楽しい。でも、、、でも?

アンジェロは俺の親友で、いっしょに酒を飲むのも楽しくって。

俺の頬が自然に緩む。でも。

アンジェロが俺に微笑んでくれたら。くれたら、、、

もう怒ってないよな?

「はい。これも美味しそうだろ」

俺が買ってきたお酒を見て、アンジェロはにっこり笑う。ああ。

「よお、ポール。あれっ?は、はにゃ〜ん?」

「うわああ。しっかりしろ、アンジェロ」

飲ませすぎたのか、アンジェロはひっくり返りそうになる。俺は、がっしりと奴を受け止める。ドリンクが二つ。床に転がる。

ふう。

俺は奴の重みを体で感じる。体温を感じる。

あうっ。やばいっ。

電撃に撃たれたように俺は突然気づいてしまう。

こいつにキスしたくてたまらない!?って、こいつは男だぞ!友達だぞ!お、俺は一体どうしちゃったんだ!?俺はホモだったのかー!?

俺はアンジェロを立たすと、彼のフェアリーの衣装を直してやる。直してやる振りをして、、、いや、直してやってるだけだっ!なんだか、どきどきしてきた。俺はひょっとして、妖精さん萌え?それもやだー!って、落ち着け俺!

俺の腕の中には、気を失ったアンジェロがいる。アルコールで上気して、口が半開きで。アンジェロ、俺は、、、って、いかーん!

「しっかりしろ!」

俺は、アンジェロを揺らす。

「はにゃ?どうしたのポール?」

駄目だ!顔をまともに見られないっ。俺は、どうしちまったんだ!

「あ、ポールー?」

俺は夢中で会場を後にした。



2月10日(日)

アンジェロは彼の部屋で目を覚ます。

あったま痛い、、、

ガンガンする。

昨晩は飲みすぎちゃった。

最悪。

はうっ!?

目に入るピンクのドレス。

最悪。

そっかー、あのまま寝ちゃったかー。

時計を見る。もう昼だ。

腹減ったー。

ぼくは食べ物を探す。

でも、本当に最悪だったのは、今朝の夢だよなー。

夢の中で。

仮装パーティーでキューピッドがポールに矢を放ったのだ。

どういう訳かぼくはそいつがホンモノのキューピッドだってわかって。その矢がぼくにとってひどく危険なものであるってわかったんだ。なのに何故だかぼくはパーティーから抜け出せなくって。ぼくはポールが買ってくるお酒を飲み続けてしまったんだ。

なんだか気持ちよくなってしまって。

どんどん飲んじゃって。

あっと思った時にはふぅっと気が遠くなっちゃって、気が付いた時にはポールに抱きかかえられちゃってたんだ。

ポールはじっと、ぼくを見つめて。ぼくはなんとか立ち上がろうとしたんだけど。ポールがぼくを離してくれなくって。

それどころか、、、ぼくは唇を奪われちゃって。

それも、最初は唇だけだったのに。離してくれなくって。舌を入れられちゃったんだ。ぼくはなんとかポールを押し返そうとするんだけど。ぜんぜん敵わなくって。もがいてるうちに、なんだかぼくも気持ちよくなってきちゃって。

だって、夢なんだし。

自分から、その。吸っちゃったり。

だって、ポールの舌がぼくの口の中奥深くに入って来て。なんだか、口を犯されてるみたいで。でも、ぼくは一生懸命それに応えちゃってたんだ。

ぼふっ。

ぼくは枕に八つ当たりする。

夢。夢。夢。あれは只の夢。

ぼくはもう考えない事にした。

でも、頭の中にすぐまたあの夢の中のぼくが浮かんできた。

フェアリーの格好をしたぼく。

ポールにキスされてるぼく。

それに応えちゃったぼく。

なんであんな夢を見ちゃったんだ!

あーもうっ。馬鹿ーっ!

だいたい、ポールが悪いっ!

全部あいつのせいっ!

けど一番悪いのはっ。あの、キューピッドだ!

なぜだかぼくはそう思う。あの悪夢の原因はキューピッドの失敗なのだ。

あいつめ〜!

ぼくは枕をあいつに見立てて思いっきりパンチをぶちこんだ。

ところでその頃。

うわさのキューピッドも又二日酔いに悩んでいた。まるで巨人が頭の中を歩き回っているよう。彼はしこたま飲んだ。しかし、あの夜の事を思い出すと、その痛みも消え去るように思えるのだった。あの夜、人波に押し流された後。彼は出会ったのだ。素敵な少女と。名前は思い出せなかったが、とっても幻想的な少女だった。二人はパーティーが終わるまで踊って。そして、彼女の部屋で愛を語らったのだ。彼が行かなければならないと告げたときも、彼女は怒ったりなんかしなかった。

ああ、なんて素敵な日だったのだろう、、、待てよ。なんか忘れている。ああーっ、仕事が途中だった!やっべえ、クビになる!あの仕事は嫌いだけど、おれっちはあれしかできないし、他の仕事した事ないし。

あのフェアリーを探し出さないとっ!

おれっちはキューピッドの衣装に急いで着替えて出発した。

アンジェロはついに起き上がれるまで回復した。

カツラを外して、衣装を脱ぐ。コスプレ衣装を袋につめる。

ふんっ。

ぼくはそれを押入れに詰めてしまう。

これで良し。

ぼくは一息つく。

「もうフェアリーの格好なんかこりごりだ。ポールにからかわれるのもうんざりだ。キューピッドの馬鹿もむかつくし。」

ぼくは独り言を言っていた。でもなんだか口に出すとすっきりした気分になった。

ふむ。

「男なんか嫌い。ポールも嫌い。キューピッドは大嫌いっ!」

ふう。すっきり。

あっぶねえ。

もう少しでフェアリーを見失うとこでぃ。キューピッドは胸をなでおろす。来るのがもう少しでも遅れたら、この男があのフェアリーだなんてわかる訳がない。

それに、女の子でなかっただけでもショックなのに、女装マニアですらないなんて!

