【デンジャラスメロン+】


作:リイエ




「ねぇ、やっぱし止めようよぉ〜。
 見つかったら怒られちゃうよ……」

僕、都市宮充は病院に入り込もうとしている幼馴染、九音香織に言った。

「なぁに言ってんの!だからあたしは一人でくるって言ったじゃない!」

「痛い、痛いってば香織ちゃん、それに無理やり僕をつれて………」

「うっさい!」

すると、香織ちゃんはいつものように少し怒ったような顔で僕を小突いた。

「まったくもう……、行くわよ充!」

「あ…、待ってよぉ!」

ずんずんと病院の中に入っていく香織ちゃんを僕はおっかなびっくりと追いかけた。

事の始まりは、香織ちゃんの好奇心からだった。
1学期の終業式に香織ちゃんのいつもの悪い癖が出てしまったのだ。

「……充、充。ねぇ充!」

僕が、ボーっと机に座っていると、隣の席から声が聞こえてきた。

「充!聞いてるの!?」

「え?なになに?」

僕がとなりの席を向くと、家に帰ってからも顔を向き合わせる相手、九音香織がいた。
香織ちゃんの様子は、笑顔で凄いワクワクしているような顔をしていた。
やばい………、この顔はまたなにかよからぬことを思いついたな。

「やっぱり、聞いてなかったのね。
 だから、夏休みに病院にいこうって話よ!」

「病院……?」

病院?誰か入院してたっけな?

「またなんか違う世界に言っているわね!
 違うわよ、探検にいくのよ!」

「は?」

意味がわからず、ぽかーんとしていると。
肩をがしっとつかみ、笑顔で、いや目が笑ってないけどね。

「病 院 に 探 検 に い く の、わ か っ た?」

「………はい」

迫力に圧倒されて、頷くしかない僕。
周りは、クスクスと『またあの二人やってるよ、仲がいいねぇ』と冷やかしていた。

「こらぁぁぁ!うっさいわよ!!」

それに反応して香織ちゃんが暴れまわる。

はぁ、やっと開放されたよ。
ふぅ………、この場だけの適当な思い付きならいいけど。
確実に来るであろう、いやなイベントを想像しつつ僕はため息をついた。

「さ、香織ちゃん帰ろ?」

暴れている香織ちゃんをなだめて、家に帰宅した。
通信簿を親に見せて、いつも通りの成績で『次ももっとがんばりなさい』とお決まりの文句をもらってから、自分の部屋へ戻る。
○とか◎とかをみて、うちの親は嬉しいのだろうか?
疑問に思いながら、夏休みの宿題の予定表を立てていると、窓からコツン、コツンと音が鳴った。

