「被験者AがBに自我を受け渡してしまうとは、これは面白い実験結果になったな」

 私はコーヒーをすすりながら、モニターをみる。

 ゼリーの浸入した割合が5割、残った割合も5割同じ量かつ半分だったゆえに自我がシンクロし、同じ行動や台詞を同時に発していたのだろうか……?
 被験者Aは、Bの自我を引き戻すために自我の極小行動をし始めた。

 ゼリーの意識レベルが10割に対して5割しか入ってなかったのだから、自分が操作してる自我を極端に小さくすれば、10割を保っている方の自我が復活し体を操っていた5割の自我は消滅するということか。

 「つまり被験者Aは自分自身の自我を極端に小さくすることによって、Bに自我を明け渡したと言うのか」

 これだからゼリージュースは面白い。

 もともとの持論として皮から記憶を読むのではなく。
 皮の中に残った多少のゼリーが、意識情報として皮の中に進入した人物に記憶とその動作を無意識レベルで与えるというのが私の考えだった。
 そのために直接口移しでゼリーを移し変えた場合には、記憶を得ることができないという差がでているのではという結論に至った。

 この実験で証明できるかと思ったが、それよりも面白い結果がでたので良しとするか。

 「くくく……。これは興味深い、実に興味深い。君もそう思わんかね?」

 笑いがこらえきれない私はくるりと椅子を回転し、後ろにいた看護服を着た女性に話しかけた。

 「ええ、大変興味深いと思います」

 彼女は平坦な口調で感情を表に出さないまま、そう答えた。
 
 「うむ、そうだろう、そうだろう?」

 彼女の受け答えに満足すると、私は再び目線をモニターに戻した。

 「で、今日の被験者は、もう来ているのかね?」

 私がそういうと、彼女が後ろでカルテを読み始める。

 「はい博士、今日は6名の被験者が来ています」

 「被験者一名は、すでに『処理済』かね?」

 「はい、すでに黒のゼリージュースを飲食しゼリー状態になったものを配置しております」

 彼女の説明に満足した私は、ニヤリと笑いながらモニターを見つめた。

 「そうか、では早速実験を始めるとするか」