なんだか、友達に騙されて女装してたみたいだし、たぶん、二度とやらないだろう。って事はもうフェアリーはいないって事。まずいよ、まずい。だってあの男はフェアリーに恋しちゃってるんだから。三角関係よりもまずいって。こんな失態がばれたらクビだよ。こうしちゃいられねぇ。おれっちは次元を転移してマジックショップへと向かう。

なんかないか。なんか。

あった!

これだ。フェアリーにはやっぱ、妖精の粉だよ。妖精の粉の#2−14。俺はそれを手に取りカウンターへ向かう。

涙が出るほど高けぇ。何ヶ月も只働きだ。

くっそぉ。

だが、やるっきゃねぇ。

おれっちは彼女の家に取って返した。

残念ながら彼女はまだ野郎だった。

それが問題だ。

だが。おれっちは妖精の粉を握り締める。

頼むぜ。

おれっちは蓋を開ける。きらきらとまぶしい粉があたりに舞う。

部屋一杯に。ふわふわと。

だがしかし、アンジェロはキューピッドも妖精の粉も見ることができないのだ。

彼の部屋に降り注ぐ妖精の粉。この粉は一体?

ぷるるるる

まただ。電話が鳴っている。

ポールからだ。

メールが来てたからな。

“やあ、アンジェロ。君に言わなきゃならない事がある。ひょっとしたら後悔しちゃうかもしれないけど、、、大事な話なんだ。電話してくれないか?”

でも、今はポールと話したくない。

また思い出してしまう。あの悪夢を。

うー、だめだだめだ。だめ。

絶対駄目。

さてこちらはポールの方。

ポールはほとんど寝れなかった。食欲もなく、やつれ果てていた。

だめだ。

アンジェロの顔が頭から離れない。どうやっても。

いや、正確にはアンジェロじゃない。

あの妖精の女の子だ。

彼女とちゅーしたいし、その先だって、、、

何考えてんだ!?

あいつはアンジェロで、男なのに、、、でも。

ああっ。彼女の顔。

胸。

はあっ。

羽っ。

腰っ。

だめっ。

ああっ。

あああっ。

ううっ。またやっちゃった。

アンジェロをおかずに、、、

もう何度目になるだろう。

でも、何度イッても、彼女が頭から離れない、、、

重症だ。本気、、、なのか。

こんな馬鹿なことが。あいつは男で、俺も男なのに。

ビールに手が伸びる。でも、飲んでも飲んでも。アンジェロの顔ばっかりが頭に浮かぶ。

アンジェロ、、、逢いたい、、、そして。

「消去っと」

ポールからのメッセージを消去する。

なんだか、気分が悪い。

なんか変だ。空気がねっとりと体にまとわりつくようで。

すっごく甘ったるい匂いがした気がするけど、そんなものは何にも無くて。

なんか疲れた。すっごい疲れた。

頭痛い。

ぼくは水色のパジャマに着替えるとベッドに潜り込んで布団をかぶる。

ふわぁあ。ねむいや。

ねむい、、、ああ、でも。またキューピッドの夢なんか見るんじゃないだろうな。

嫌だ嫌だ。

「来るなー」

、、、ぐぅ。

くくく。効いてる効いてる。

妖精の粉の効き目はばっちりさぁ。

後は待つだけさ、あの時おれっちが射たあの男がここに来るのをな。そうすりゃあ、この矢でこいつを射れば、すぐにこいつもあいつが好きになる。なあに、あいつはすぐにやって来るさ。片時だって離れてられないだろうからな。

、、、

、、、

来ねぇなあ。

、、、

おれっちは待つのが嫌いでなぁ。

ほれ、電話だぞ、電話。

あ、切りやがった。

おいおい。

、、、

あ、寝ちまいやがったか。

また待つのかよ。ま、いいや。

せいぜい良い夢を見な、お嬢ちゃん。

「ああ、アンジェロ」

ポールは酔いつぶれて、夢の中にいた。

素晴らしい夢だ。

アンジェロと一緒なのだ。

キスした。とろけるようだった。

「アンジェラ、、、ああ、アンジェラ、、、」

このまま、ずっと。



2月11日(月)

起こって欲しくない事は必ず起こる。

アンジェロにとっては最悪だが、やっぱりキューピッドのせいで彼の夢は捻じ曲げられていた。そう、未だ仮装パーティーは続いていたのだ。夢の中では。

うわあん。

なんだよ、これは?

ぼくは未だポールにキスされちゃっていた。

そしてぼくは思い出したくも無いあの格好だったのだ。

フェアリーのコスプレ。

「さあ、楽しんでおくれ」

どこかから邪悪なキューピッドの声が聞こえる。

あうっ。

胸をなぶられる。

ポールだ。

い、痛いよ。ぼくはそう言いたかったんだけど。

ぼくの口はポールに蹂躙されてて。

その言葉は飲み込まれてしまった。

ん。んんっ。

へ、変だ。む、胸を揉まれているうちに。なんだかだんだんと、感じてしまうような。ぼくの胸がホンモノになって行く?どんどんどんどん感じちゃって。あ、あれ?へ、変だよ?そんなっ。まるでっ。

「はうう〜」

はあ。はあっ。やっと目が覚めた。

最悪。

またあの夢だ。キューピッドの奴め。

くっそー。って、あっ、もうこんな時間?

わわ。ち、遅刻しちゃう。寝過ごした。

ぼくは水色のパジャマを脱いで、シャワーを浴びる。

あ、あれ?ちょっと胸が膨らんじゃってる?

ま、まさかね。

あ、そうか。胸パッドを付けたときの糊かな。付けたまま一晩寝ちゃったからちょっと腫れちゃってるのかな。

きゅっとシャワーを止めて、体を拭いてぼくは歯磨きを始める。

あっと髪を整えないと。

ふんふん。

ふんふんふん。

ふふふん。ふん。

んー。

やっぱこうかな。

ふんふん。

ふふふん。

お。可愛くできたぞ。

ああっ。爪がこんなんなってるじゃん!?

