俺は目の前で起こっている事態を理解できなかった。

「うふふ・・、気分はどう?」

めぐみは、使った事のない様な気味の悪い笑みを浮かべた。

何故?めぐみがこんなことを?






【TSショップ、山本の日常4】

 作:リイエ






「や、や、やめようよ、た、高橋さん。
 じょ、冗談でしょ?」

めぐみの変貌の理由がわからない大野は、唯々うろたえていた。
俺はそんな大野を横目にうなだれていた。

「ひひ、山本も、だ、黙ってないで、高橋さんに、な、何とか言えよ」

「可能性として一つ・・・・」

「へ?」

急に俺が呟いた言葉に、大野はキョトンとした顔をした。
相変わらずめぐみは、笑顔のままこちらを眺めている。

「だが、何故それを俺たちにやる必要があるのかがわからない。
 そもそも、それが合ってたとしたら俺たちはもう無事に帰れないかな」

「あら、明君。
 こういう事になるって判っていたの?」

俺はめぐみの方をキッとにらんだ。
大野は目を白黒させている。

「いい加減お芝居はやめたらどうだ。
 お前、めぐみじゃないだろう?」

「や、山本!?も、もしかして?」

「そうだ、こいつはめぐみじゃない。
 めぐみの皮をかぶった誰かだ」

「ふふふ、よくわかりましたー。
 正解です!なんだーつまらないなー。
 普通の人だったら、もっとおもしろい反応してくれるのに。
 さすがはTSショップの店員さんなだけはありますね!」

めぐみの姿をした誰かは笑顔で俺にそう言った。

「目的は・・・なんだ?」

「あなたがこんなもの売った所為で、私の家族は滅茶苦茶にされちゃったんです。
 だからー、あなたにも同じような目に会ってもらおうかなと思いまして、素敵な考えでしょ?
 そこにいる小柄なお兄さんは、あなたの知り合いみたいですし、思いっきり関わってみたいなので、同罪ですねー。
 それなので、二人には壊れてもらおうかなってね♪
 あ、二人が壊れちゃった後めぐみさんも壊しちゃうから、安心していいよ。」

「ということは、まだめぐみのゼリーは保管してあるんだな」

「うふふふ」

こいつ、いかれてやがる。
横を見ると、顔面蒼白でガタガタと小刻みに震えている大野がいる。
大野が、この状況にこのまま耐えられるかが心配だ。
冷静に考えろ、必ず逃げれる隙があるはずだ。
俺は自分を落ち着けながら、めぐみの姿をした誰かと話を続けた。

「それにしても、よく店の場所がわかったな」

「うーん、私の家族にゼリージュースを使った人なんですけどー。
 あなたのお店のお客さんだったみたいですよ、べらべら喋りながらゼリージュースの効能を説明してましたね。
 よっぽど征服したのが、気持ちよかったんでしょうね、隙だらけでしたもの。
 だから私がゼリーにしちゃいました。
 あ、売るお客さんは吟味した方がいいですよ?
 足がついちゃったらだめですものね」

「なるほどな、皮から記憶を読んだのか」

「そうでーす、だからあなたのお店の事もわかったんです!
 かぶって記憶を見るまではそんな事考えてなかったんですけどー、こんなもの売らなければ私の家族は・・・。
 まぁいいです!あなた達にその分償ってもらいますね♪
 ここまで話したんで、この皮はもう用済みですね」

ごそごそと後ろから、何かを取り出していた。
全身タイツのようなものに見えるそれは、おそらくさっき言ったやつの皮なんだろう。

ジュボッ!

女はライターを取り出し、その皮に火をつけた。
火は燃え広がりあっという間に皮を焼き尽くした。

「あはははー、よく燃えますねー。
 きれい、きれい♪このゼリーも帰る場所がないから捨てちゃいましょう!」

気づかなかったが部屋の隅にあった、棚から黒いゼリーを取り出し。
それを地面にべちょべちょと流し始めた。
流し終わったあと、女はうっとりとした表情をしていた。

「これで、この人は死んじゃいましたねー。
 けど、私は殺してないですよ?
 皮を燃やして、ゼリーを捨てただけですしね、あははー。」

大野はもはや何も喋れない状態に陥っていた。
それもそうだろう、あれだけの者をいきなり見せられてショックを受けない奴はいない。
次は自分がああなるかもしれない、そう思うだけでも物凄い恐怖を感じるだろう。

