腹が焼けるように熱い、血が止まらない・・・・。
撃たれた場所を手で押さえつつ、撃った張本人をにらみつけた。

「隊長・・・・、なぜ、何故俺にこんなことを・・・信じていたのに。
 持ってる・・・、ゼリージュース・・・それで俺をどうするつもりですか・・・」

「あぁ、この緑のゼリージュースか?
 緑のもう一つの使い方を教えてやろう、それはな・・・」

その言葉を聞いたところで俺の意識は無くなった。
そして存在も同時に消えた、俺という人間の存在が。





【TSショップ、山本の日常7】

作:リイエ





「由紀さん、カルテここにおいて置きますよ」

「はい、ありがとうねアキラちゃん」

こうやって女の姿から戻れずに、クリニックYUKIで1ヶ月も仕事をしている。
最初はなれない作業で戸惑う事も多かったが、摩耶さんや由紀さんに手伝ってもらって徐々に仕事にも慣れてきた。
って・・・・、だめだろ俺。

といっても、元に戻る方法なんて俺にはわからないし・・・
働くと覚悟を決めても、気が滅入るなぁ。

「はぁ・・・」

と、ため息をついているとバァンと背中をたたかれた。

「うひぃ!」

情けない声を上げてしまう俺、あわてて後ろを振り返ると由紀さんが笑顔で俺のほうを見ていた。

「なーに、湿っぽい顔してるの?」

こうなった原因はあなたにあるんでしょうが、と口まで出かけるがグッと飲み込む。

「いいえ、なんでもないです。
 それより今日はもうお客さんこないんですか?」

「たしか、さっき来た人で最後かな。
 ちょっと早いけど、今日はもう閉めちゃいましょう」

っとその時、診療室の電話が鳴り始めた。
摩耶さんが手早く受話器をとり、受け答えをし始める。

「はぁーい、クリニック・YUKIですがぁ。
 あ、俊行さん!お久しぶりですぅー。
 え?先輩ですかぁ?はい、はい、ちょっとぉ待っててくださいねぇ」

受話器に手を当てると、俺と由紀さんのほうを振り向いた。

「せんぱぁい、俊行さんから電話ですよぉ」

「え?急に電話だなんて、何の用事かしら」

そういって、由紀さんは受話器を受け取る。

「こんにちわ、えぇ・・・えぇ・・・え!」

驚いたり、なにか唖然とした表情で由紀さんは電話で話している。
相槌ばかりなので、話の内容がわからないが、顔の表情からあまりいいことでないことはわかった。

「そう、ありがとう・・、こっちも気をつけるわ、また連絡するわね」

受話器を置いて、俺のほうを向いた。
いつもとは違う真剣な表情で、思わずこちらも緊張してしまう。

「えっと、小野さんなんて言っていたんですか?」

「いまから言うことを落ち着いて聞いてね、決して慌てちゃだめよ」

「えぇ、はい」

あまり要領を得ないが、重要な話だということは由紀さんの顔を見ればわかる。

「えっとね、いままで仕事をしてもらっていたのは、あなたの保護でもあったの」

「え!?どういうことですか?」

いきなり、突拍子もないことを言われて、聞き返してしまった。
保護とはどういうことだ?

「落ち着いて。とりあえずそこに座って」

「はい・・・」

言われたとおりに、患者用の丸椅子に座る。

「あのゼリージュースを作っている会社には、いろいろ汚い部分もあるのよ。
 まぁ、その一部が俊行さんが公表していないゼリージュースの販売とかなんだけど」

おそらく、由紀さんが言っているのは、黒やクリーム、ピンクのゼリージュースのことを言っているんだろう。

「で、その汚い部分が、あなたに目をつけていたわけなの、それで俊行さんにあなたを保護してくれって言われて、ここで働かせていたわけなのよ」

「なるほど、だから俺をこういう姿にしたわけですね」

俺が感心したように、そう言うと。
由紀さんははにかんだ様な、照れ隠しのような笑い方をして指でこめかみを掻いている。

「たはは、それは私の趣味、一回やってみたかったのよ、ごめんね?」

ズテンと俺は丸椅子からこけてしまった。
そんな俺を、摩耶さんが腕を抱えて起こしてくれた。

「先輩もぉ、悪気があってぇ、そういうことをやったわけじゃないからぁ、許してあげてくださいねぇ」

「もちろん、姿を変えてごまかすって意味もあったわよ」

と、後から付け加えるように、由紀さんは言った。

・・・・確信犯だな。

「まずいのが、ここからなのよ」

由紀さんは急に真剣な顔になった。

「あなた自身がいなくなったことによって、あなたのお友達二人に火の粉が飛んで言っちゃったみたい。
 俊行さんの部下の女の子と、あなたの知り合いの女の子が行方不明になったらしいの」

「それって・・・」

「うん、その汚い部分につかまっちゃってる恐れがあるわね、ううん確実につかまっちゃっているわ」

「そんな・・・・・」

俺はがっくりひざをついてしまった。
俺のせいで、また誰かが傷つくのか?
そんなことはしないって誓ったばっかりなのに。

「アキラさん・・・・、泣かないでください」

「え?」

摩耶さんに言われて俺は涙が出ていることに気づいた。
腕で、涙をぬぐって、由紀さんのほうを見た。

「つかまっているってことがわかっているってことは、なにか助けられる方法があるってことですよね」

「うん、けど一歩間違えば『飛んで火にいる夏の虫』になってしまうけどいいの?」

頭に大野とめぐみの顔が浮かぶ。
答えは最初っから決まっている。

「えぇ、例え俺がどうなろうと、二人を助け出せさえすればいいです」

俺がそういうと、由紀さんは黙ったまましばらく俺の顔を見据えた。
そして、ふぅ・・・とため息をついた。

「そこまでの覚悟があるならいいわ、俊行さんにこっちから連絡をして、二人を救出する作戦を立てましょう」

由紀さんは、先ほど机においた受話器を再度手に取り、小野さんに電話をし始めた。


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-某所地下施設-

銃で部下に致命傷を与えた隊長は、その部下に緑のゼリージュースを飲ませると、傍らにいる別の部下に横になるように命令を下した。そしてその上に緑のゼリージュースを飲ませた瀕死の部下を乗せた。

ずぶずぶと、瀕死の部下が横になったもう一人の部下へとしみこんでいく。
しばらく後、二人の部下が完全に一つになると、横になっていた部下はむくっと上半身を起こした。

「どんな気分だ?」

隊長が言うと、部下はいたって平坦な顔で「特に問題はありません」と言った。
隊長は部下の声に、手で顎を触りながらなにかを考えている様子だった。

「記憶の統合に何か問題点はあったか?」

「特に問題ありません、技術開発の記憶のみ統合されています。
 人格の移り変わりはありません」

「そうか・・・、ご苦労。
 部屋に戻り、休むことを許可する」

「ありがとうございます」

隊長の命令に部下は頭を下げ、暗い地下施設の扉から出て行った。

「わしの考えは間違っていなかったか・・・、瀕死のものに精神統合のゼリージュースを飲ませれば記憶と技術だけを写し取れる。
くくくく・・・・・・、はっはっはっはっはー」

隊長の笑い声は、地下に響き渡っていった。


-続く-