いけないいけない。

ふふん。

ふんふん。

ふふ。できたー!

かんぺきー。

って、うわあ。もうこんな時間?

やばー。

ぼくはトーストをお腹に詰め込んであわてて服を着る。

そしてエンジニアリングの授業に急ぐ。

なんとかギリギリで間に合い、ぼくは席に着く。

あー、それにしても。なんであんな夢見たのかなー。

やっぱり、キューピッドのせいなのかなぁ。

それとも、、、

ぼくはぶるんぶるんとかぶりを振る。

そんな訳ない。絶対ない。

あーでもなー。

ぼくは上の空で夢の事ばっかり考えていた。

あのキューピッドは一体、、、

さて、そのキューピッド。

うとうとしていた彼が目覚めた時、既にアンジェロは学校に行っていた。

あれっ、しまった。あいつはどこでぇ?

「あいつを見失ったら、おれっちは一体どうやってこの矢を射れば良いんでぃ?」

そう言うと、キューピッドは標的を探しにアンジェロの部屋を出るのだった。

今日はそんなにひどい事にはならないかも。

ぼくはそう思い始めていた。2時限目はなにもなく終わったし。

3時限目の教室はあっちだな。

急がないと。

「アンジェロ」

ぞくりと寒気がする。

「アンジェロったら」

「え」

げっ、ポール?振り向いたぼくの目の前には彼が立っていた。

ポールが目覚めた時。

アンジェロへの想いは全く収まっていなかった。

いや、もっと強くなっていたかもしれない。

まるで、誰かに恋の矢で射られたかのように。

認めたくはない。絶対認めたくはないけど。

俺はアンジェロの事を好きになっちゃったみたいだ。

正確にはアンジェラを。

アンジェロが変身したフェアリーの女の子を。

なんてこった。

彼女は俺の想像上の、架空の人物で。モデルはいるけど実在はしてないのだ。

最悪。

最悪だ。

でも。実在はしてないんだけど。

アンジェロに頼むしかない。

土下座してでも。

お願いだから、もう一度アンジェラになってくれ。

はは。あははは。

無理。絶対無理だ。

可能性はひっじょーに低い。

でも、それしか無いんだ。

アンジェラに逢いたい。

もう一度彼女に逢いたいんだ。

無理やり食べ物を押し込んで。あいつはどの授業を取っているかを必死に思い出した。

行く。

行くぞ。玉砕してやる。

俺は、あいつの出ている教室へ向かう。

アンジェロ。

あいつに会えると思っただけで俺はなんだか嬉しくなってきた。

うわああああん。ポール。

ど、どどどど、どうしよう。

自然に顔が赤らむ。

悪夢が蘇る。

ぼくは夢の中で、こいつに。あわわわ。

ぼくは逃げ出した。

猛然とダッシュした。

生々しい夢が蘇る。

いやだいやだいやだ。

うわーん、追ってくるなー。

ぼくは必死で逃げる。でもなんだか早く走れない。

お尻が揺れる。な、なんで?

な、なんで逃げるんだよ!

折角、逢えたのに。

俺はあいつを追いかけようとして思いとどまる。

あいつは俺を避けている。

追うのはまずい。

でも、、、唐突に俺は気づく。

アンジェロの走り方はなんだかちょっと変、、、いや、女の子みたいだ。

あ、ひょっとして。

俺は藁をもすがる気持ちで自分の考えに飛びつく。

ひょっとして、アンジェロはちょっとそういう願望があって。

女装願望が現れたのがあのフェアリーの格好なのかも。

逃げたのはそれがばれたと思ったからなのかも。

馬鹿だな。そんな事気にする事無いのに。

女っぽかったってそんなの全然構わないさ。

てゆうか、むしろそこがイイ!

ああ、アンジェラ。

そうだ、俺がアンジェラを愛してるって、あいつに伝えなきゃ!

逃げたアンジェロは結局3時限目はさぼってしまった。

でも、部屋にも戻れなかった。

だってポールはぼくの家を知ってるんだもの。

時間をつぶさないと。

ぼくは喫茶店を見つけて入る。

コーヒーを頼む。

あ、美味しそう。

このケーキも頼んじゃえ。

あーあ。これからどうしたらいいんだろう。

ぼくはフォークをケーキに刺す。

ぱくっ。

おいしー。

アンジェロちゃんがゲイだなんて今まで思った事も無かった。

なんで気づかなかったの?