「なーに?香織ちゃん」

窓を開けると向かいに同じく窓を開けた状態の香織ちゃんがいた。

「なぁに?じゃないわよ!!そっち行くからどきなさい!」

「わかったよぉ」

そう言うと、僕は少し窓から離れた。
香織ちゃんは器用に、うちと香織ちゃん家の窓をつたってこっちに来た。
何度も見るけど、すごいなぁ。

「すごいねぇ」

「何言ってんの、あんたもそれくらい出来なきゃだめでしょ!男の子なんでしょ!?」

「そうだねぇ、また今度ね」

たはは、といいつつ頭をかく。
ぷんぷん、怒っている様子だけど、まぁそんなに怒ってないこともわかってるので話を進める。

「で、今日はどうしたの?」

「だから言ったでしょ!病 院!」

「えぇー。なにも今日行かなくても…、もう夜だよぉ?
 昼でいいじゃない、そもそも何で病院にいくの?」

「えーい、まったくぐちぐちぐちぐちうるさいわね!
 けど、行く理由を知らないのはかわいそうね。
 しょうがないから、教えてあげるわ!」

「うん、教えてもらえると助かる」

そして、やめてもらえるともっと助かる。
と言おうかなって思ったけど、怒られるのでやめた。

「最近ね、うちの近くにある病院あるじゃない?
 …………出るらしいのよ」

うちの近くってことは、新体書病院のことかな。
それにしても………

「出るって?」

素直に、疑問に思ったことを香織ちゃんに尋ねた。

「出るって言ったら、決まってるじゃない!
 お化けよ、お化け、おかーさんが言ってたもん絶対だって!」

「お化けか……」

その言葉を聞いて、三角頭巾をかぶったお皿を数える人を思い出した。
が、頭に強い衝撃を受けて、意識を前に戻すと、膨れっ面をしてる香織ちゃんがいた。

「まぁ〜た、聞いてなかったでしょ!つうかぼーっとしてた、確定!」

「ごめんって、そのお化けを見に行くってこと?」

そう言うと、香織ちゃんは、いささかビックリしたような顔をして。
そこまで、僕も抜けてるわけじゃないんだけどなぁ。

「やるじゃない、そう、その真相を確かめに行こっ!」

「んー、やめない?」

言った瞬間に、香織ちゃんが僕にスマッシュヒット。
ガツーン、おー頭が揺れる揺れる。

「行くって言ったでしょ!」

「でもぉ、危険だよ?おばさんにばれたら怒られるよ?
 今日おばさん、夜勤でしょ?」

香織ちゃんのおかあさんは確か、あの病院の看護婦長みたいなのしてた気がしたんだけど。
見つかったら、僕の親にも言われて二人とも大目玉だし、夜道を歩くのも危険だしなぁ。
これをいっても『大丈夫よ!あたしがいるもの!』とか言ってきかないだろうし……。
ついていくのしかないのかなぁ……。

と、話は冒頭に戻るのである。
僕たち小学生が夜道を歩いてたら確実に補導されるので、見つからないように慎重に病院に向かうのであった。
もちろん、家には寝てるっぽい風に布団を細工して。
あー、ばれたらやだなぁ。

「充!なにぼーっとしてんの!入るわよ!」

「あー、まってよ香織ちゃーん」

この病院は裏口が常に鍵がかかってないため、簡単に入れるのだ。
もちろんそのため警備員の人とか、おばさんを始め看護士の人達が見回っているけど。

「さて、第一の検証よ!」

香織ちゃんは女子トイレの壁を叩いた。

「あんまし強いと、見つかっちゃうよ」

「あ、そうね気をつけるわ」

「で、第一って?」

僕が言うと、香織ちゃんは軽くコホンと咳払いして説明をしてくれた。

「このトイレに深夜行くと、ドッペルゲンガーに出会うらしいの」

「ふぅん」

「何よっ!興味なさそうだわね!」

ふんっ!といきまいてから、さらに詳細を僕に教えてくれた。

「なんか用をたしてると、急に全身が包まれたような感じがして息苦しくなるんだって」

「ふむふむ、それで?」

「で、ふっと軽くなったと思ったら、裸の状態の自分が目の前にいて、笑うんだって」

「笑うだけ?」

「うん、実際体験した人はそこで気を失ったみたいで、起きたら誰もいなかったみたい。
 ドッペルゲンガーなんて、素敵じゃない!けど………、なにも起きないね」

うーん、ドッペルゲンガーかぁ、いささか信じがたいけど。
苦しくなるって言うので、その時点で幻聴を見てるっていう可能性がありそう…。
ガスとかも病院だから気をつけてるわけだし、病気の人が見た幻覚かなぁ。
危険もなさそうだし香織ちゃんが、満足するまで一緒にいればいいか。

