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「あ、すいません」 急にぶつかった相手に、謝る。 「いえいえ、大丈夫ですよ」(お、かわいい女の子ジャン、こんな彼女俺にも欲しいなぁ) 相手は片手を上げて、気にしないでと去っていく。 私はそのまま、雑踏の中になにをするのでもなく身を置く。 (今日はもう仕事したくねぇー) (むかつくむかつくむかつく) (お夕飯なににしようかしら) 今日もあいかわらず、雑踏の中から声が聞こえてくる。 - 違和感 - (前編) 作:リイエ 何をしないでも勝手に私に聞こえてくる『心の声』、私のような人をテレパスというらしい。 こういう能力をなんでもって生まれたのかは知らない。 昔母親にこのことを話して気持ち悪がられて以来、誰にも話していない。 こんな能力なければ良いのに。 自分の意思とは無関係に膨大な量の声が飛び込んでくる。 「はぁ…」 私はいくつついたかわからない、ため息を吐く。 今日も学校に行くのか…… 自分ではそう思っていないが、私は容姿がいいほうらしい。 その所為か下心を出した、男子連中が常に言い寄ってくる。 それだけならいいが、さらにその人たちの妄想を聞かされちゃたまったもんじゃない。 公然わいせつに近い……、本当に耐え難いものである。 先生もいやらしい目で見るし、女の友達は表面上だけしか普通に接してくれてない。 嫉妬にも近い彼女らの心の声を毎回聞くのはうんざりである。 しかし、そんな私にも仲のいい友達がいる。 人が少ないという理由から入った、文芸部で仲良くなった男子、藤木君である。 心の中でも、言葉上でもしっかりと私のことを評価してくれるいい人だ。 口下手なのか、思っていることをはっきりといえないらしいのだが私には関係ない。 彼の心づかいに感謝している毎日である。 (あ、浜中さんだ……、どうしよう声をかけようかな。 けど僕なんかが声かけちゃっても迷惑だよね…) そんな考え事をしていると、藤木君とわかる声をキャッチした。 後ろを振り向いてみると、髪の毛で目まで隠れている私より小さい背の小柄な体系の学生がいた。 「やぁ、藤木君。おはよう」 挨拶を戸惑っている彼に私は手助けをだす。 「あ、あ……お、おはよ……う。浜中、さん」(あ、浜中さんが気付いてくれた。返事をちゃんとかえさないと!!) 「今日もいい天気だね」 「………うん」(暑くて倒れちゃいそうなのに、浜中さん元気だなぁ) 「大丈夫かい?体調わるそうだけど」 私は、藤木君の声を読み取り、具合が大丈夫か聞く。 そうすると、藤木君はあわてて首を振った。 「う、うん!大丈夫」(僕体調悪そうな顔してたかな、いけないいけない気をつけないと) 「そうかい?」 一緒に登校しながら、私は彼の横顔をみる。 彼の性格と容姿からか、少し前まではいじめられていた。 いまは髪で目線を隠しているが、こういうと彼に失礼なのかもしれないが素顔が非常に、なんというか女の子っぽいのである。 それに加え、体つきも華奢なためよく前は女の子に間違えられるみたいだった。 私は途中から文芸部に入ったのだが、そのころは彼は心の傷が大きく広がっていた。 女子からは容姿のため人気があったためか、一部の男子に影で陰湿ないじめを受けていた。 声を読み取り間一髪のところで間に合ったが、間に合わなかったら彼は女に見立てられていじめを受けている男子たちにその………、行為をされるところだった。 いじめ現場を取り押さえ、私が粛清したに加え学校から処分を受けた彼らたちは退学していった。 彼はいまだに、そのことがトラウマになっており夜遅くに出歩けないらしい。 いまもいじめた奴らが、襲ってくるんじゃないかと。 そのことも含め、恩着せがましいとかではなく彼はこころのそこから私に感謝してくれて、さらにはきちんと一人の人間として評価してくれている。 私はそんな彼のことを尊敬しているし、すごい人だと思っている。 傷を受けたとはいえ、誰にも言わないで耐え抜くその心に。 彼を助けられた事に関しては、この能力に感謝している唯一の点でもあるわけだが。 「あ、あの……まっまえ」(浜中さん、また考え込んでいる。