アタシの仲間だったなんて。

ジェフ・スティーブンスは、戸惑っていた。

でも今は。アンジェロの醸し出す雰囲気は女の子のもの。

カップの持ち方も。

足を揃えた座り方も。

仕草も。

全部、女の子みたい。

もちろん、他の人は気づいてないみたいね。

でも、アタシにはわかるの。だってゲイだもの。

でもなんだか、見ていて悲しいわ。

アンジェロはなんだか悩んでいるみたい。

まるで昔のアタシを見ているよう。

迷っているのかしら。

助けてあげたい。

アタシはそう思った。

だってアンジェロちゃんは友達だし。

「アンジェロちゃん。座っていいかしら?」

アタシはアンジェロちゃんの横に座った。

ジェフ、、、

ぼくはジェフが急にあらわれたのでびっくりする。

「ごめん。今は独りでいたいの」

悪いけど。話す気分じゃないんだ。

「あ、あらそう」

ジェフは微笑んだ。

「何か相談したい事があったらいつでも言ってね」

ありがとう、ジェフ。

ジェフはにこやかに去っていく。

ありがとうね。でも、今は。

ぼくはコーヒーショップを出て、街をさまよう。

もう外は暗く、ぼくは本屋に入る。

そしてそのまま立ち読みを始める。

ぼくがそのSFの第四章を読み終わりそうになった頃、もう閉店だと店主に言われた。

ぼくはその本を買って家へと向かう。

ポールが来てなきゃいいけどなぁ。

ポールはアンジェロのアパートへと向かっていた。

しかし、アンジェロはおらず。応えるものはいない。

帰るべきか、帰らぬべきか。

俺は決めかねたままうろうろと家の周りを回っていた。

「ほんとにどうしちゃったんだ。これじゃあまるでストーカーだ」

アンジェロに迷惑掛けちゃいけないよな。

「きっと、アンジェロは俺に相談に来るはず」

俺は自分に言い聞かせる。そんな日が早く来るといいな。

俺は想いを吹っ切って、俺の家へと向かった。

はあ。良かった。

ポールはいない。

ぼくは心底ほっとしていた。

急いで部屋に入って、カギを掛ける。

今日はほんとに疲れちゃった。

ぼくはパジャマに着替えてベッドに入る。

つづき、つづきっと。

ぼくはSFを読みふける。

そして何時の間にか。

うかつにもぼくは眠ってしまったのだ。

キューピッドの奴がぼくを狙っているのに。

夢の中。やっぱりぼくはフェアリーの格好で。

やっぱり続きからで。

まだ、ポールのやつに胸を揉まれていたんだ。

「あ。あん」

思わずこぼれるぼくの声。

なんでこんなに色っぽい声が出るんだ。

あのキューピッドの野郎が歌う愛の歌が聞こえる。

すごく嫌なのに。

その歌を聞いていると。

ポールに触れられていると。

なんだか体がむずむずしてきて、なんだか気持ち良くなってきちゃって。

このままずっと身をまかせていたいなんてちょっと思ったりして。

ああ。うん。あ、あれ?

突然、ポールの手がぼくの胸から離れる。

ぼくは止めてくれてうれしいような、もっとして欲しかったのに残念なような。

そんな入り混じった気持ちになってしまう。

ばかっ!しっかりしろ。

ぼくは解放されてちょっとほっとする。

え?

ぼくはポールの手で優しく、けどしっかりと抱きかかえられると地面へと下ろされる。

な、何をするの。

突然、ぼくはポールに無理やり彼の前に跪かせられる。

ぼくは恐る恐るポールを見上げる。

真剣な顔。

そして目の前には膨らんだパンツ、、、うそっ。

やだっ。ポールの腕がぼくの腕をつかんで、彼のパンツの中に、、、って、絶対やーだー。

生温かい嫌な感触。

やだやだやだ。

ぼくは腕を思いっきり引っ張って引っぺがす。

ところが、ポールに腕を引っ張られてまたアレが近づいてくる。

嫌だったらっ。

引っ張りっこになるが、ポールの方が圧倒的に強い。

「やめてってば」

ぼくの言葉は女の子みたいに聞こえる。

ぼくは突然、引っ張りあげられて、お腹を彼の膝の上に乗せられる。

めくられるぼくのスカート。

そして。

ぱしーんっ。

目の前に火花が飛び散る。

ぱしーんっ。ぱしーんっ。

「や、やめて、、、」

ぼくは涙を流して彼にお願いする。

ぼくは再び彼の腰の目の前に跪かされる。

ぼくの手が彼の重みと体温を感じる。

しょうがなく、ぼくはそれをしごき始める。

ぼくの手はいつの間にこんなに細く柔らかくなっちゃったんだろう。

なんで、ポールのおちんちんなんかしごいてるんだろう。

ぐいっと、ぼくの顔にそれが近づけられる。

「ふぇぇ」

思わず悲鳴をあげたぼくの口にそれがつっこまれる。

「んー、んーんー、んー」

最初は嫌がったんだけど。

全然、彼の方が強くて。

しゃぶってるうちになんだかはまってしまって。

なぜだか気持ちよくって。

体が熱くなって。

ぼくはポールに夢中になる。

あ。

突然それはきた。

体中が粟立つみたいになって。

快感に翻弄されて。

ぼくは自分の体がなにか変化していくような感じがした。

なんだか苦いものが口に流れてくる。

それが喉を通っていった時。

ぼくはなぜだかもう男じゃいられないような気がした。

ぼくはポールの顔を見上げる。

優しい顔。

ぼくはそのまま気を失った。



2月12日(木)

ポールは焦燥していた。

アンジェラに逢いたい。

アンジェロでもいい。

でも、アンジェロをそっとしときたい。

そう決めたんだ。

ああ。でも。

ついつい電話を手に取ってしまう。

駄目だ駄目。

掛けちゃ駄目だ。

駄目だ。眠れない。

ああ。アンジェラ。アンジェラー。

さて、そのアンジェラ、、、いや、アンジェロかな。彼、、、いや彼女かな、もようやく目を覚ました。

はあはあ。

嫌な嫌な夢だった。

すっごく嫌な夢だった。

なんでぼくがあんな目に。

ぼくは寝汗をぬぐおうと額に手をやる。

「うわぁ」

パ、パジャマがピンク!?

なんで!

ぼくが着ていた水色のパジャマにちょっと似ているけど。どうみてもこれ女性向けじゃないか。ぼくは胸の膨らみに気づいて愕然とする。そおっと触ってみる。

ある。服の皺とかそんなんじゃなくて、確かに何かがある。

ぼくは泣きそうになりながら、パジャマのボタンを外していく。

胸だ。

「おっぱい」

ぼくは口に出してみる。そう。おっぱいだ。なんでだ!