「じゃあ、そのドッペルゲンガーがでるまでちょっと待ってみるぅ?」

「お、充の癖に、ちょっと興味がでてきたわね?」

「うーん、そうとってもらって構わないよ?」

すると、香織ちゃんが抱きついてきた。

「ちょっ……、香織ちゃん」

「さっすが、あたしの充ね!」

恥ずかしいなぁ…、まぁ誰もいないしいいか。

……………
………………
20分くらい個室で待ってるけど、何も起こらない。

「香織ちゃーん、何かあった?」

僕がとなりの個室に声をかけると、返事が帰ってくる。

「特に何もないわねー、何も無いし終わりにしましょうか!」

「じゃあ出るよー」

これで、病院から帰れるかなぁ。

「じゃあ次の場所行くわよ!」

「えぇ!?」

手を引っ張る香織ちゃんを引き止める。

「ちょ、ちょっと待ってよ、もう帰るんじゃないの?」

「なーに言ってんの、さっきあたしは第一って言ったじゃない!」

あ……。

僕の顔に気づいたのか、笑顔になって。

「わかったわね、じゃあ行くわよ」

「はい…」

もう、眠いよぉ。

次に引っ張られてきた場所は中庭だった。
病院内から入れる特別な場所みたい。
はじめてきたけど、建物の中にこれだけ植物があるなんてすごいなぁ。

「第二の検証は中庭のうつし鏡よ!」

「うつし鏡?」

そんな鏡はどこに……、あった。
中庭の中央のところに大きい鏡と、ベンチがぽつーんと置いてあった。

「ここで、夜鏡を見ると急に話しかけられるんだって」

「なんて?」

「その姿に絶望してませんか?って」

「それで?」

「いいえって答えると、『そうですか』って気配がなくなるんだけど……」

ゴクリと、自分の唾を飲む音が聞こえた。

「はいって答えると?」

「急に口に何か飲まされるんだって。
 そして、みるみる違う姿になってしまうんだって」

「うんうん」

「で『あなたの姿、確かにもらいましたよ』といって消え去っちゃうんだって」

「うーん、なんかよくある話っぽいよぉ」

「実際あった人は冗談半分でいったらしくて、あまりのショックに失神してしまったらしいの」

「また、失神ですかぁ……?」

僕が馬鹿にしたような言い方で、受け答えると。
香織ちゃんは、膨れっ面になって。

「あー、本気にしてないでしょ!」

「まぁまぁ、ここで待ってみれば判るんだから」

「ふん!」

香織ちゃんはそっぽを向いて、ベンチに座った。
うーん、姿を入れかえるねぇ。
最後の失神といい、なんか引っかかるなぁ。

「………、何も起こらないね」

香織ちゃんのほうを見る。
ちょっと、ワナワナ震えている気もするけど……。
やばい!

「あー!み…むぐー!むぐー!」

「香織ちゃん声大きぃ、落ち着いて」

僕はあわてて手で香織ちゃんの口をふさいだ。

「落ち着いた?」

香織ちゃんはコクンと頷いたので、手を離す。

「まぁ、うわさなんだししょうがないよ」

「次……、行くわよ」

ちょっと、ばっかり何も起きてないのがお気に召さないのか不機嫌モードに入ってしまった。
これは機嫌を直すのは骨が折れそうだなぁ……。
ため息をつきながら、香織ちゃんの後ろを追った。

「最後の検証は、ここよ!」

「うーん、ここはぁ………、病室?」

「そう、最後はこの病室の生霊が自分の動かせる肉体を捜して、夜な夜な人の体を借りてまわっているって話よ」

借りて回る?
どういうことだろうか。

「ここを、夜通りかかった人が、ここを通りかかった瞬間急に意識を失ってしまったんだって」

「また、意識を失う話なんだぁ」

「茶々を入れない!
 で、朝になって倒れているところを看護士さんに起こされたらしいんだけど、身に覚えの事をしてるんだって」

「えー、うーん」

僕が考え込んでいると。

「これは、あたしのおかーさんに聞いた話だもの、本当よ!」

「おばさんが?」

「そうよ、だから……えっ、あぁ…うっ」

「ど、どうしたのぉ?香織ちゃん大丈夫?」

急に香織ちゃん、苦しむ様子を見せ始めた。
と、思ったら、すーっと普通の顔に戻った。
が、しかし何か様子がおかしい。

「か、香織ちゃん?」

おそる、おそる香織ちゃんの顔をのぞいてみる。

「ふふっ、私香織に見える?
 そうよね見えるわよね、香織だもの」

と、香織ちゃんは自分の体をゆっくり確認していく。

「ど、どうしたのぉ?」

「小学生なのに、こんな夜中に病院に忍びこんで、なにをするつもりだったのかなぁ?」

!?
やっぱり香織ちゃんだけど、こいつ香織ちゃんじゃない!