前見て歩かなくて大丈夫なのかな?) 彼をみて、考えにふけっていると彼から声がかかった。 「あ、あぁありがとう、ふむ…たしかに前を見ないと危険だね、気をつけることにするよ」 そういって彼を見ると、彼はにっこりと微笑んだ。 「うん」(浜中さんはやっぱすごいな、僕のことをすぐ理解してくれる) 今日もくだらない一日じゃなくなったことを藤木君に感謝しないと。 こういう毎日が続けば良いなと私は思っていた。 本当にそう思っていたんだ。 彼を信じていた。 「あ、お、はよ……」(ぐふふ、やっぱ浜中の胸はでけぇな、見ごたえがあるぜ) 「………あ、あぁ、おはよう」 藤木君におかしいところはまったく見受けられない。 「どうしたの?」(なんでこっちをみてんだ?) 私が見ていると、少し首を傾けながら私に聞いてくる。 すべての動作が彼のものだ、いやおかしい点なんて一つもない。 一つもないのに……… 「いやなんでもない、さぁ早くしないと遅刻する。 ちょっと急いでいこう」 「わ、ちょ、ちょっと……まって……」(まだ時間あるのに何をいっているんだ、それにしても良い匂いだな) 「っ!!!」 声を聞き取り、ひっぱてた手を急に離してしまう。 「すまない、ちょっと今日は体調が悪いみたいだ、先に行っていてくれ」 「うん……」(なんだ?やけに機嫌悪いな?あの日か?) 私はその声を聞き取り、顔を真っ赤にする。 しかし不審がられるし、それを見せるわけにも行かないので彼に背を向けたまま彼を見送った。 なんで? 彼はあんなにも…… 豹変? それにしては急な変化過ぎる。 私は窓枠にひじをつきながら考え込む。 彼の変化はどう見ても、急激でありおかしい。 まるで別の人が入り込んだような… しかし、表面上は藤木君そのものである。 まったくおかしいところなんてない、声が声だけが私を惑わせる。 あれ?そういえば一度似たようなことを体験したような……? なんだったっかな。 私はその引っ掛かりを考えたまま、彼とは今日は会えないので文芸部を休み家へ帰ることにした。 無断で休むが仕方ない、今の彼に会うのは少し辛い…… ♪〜〜〜 家に帰って、部屋着に着替えていると携帯の着信がなり始めた。 『藤木君』 ディスプレイには彼の名前が表示されている。 一瞬迷ったが私は電話を取った。 「はい」 「も、もしもし……、藤木ですが」 「あぁ、藤木君かいどうしたんだい?」 「あ、あの…、今日…、ぼ、僕なにか気に…さわる」 「いやいや、そういうことじゃないんだ、今日はたまたま体調が悪かったから帰らせてもらったんだ。 連絡しなかったことは謝る、すまない」 「いっ、いえ……、お大事にしてください」 「うん、ありがとう」 プッ、ツーツーツー 声の聞こえない電話だけだと、普段の藤木君なのに。 なんで、なんで声でおかしなことをいうの…… 「あっ!!!おもいだした」 そうだった、いつの日かの銭湯のときだった。 女の人なのにやけに興奮して、私とかの局部を見ていた人だ!! あの人も表面上は普通だったのに、やけに声だけ興奮していた。 なんだろう……、表面。 声だけ別人。 「ん?今何を考えた」 声だけ別人、そうか!! 「ばかげているかもしれないけど、私の存在だってばかげているんだしありえなくはない」 そうか、なんで考え付かなかったんだろうか。 「わたしのばかばかばか、テレパシストがいるんだからほかの能力を持っている人がいてもおかしくない」 銭湯の女の人よろしく、藤木君も誰かに何かをされているのであったら…!! 「彼を救わないと………、でもどうやって?」 直接いったとしたら、彼はもう戻って来ない気がする。 なんでだろう、これだけは直感でわかってしまう。 直接じゃないとすれば、どうすればいいのか。 「まずは彼の能力がなんなのかを見極めないと」 明日以降、聞きたくなかった彼の声を注意深く聞かないと。 ヒントが隠されているかもしれないし。 それと彼の家だ、こうなっている以上彼の家に秘密が隠されているかもしれない。 けど、忍び込むわけにもいかないし、どうしようか……… 私はそのまま、夜が明けて小鳥がなきはじめる時間まで思案していた。 (続く) |