その時ぼくは指の爪が長く整えられている事にも気づく。

ぼくはいても立ってもいられなくなり、風呂場に向かって鏡を見る。

女の子みたいだ。

ちっちゃな鼻。長い睫毛。細い眉。ふくよかな唇。顔のつくりは柔らかくそして、美しく膨らんだ胸。

「ま、まさか、、、」

ぼくはゆっくりとズボンを下ろす。

「うわぁ」

ぼくはパンティを穿いていた。

ぼくは勇気を振り絞って、震える手をパンティに伸ばす。

そおっと、そおっと。

有った。

有ったけど。

すごくすごくちっちゃくって。

まるでちっちゃい子のモノみたいで。

でも。おちんちんだ。うん。そうだとも。

くらくらして来た。

なんだかお尻もおっきくなってる気がする。

すね毛とかが全然なくなっちゃってて、そんで足がすごく綺麗で。

それだけじゃない。

なんか部屋の内装まで変わっちゃってる。

壁はピンク。剃刀もピンク。そして洗面台にはお化粧道具のフルセット。

ぼくはパニックになりそうになりながらお風呂場を出る。

まさか。

、、、駄目だ。

居間も全て変わっちゃってた。

ピンク。ピンク。ピンク。

女の子の部屋みたいだ。

食卓の上に置かれていた雑誌まで女性誌になっている。

ぼくは寝室に戻る。

やっぱりここも駄目だ。鏡台があるし、ぼくの毛布やベッドには花模様で飾られている。

ぼくはバタンとクローゼットを開ける。

目に飛び込む女性用衣料の山。

スカートはさすがに少ないけど。ズボンやシャツも明らかに女性用だ。

「あ」

ぼくは思いついて、隠してある写真誌をチェックした。

プレイガール。

あは。あははは。

ぼくはそいつを思いっきりゴミ箱に放り投げる。

ぼくはペタンと尻餅をつく。

その格好がまるで女の子みたいだったのでぼくは慌てて座りなおす。

何から何まで変わってしまった。

一体どうして。

あ。

ぼくは気づく。

昨日買ったSF小説。それだけはそのまま残っていた。

一体なぜ?

それがわかればぼくはこの不可解で不愉快な状態から抜け出せるかもしれない。

そうだ。クレアなら。

ぼくはクレアが不思議現象オタクだと言う事を思い出す。

クレア・トンプソン。

彼女なら、、、

クレア・トンプソンはホンモノの霊能者だった。

「んー」

あたしはアンジェラに手をかざすと、念を放つ。

何か、魔法の力が影響している。

それでアンジェロは女の子にされちゃったのだ。

「ふう」

あたしはため息をつく。ちょっとエネルギーを使いすぎた。

アンジェラは心細そうにあたしを見る。

霊能オタクとか心霊マニアとか、結構アンジェロにはからかわれてきた。

その子があたしを頼ってきたのはなんだか皮肉に思える。

あたしはからかいたい衝動にかられたけど、でも、アンジェロは友達だもんね。

しょうがないわね。

あたしに出来る事はしないとね。

あたしはアンジェロの話を詳しく聞いた。

それだけって聞いたら、アンジェロは恥ずかしそうに悪夢の話まで始めた。

ああ。そういう事。あのキューピッドの仕業ね。

あたしは古い辞典をめくりめくり、妖精の粉の記述を探した。それを読みながらアンジェロに説明する。

「妖精の粉ってのはね。何種類かあるのよ。それでその中には人や物の性別を変えるものもあるの」

アンジェラは青い顔をする。

「ぼくはそれのせいで、、、ぼくは一体どうなっちゃうの?」

あたしはさらにページをめくる。

「えーっと、症状から言って、変身は72時間以内に完了するわね。変身が完了した後はやがて元の姿に戻るわね」

「ふぅ」

アンジェラはほっと胸をなぜ下ろして紅茶に手を伸ばす。

「なんだそうかぁ」

24時間以内にセックスをしなければ」

「ぶぅー」

アンジェラの飲んでいた紅茶があたしの顔にぶちまけられる。あたしは眼鏡を取って、ハンカチでまず顔を拭く。まったく。顔を拭き終わり、眼鏡をきゅっきゅと拭いているとアンジェラが硬直してしまったのがわかる。あたしはハンカチを彼女の目の前でひらひら振る。無反応。

「もしも、セックスをしたら、変身は固定化される。二度と元には戻れない。永遠に」

ちょっと聞いてる?ねぇ、聞いてるの?

二度と元には戻れない。二度と元には戻れない。二度と元には戻れない。

クレアの声がぼくの頭の中をぐるぐる回る。

クレアの話によれば。

キューピッドは実在するらしい。

知らなかった。

超自然を馬鹿にしなければよかった。

クレアの霊視によると。

キューピッドは夢を操って、ぼくをポールとくっつけようとしてるんだそうだ。

くっつけるってのはつまり、ぼくがポールにやられちゃうって事だ。

その為にキューピッドは妖精の粉と言うマジックアイテムを使ったのだ。

多分、あの時だ。なんだか気だるくて、気分が悪くて寝ちゃった時。

あの時、部屋の中には妖精の粉が充満していて。

ぼくは何も知らずにその粉を肺一杯に吸い込んで。そんな部屋の中で過ごしたのだ。

なんて事だ。

ぼくは吐きそうになった。

ああ。だからSF小説は無事だったんだ。粉が撒かれた後だったから。

て事は、あの日一日外で寝てたらぼくだけは無事だったかもしれないんじゃ?