「お前は誰だぁ!?」

「ふふ、見ての通り私はあなたの知っている香織ちゃんよぉ?」

「香織ちゃんはそんないい方しないぞぉ、第一香織ちゃんなら言っていることがおかしいぞ」

「香織ちゃんの体はもう、私のものよ。ふふっ。
 忍び込んだバチが当たったわね」

香織ちゃんは、普段香織ちゃんがしないような、いやな顔で笑った。
いやだ、そんなの香織ちゃんじゃない!

「香織ちゃんを返せ!香織ちゃん、香織ちゃん!目を覚まして!!」

「呼んでも無駄よ、香織ちゃんはもういないの、ふふ」

「嘘だっ!香織ちゃん!香織ちゃん!」

「うるさい子ね、ちょっと黙ってもらおうかしら」

すっと、香織ちゃんを乗っ取ったやつが僕の上に何かを向けた。

ヒュッ、ガツン!

頭に衝撃を受けると同時に、意識が遠くなってきた。

「かお……り…ちゃ……ん」

僕の目に最後に映ったのは笑顔でこちらを向いている香織ちゃんだった。

「………く……ん」

「………る……く…ん」

「み………る……君」

「充君!充君!大丈夫!?」

体を起こす、頭を振って状況を把握する。

「あれぇ?ここは、どこだっけ?」

「よかったぁ、こんなところで倒れているからビックリしちゃった」

「あ、おばさん」

「なんで病院にいたのかわからないけど、その事についてのお説教は後にしておくわ。香織をお願いね。」

といって、眠っている香織ちゃんを渡される、うっ重い……。

「じゃあおばさんは行くわね、長年植物状態で昏睡していた女の子が目を覚まして病院中てんやわんやなのよ」

といって、向こうの方に駆け出していった。
それより、この眠っている香織ちゃんは香織ちゃんなのだろうか………。

「う、う〜ん」

!?
起きた!?

「かお……りちゃん?」

「なによぉ?充?ってここ病院!?ってかあれ???って」

「よかったぁ!!香織ちゃん、大丈夫だったんだね!!」

嬉しくなって香織ちゃんに、抱きついた。

「な、なによぉ!?ど、どうしたの一体!?恥ずかしいじゃない」

と、香織ちゃんの顔が赤くなっていた。

「んー、なんかドアの前で話してたら急に意識が無くなったのよねぇ。貧血かしら?」

「ははは」

昨日の出来事は、僕の胸の中だけにしまっておこう。

「これは、確実に怒られるわね」

「そうだね、まぁしょうがないよ」

と、苦笑しながら話していたら、昨日の香織ちゃんがおかしくなった病室の前に立っている人が変なペットボトルを地面に投げつけていた。

「あの馬鹿っ!だからいったのに!」

その男の人は、大きく天井を仰いでため息をついていた。
まぁ、あの人にもあの人なりの事情があるのだろう。
僕は香織ちゃんが無事だったことに喜べばいいや。

これからお説教が待っているのも、香織ちゃんが無事だったことに比べれば全然苦になんないや。

「あー、よかった」

「何がよかったのよ!結局なにも解決しないままだったじゃない!
 これからおかーさんにも怒れるだろうし、泣きそうだわ!!
 一緒に怒られなさいよ!!」

「はいはい」

怒っている香織ちゃんを、笑いながら見ている僕であった。


END?