「俺はどうなってもいい。
 せめて、大野とめぐみだけは助けてくれ」

「や、山本・・・」

大野はそんな精神力が強い方ではない、俺が庇わなければ。
そういうことを考えていたら、急に女は動き出した。

「んー、どうしようかなー。
 そうですねぇ、やっぱだめでーす!
 大野君には、これです!」

めぐみが喋るように女が言うと、ゼリージュースのビンとは別に手に持ったものと水を口に放りこみ女は大野に口移しで飲ませた。
大野は抵抗しているようだが、口から息も出来ず、少なからずパニック状態になっているためそれをゴクゴクと飲み込んでしまったみたいだった。

「お前!!大野に何を飲ませた!」

「ふふふ、お店から無くなったものはなーんだ?」

「なに、無くなったもの・・・?」

!!!

「大野、吐き出せ!
 無理やりにでも吐き出すんだ!」

「それは無理でしょうねー、だってしっかり飲み込ませたもの。
 ほら効果が現れてきたんじゃない?」

大野は目を剥き出し、小刻みに痙攣し始めた。

「くそ・・・、何錠だ。
 何錠飲ませた」

「何錠だと思う?
 ふふふ、そんな怖い目で見ないでよー。
 2錠よ、2錠」

「お前は錠剤がなにかわかっていて飲ませているんだろうな!!
 沢山飲ませれば、効果が強くなるってわけじゃないんだぞ!!」

「あー、そうなんだ。
 ごめんなさいね、つい好奇心で」

「何が好奇心だ!畜生!!
 そんな事思ってもいないクセに!」

会話している間にも、大野体に変化が起こっていった。
もともと小柄だった体が、更に縮み、体が丸みを帯びてきているようだ。
足も細くなっているみたいで、着ていた服がだぼだぼになっていた。
そのあと胸に突起が出始め、ズボンの尻の部分がきつくなっているように見えた。
数分後には大野と言う男はいなくなり、そこには男の服をきた女性が存在していた。
その姿に24、5を越えた男の影はなく、まるで中学生か高校生のような少女の様な姿であった。

「大野!!大丈夫か!大野!」

俺は縛られた体をよじりながら、大野に声をかける。

「う、うーん、私は一体・・・・」

普段の声とは違う、女性的な高い声で、大野は目を覚ました。
自分を言う一人称も変わっている。

「すっかり変わったようね。
 かわいい姿になっちゃったわねー、大野君」

女が大野の近寄り、そう言った。
大野はまだ自分に起きている事態を把握していないようだった。

「そうだ、私は薬を飲まされて・・・急に意識が・・
 え、声が!?」

「声だけじゃないわよー、自分の体を見てみなさい」

女は大野に楽しそうにそう言うと、また部屋の隅の方へ戻っていった。

「私の体が女の子になってる!?」

大野は自分の体を、縛られたロープで見にくいながらも確認していた。
俺はその大野の動作に女らしさを感じ、焦っていた。

「大野!自分の一人称に意識を持て、精神だけじゃなく記憶まで持ってかれるぞ!」

「え?ど、どういうこと?」

「お前は『私』なんて言わないだろ!
 『俺』だろ?
 お前は男なんだ、口調が女になっていると自分が最初から女だと記憶が改竄されてしまうぞ!」

俺は大野に大きな声で、しっかりと意識として伝わるように言った。
飲んだ今なら、人格だけはまだ引き戻せるはずだ。
それとあの女は、大野を女にしたことによってロープが緩くなっていることに気づいていないようだった。
俺はとりあえずその事は言わずに、大野の意識をしっかりさせることに集中した。

「お前は『俺』で、男だ!」

「でも私は・・・昔から・・・・私だったような・・・」

大野はうつむいて、反芻するように記憶を思い出しているようだった。
くそ!まさか性別転換薬を使われるとは、あの女が面白半分に2錠も飲ませた所為であいつの記憶まで捻じ曲げられそうだ。
たしか、この薬を手に入れたときにこんな事を言われたっけか。
『1錠なら性別を変えるだけ、変わった後もう一度飲めば元に戻る。
 2錠飲んだら、性格をまで捻じ曲げる、完全に性格が変化したらもう薬は効かない。
 性格の変化は個人差があるソイツの気力しだいだな、2錠飲んだ場合は戻るのにも2錠必要だ。
 3錠ならもう手遅れ、飲んだ瞬間記憶と性別が改竄されて、元からその性別だったと思い込んでしまう。
 薬を飲んでも元には戻らんよ。
 売るときに相手に忠告しっかりするんだぞ。』
その忠告を思い出しながら、俺は大野にがんばるよう叫んでいた。