「おーい、アンジェラー」

ぼくはクレアの声に我に返る。

「そんでね。他の人は前からあんたが女の子だった、って思うようになるから」

うわーん。

「で、おちんちんは未だあるの?」

ぼくは小さく頷く。

「そろそろ無くなるから」

「そんなぁ」

ぼくは思わず悲鳴をあげる。

目の前が真っ暗になる。

落ち着けぼく。

「も、元に戻るんだよね。すぐに。一時的なんだよね」

ぼくは呪文のように繰り返す。気が狂いそうだ。

「セックスしなければ」

うわああん。

なんでそんなににこやかに言うんだよう。

パニくるぼくにクレアは優しく声をかける。

「大丈夫、女の子になってもあたし達友達よ」

ひいぃぃー。助けてー。

「あ、ポールだ」

「うわあああ」

ぼくは思いっきりクレアに抱きつく。

「ポ、ポール!?ど、どこに?」

「冗談でした」

「な!」

ひどいっ。ぼくは抗議の、、、

「あ、ポール」

「ひゃああああ。ど、どこどこ」

ぼくはまたまたクレアに抱きついてしまう。

クレアはぼくの頭をよしよしと撫でてくれる。

「ま、女の子同士だからいいけどね。どこでポールに会うかもしんないし。帰ったら」

「そ、そうだよね」

ぼくはお礼を言ってきょろきょろあたりを見回しながら家へ帰る事にする。

家へ帰り着くまでは生きた心地がしなかった。

カギを掛けて、中に誰もいない事を確認して、やっとぼくは落ち着く。

「あと二日。誰にもやられちゃわないように気をつけないと。特にポールに」

言ってて自分で落ち込んだ。

その頃、ポールの心臓は張り裂けそうだった。

確かに、アンジェラとちょっと距離を置こうって決めた。

自分で決めた。

でも、もう限界だ。

限界なのだ。

俺が実は女装子好き、だなんて誰も想像だにしてなかったろう。

俺もつい最近までそう思ってた。

でも違ったらしい。

はははは。

他の事が考えられないくらいアンジェラの事が好きで。

他には何もいらないと思える。

どうしようもない。

笑わば笑え。

俺はついに電話を回した。

ぷるるるる。ぷるるるる。

出ない。どうしちゃったんだ。アンジェラ。

俺は待った。

電話を掛け続けた。

話したい。どうしてもアンジェラと話したいんだ。

なんだか退屈してきちゃったな。

窓に至るまで全て厳重にカギを掛けた。誰も入って来れない。

電話機は受話器を外した。

このまま篭城すればぼくの勝ち。

外に出るわけにはいかないし、、、ぼくは読みかけのSF小説を読みきろうとした。

なんだか、幼稚な話な気がしてきた。

リアルじゃないし。

ぼくはそれを閉じてしまう。

何か面白いテレビはないかな。

ぼくはチャンネルを回す。

アクションをやってた。

退屈だ。

ぼくは深く考える事無く女性向けチャンネルで流れる映画にはまってしまった。

そしてそのまま。ぼくはソファでうたた寝をしてしまったのだ。

夢の中でぼくはまだ何か苦いものを口の中に含んでいた。

ごくりと飲み込んだそれが、ぼくの胃に到達した頃。ぼくはみんなに見られていた事に気づく。そ、そんなぁ。

恥ずかしさに真っ赤になったぼくは起き上がって駆け出す。

走って、走って。でも、どれだけ走っても。ぼくはパーティーから抜け出せない。

「も、もう駄目」

ぼくは息を切らしてベンチに腰掛ける。

なんだか座り心地が変だ。

「うわああ」

ぼくが座っていたのはポールだった。

「ひぃぃぃ」

悪夢だ。

いや、悪夢なんだけど。

ぼくはなんとか立ち上がろうとするけど、なんだか腰が抜けたかのようにまるで力が入らない。

うわああん。なんだか固いものがお尻に当たっちゃってる。これは。これはもしかして。

ぼくのスカートがまくられて、ぼくはパンティを脱がされてしまう。

「いやあああ」

ぼくのお尻のまわりでもぞもぞ動く熱くて固いもの。

や、やだっ。

でも、逃げようと動いた瞬間に、するりとぼくのお尻に彼のペニスがつきたてられる。

焼け火箸をつっこまれたかのような激痛。

「いたいっ」

お尻を犯されちゃった。

でも、それが抜かれて。また入れられて。

信じられない事にぼくはそれが気持ちよくなってしまう。

なんだか心の奥底から感情が爆発しそうになる。

き、きもちいい。

もっと。

あ。

ぼくのおちんちんが消えちゃう。

むずむずする感覚。

ぼくのおちんちん無くなってがヴァギナができちゃったんだ。

その瞬間。ぼくはイってしまい、彼の名を叫ばずにはいられなかった。

「ポール!ポール、、、ポール、、、ポールー!」

その頃、ポールは今夜も眠れなかった。一晩中電話を掛け続け、通話中の音を聞いていたのだ。

「アンジェラ。どうしちゃったんだい、アンジェラ。アンジェラ。アンジェラー!」



2月13日(水)

見なくても分かった。ぼくはネグリジェを着ていた。

そしてぼくにはおちんちんの代わりにヴァギナがあるのだ。

完全に、女の子になっちゃった。

でも、大丈夫。2、3日もすれば元に戻れるのだ。ぼくは自分に言い聞かせる。

ぼくはソファから体を起してテレビをつける。

今日もサボり決定だ。

ぼくはネグリジェとパンティを脱ぐとシャワーを浴びに浴室に向かう。

やっぱりお風呂にしよっと。

ぼくはバスタブに湯を張り、シャボンを泡立てる。

負けない。キューピッドなんかに負けるもんですか。

そのキューピッドは丸一日街を探し回った後にやっとアンジェラを見つけた。彼女の部屋で。骨折り損に彼は少し怒りを覚えた。

まあ、いい。なんとか見つけたんでぇ。

妖精の粉は馬鹿高けぇかんな。

元に戻る前に何としてでもあいつとくっつけねぇとな。

って、ああっ!?

カギ掛けてやがる!

こいつは困った。おれっちには、この矢以外の魔力は使えねぇし、、、

矢を射るときにはあいつがそばにいる必要がある。やっちまったか?

だが、最早おれっちにできる事は待つ事だけでぇ。はやく来てくれ。

頼むぜ。

その頃、ポールはついに受話器を置いた。

止めだ。

俺は冷たいシャワーを浴びる。

待つのは止めだ。

新しい服に着替える。

こんな事してても駄目だ。女々しく待つのはもう止めだ。

俺は猛然と食った。あのパーティー以来、ほとんど何も食ってなかったのだ。

俺は気合を入れる。気分転換が必要だ。

俺は親友のトニーの家に行く。だが、バスケットボールの試合を見ていても。俺の心は別の事を考えていた。

アンジェラ、、、

「パンツが、、、無い。一つも」

ぼくは途方にくれる。スカートとドレスしかなくなっていた。ぼくの顔や体は完全に女の子のものとなっていた。付けた覚えの無い真っ赤なマニキュアまで付いている。しょうがないので、ぼくはのろのろと女物の服に着替える。

今日も外出できそうにない。

ぼくはソファに座ってテレビをつける。

オペラ、ファッションショー、料理番組。今までそんなの真剣に見たこと無かったのに、

なぜだかぼくはそういった番組に見入ってしまう。

お風呂とご飯のほかに何時間もテレビを見たので、ぼくはもうテレビに飽きてしまう。

ぼくは寝室に行って、プレイガールを見つめる。

もうすぐ、プレイボーイに戻るはずだ。

ぼくは表紙の男の子を見ないようにして、それを元の隠し場所に戻す。

晩御飯を食べた後。何もする事がなくなった。

ところでぼくはクローゼットにある服を着たらどんな風に見えるんだろう。

ふと好奇心がわく。ぼくは後24時間で男に戻る。もちろん、男に戻ったら二度とあんな服は着れない。ちょっとだけ。ぼくはドレスに手を伸ばす。

モデルが良いと服まで良く見える。

こっちも試してみようかな。

ぼくは別の服も試す。

ポーズをとってみたりもする。

いろんなドレス。洋服。靴。

組み合わせたり、着てみたりするのがこんなに楽しいなんて知らなかった。

ぼくは夢中でファッションショーを続ける。

どれ位の時が流れたろう。

どんどんどん。

突然の大きなノックにぼくは我に返る。

、、、ぼくの名前を呼んでいる。

「やだっ、ポール!?」

駄目だ。忘れられない。

トニーの話にも上の空だった。俺は家へと帰ろうとした。しかし、気がつけばアンジェラの家へと向かっていた。何時間もそのまま待った。しかし、俺はついにドアを叩き始めてしまった。もう自分でも止められない。止められないんだ。

「アンジェラ。開けてくれ、アンジェラ!」

「うわああん」

ど、どどど、どうしたらいいの。無視した方がいいのかな。帰ってって言った方がいいのかな。

どんどんどんどん。

音がどんどん大きくなる。

うわああ。ドアは大丈夫なの?

駄目だ。ほっとくと危ない。ドアはきしみはじめてる。

ぼくは恐る恐るドアへと近づく。

「お願い、ポール。もう止めて。あと二日したら逢いましょう。ね。だから」

アンジェラの声?

俺はドアを叩くのを止める。いてもたってもいられないが、彼女の意思は尊重したい。

俺は、、、

ふっと目の前が暗くなり俺は崩れ落ちるように眠りに入る。

音も立てずに。

アンジェラ、、、

ポール、、、

ポールが悪い訳じゃないんだ。

キューピッドのせいなんだ。こんな事したのも。

ぼくが元に戻ったら、ポールも元に戻ったらいいのに。

でも、どうしよう。2日後に話すって約束したのに。

なんてことだ。キューピッドめぇ。

なんてこったい。おしめぇだ。

ポールがあきらめちまうなんて。まだ、ドアの外にやつはいるが、もう中に入ろうとしてやがらねぇ。おわっちまった。おれっちも失業かよ。

おれっちも座り込んじまった。まるでポールと同じだ。

なんとか、妖精の粉の効果が消えるまでに彼女に奴に恋してもらわねぇと。って、無理か。もう数時間もすりゃあ、彼女は男にもどっちまう。

つかれちゃった。

ぼくはどうしたらいいのか分からなくなってしまった。ぼくはネグリジェに着替えてベッドに潜り込む。なんだか涙が出ちゃう。ぼくはうとうとしてしまって。そして。

ああんっ。

ポールのおちんちんがぼくのお尻の中で種を撒き散らす。またあの夢だ。

とろりと液をたらしながらおちんちんが引き抜かれる。でも、それが終わりじゃなかったんだ。ポールはぼくを放してくれない。ぼくは優しく彼に持ち上げられる。あ。だめっ。

彼のおちんちんの上にぼくのヴァギナが合わさる。それだけは止めて。やだ。そして、そのままぼくは下ろされてしまう。つらぬかれる感触にぼくはぶるりと震えてしまう。ぼくは彼に犯されちゃったのだ。

い、嫌だ。

嫌だ嫌だ。

こんなのひどい。

でもなんだかぼくはポールのおちんちんがぼくの中で擦られる度にすごく気持ちよくなってしまう。気持ちいい。

でも嫌だ。男に。ポールに犯されるなんて。

でも。あっ。駄目。あう。気持ちいい。

男に。男に犯されるなんて。

なんて、気持ち良い。ああ。犯されちゃってる。

犯されちゃうって。す、すごく。気持ちいい。ああっ。もっと。

ああ。犯されてる。犯されて、すごくっ。すごく気持ちいいっ。

「ああんっ。あん。あん。いっ」

自然に口から言葉がこぼれる。止まらない。すっごく。気持ち良いっ。

ポールがぼくを突き上げて。あ。入って、出て。あん。

「あ。もっと。もっと突いて」

恥ずかしい言葉を口にし始めるとぼくは我を忘れて夢中になった。

突かれる度に快感が押し寄せる。後から後から快感が来る。

気持ちよくって何も考えられない。ぼくは腰を動かし続ける。

こ、こんなに気持ち良いことがあるなんて。ああっ。

星がちらつく。はあああああああん。

イッた。これがイクってやつ。あ。ああああああああん。

はあ。ああ。あああ。ふわっ。ん。んんっ。

きゃううううん。

ぼくはポールが果てるまで、何度もイかされた。

回りには何人も人がいて。ぼくたちを見ていたけど。

その時、ぼくはポールだけを感じていたんだ。

「愛してる」

ぼくの耳元でポールが囁く。

「ぼくもだよ。ポール」



2月14日(金)バレンタインデイ


「ぼくもだよ。ポール」

俺は夢を見ていた。アンジェラの夢を。

なんてリアルな夢だったんだ。いや、夢じゃない。

確かに聞いた。それもアンジェラの家の中から聞こえた。

「ぼくもだよ。ポール」

確かに。

俺は再び立ち上がり、猛然とドアを叩き始めた。そうだったのか、アンジェラ。

俺はドアに体当たりした。

しかし、ドアは頑丈で、俺は跳ね飛ばされ宙に舞う。俺は地面に倒れる。

痛ってぇ。

「アンジェラー!」

             

すごい音がしてぼくは目が覚める。ドアですごい音。ポールだ。どうしよう。

大丈夫なの?ぼくはポールの事が心配になっていても立ってもいられなくなる。

ドアに近づく。

「ポール、大丈夫なの?」

ポールは怪我をしていた。だが愛しい人がドアを開けた瞬間に彼の痛みは消えてなくなった。

俺は立ち上がり、優しく彼女の肩を抱く。

逃げないでくれ。お願いだ。

でもアンジェラは逃げようとはしなかった。

俺は勇気を振り絞って告白する。

「愛してる、アンジェラ」

「わたしも愛してるわ。ポール」

反射的にぼくは答えてしまった。自然に口から出ちゃったのだ。

ぼくの口がポールの口でふさがれる。情熱的なキス。

ああ。なんだ。ぼくはポールの事がこんなに好きだったんだ。夢見心地のキスの中。ぼくはこのままポールとセックスするんだなって思った。そうしてぼくはずっと女の子になっちゃうんだ。ちょっと悲しかったけど、でも愛しちゃってるんだから。悪夢とは違って。ポールはとっても紳士的で。無理やりやろうなんて考えてなかったんだ。

ぼくはポールが服を脱ぐのを手伝って、それから服を脱ぎ始める。

ぼくはポールのおちんちんを握って、優しくぼくのベッドへと向かう。

ぼくはゆっくりとベッドに横たわって、ぼくの上にポールが乗る。ぼくはポールに優しくキスして、両脚を広げる。あは。固まっちゃってら。ぼくはポールのおちんちんをぼくのアソコに導く。

「ねえ、抱いて」

ポールがぼくの中に入ってくる。

夢の中なんかよりも、ずっとすごくて。

まるで天国にいるみたいだった。

ポールは最初は優しくしてくれたけど、だんだんスピードをあげてくれて。それがとっても良くって。ああ。ポール。すきっ。すきすきっ。

このままずっとしていたい。ぼくは彼の腰に足を回す。

そして何度でもイってしまう。何十分も激しく愛し合った後、ぼくらは一緒にイって、抱きしめあった。そうして、ぼくらはそのまま抱きしめあって寝た。ぼくは眠りながら、この呪いは本当は呪いじゃなくって祝福だったんだって思った。ありがとう、キューピッド。

なんだなんだ。おれっちは呆然としていた。

おれっちが矢を射るより早く。イベントがはじまっちまった。アンジェラがポールに愛してるって言ったとき、俺はショックで動けなかった。

本当の愛だ。

おれっちの魔法による愛じゃなくって、本当の愛だったんだ。

でなけりゃ説明できねぇ。

ポールがあんなに待てたのも。

アンジェラが矢に射られなくっても自分の愛を認めちまった事も。

おれっちは泣けてきた。感動した。

これだ。おれっちはこんな仕事がしたかったんだ。

これがおれっちの人生には欠けてたんだ。矢を射てすぐ退出。そして飲んじまう。ああ、おれっちは間違ってた。

ああ、真実の愛。

おれっちはパーティーの夜に出会ったあの娘の事を思い出していた。

多分、二度と逢えねぇ。

でも、逢いてぇ。逢ってみせる。

もしかしたら。おれっちは彼女と真の愛を見つけられるかもしれねぇ。

クレア・トンプソンは笑わずにはいられなかった。キューピッドも人間たちも、みんなだまされちゃってフェアリーも妖精の粉も。実は何年も前に絶滅して久しい。だからなんとかしたっかった。キューピッドがあたしの友達を狙ってるって知って。あたしは彼の矢に魔法を掛けたの。彼が最初に見たものを好きになるようにってね。ポールがアンジェロを見たとき、アンジェロはポールの恋人になるって運命づけられちゃったの。ニセモノの妖精の粉を作ったのもあたし。

何故って?愛のためよ。キューピッドだけが愛の使者じゃないわ。あたし達魔女もまたそうなの。ポールとアンジェロは良いカップルになるってわかってたしね。あたしの占いじゃあ相性ぴったりだったわ。ただ、同性だってのが問題だったけど。だからあたしがちょっと助けてあげたって訳。

キューピッドとあたしも結構上手く行きそうだしね。そう、あたしは結局彼にも全てを話しちゃった。だって、愛する二人に秘密があっちゃまずいもんね。

アンジェラです。ぼくがこの話を書いたんだ。ぼくに起こった出来事をね。

どうやって知ったかって?だって、ぼくは妖精だし。

耳や羽?ああ、あれはぼくが魔法を唱えてる時だけ出るんだ。

兎に角、ぼくはぜ〜んぶ、クレアの仕業だって、魔法で知ったんだ。怒ったかって?

最初はね。でも、もういいんだ。

だって、ぼくらはラブラブだし。ポールったら、ホントにかっこいいんだよ。なんでぼくが怒るのさ。信じないかもしんないけど、ぼくらとクレアたちは今度のバレンタインにダブルで結婚式をあげるのさ。

だから。

素敵なバレンタインデイを楽しんでね。

え、楽しんでないの?

じゃあ、ぼくか、キューピッドか、クレアが。

きみのとこに行ってあげるよ。

、、、クレアが良いのかい?

OK。伝えとくよ。きみも好きだねぇ。

じゃあ、お付き合いありがとう。

ばいばーい。

<おしまい>