「大野!お前は男だぞ!!いいか、男だからな!
 元から女だって思い込むな!自分の一人称をしっかりと考えろよ!」

「う、うん・・・・わたしじゃなくて俺・・・僕・・・ボクは・・。
 ボクは男、ボクは男、うん、ボクは男だ」

俺と言うのに抵抗を感じ始めているらしい、危ない兆候だ。
しかし、おそらくこれならまだ持つだろう。

「あー、面白かった、じゃあ疲れたから私は部屋に戻るね。
 またあとでー、バイバイー!」

「おい、ちょっとまて!」

ガチャン!
カチャ

女はそう言うと、部屋から出て行ってしまった。
ご丁寧にカギもかけて行った様だ。
しかし、なぜ急に部屋をでたのだろうか?
大野の変化をみて満足したのか、じっくり痛めつけようと思っているのか・・・
そもそもここはどこだ?何故そんな一般人にこんな場所を用意することが出来る?
俺は考えを廻らしたが、まとまらなかった。
それより、大野のロープだ。
俺はここがチャンスだと思い大野にロープのことを言う。

「大野、お前の体は小柄になってる。
 ロープも緩くなってるはずだ、解けないか?」

「うん、ちょっとやってみるよ」

俺は大野にすかさず言った。
あの女がいる状態で言ったら、再び強く締め直されてしまう恐れがあったからだ。
大野が唸りながら、身を捩じらせている。
見るとロープは少しずつ、解けていっている様だった。

「いけそうか?」

「うーん、もうちょっ・・・、ほどけたよ!」

大野がロープを解くと、俺のロープも解こうとこっちへ向かってきた。
縛っているロープが固いらしく、女性化してしまった大野は苦戦しながらもロープを解いていった。
拘束された体を柔軟しながら、ほぐしていった。
一体何時間こんなカッコウをさせられてたんだ。
そう思いながらも、扉の方に向かって行った。
ドアノブを回してみるも、カギがやはりかかっている。

「うーむ、やっぱしあの女が来るまで開けるのは難しいか。
 大野、他に出られそうな場所はあったか?」

大野の方を見ると、部屋の逆側のほうでいろいろ何か無いかと見ているみたいだ。

「無いみたい、あ!
 さっきの棚、見なきゃ。」

「そうか、めぐみのゼリーないか見ないとまずいな」

俺と大野はそう言うと、先ほどの女がゼリーを取り出してた棚の前に行く。
棚にはほのかにピンク色をしたゼリーが容器に入っていた。

「大野、これはピンクのゼリージュースじゃないよな?」

「うん、これは違うよ。
 他に誰かを黒のゼリージュースで皮にしてなければ、これが高橋さんのゼリーだと思う」

「盗まれたゼリーは、黒1本に性別転換薬3錠だ。
 おそらく、これがめぐみのゼリーだろう。
 あとはどうやって、めぐみの皮をかぶったあいつをひっぺ剥がすかだが・・・・」

俺がそこまで言ったところで、大野が思いついたように手をポンと叩いた。

「そうだ、これが使えるよ!」

ぶかぶかになった服のポケットから、封のされた試験管を取り出した。

「これは?」

「見せようと思って持ってきたゼリージュースの試作品だよ。
 やっとボクでも開発できた、新しいゼリージュースなんだ!
 いろいろあったから、今日見せるのはやめようと思ってたやつなんだけど」

自慢げな大野が手に持っている試験管をみると、キラキラと黄金色を放っている。
俺は大野の顔をみた、さっきまでの恐怖がどこへやらニコニコとしている。
感情の起伏が強くなっているな・・・、女性化の進行が結構進んでいる、まずいな。

「で?どんな効果があるんだ?」

「効能は今までの全てだよ」

「は?」

依然ニコニコとしている大野。

「えっとね、それを飲むと体が透明になるんだ」

「ふむ、そこまでは通常のゼリージュースと変わらないな」

「そこからが違うんだ、透明になった状態で効果を発揮したい色を思い浮かべる。
 するとね、その効能を発揮することが出来るんだ。
 けどまだ研究途中でね、黒をイメージしたらその瞬間に皮とゼリーになっちゃうし、緑をイメージしたら空気上に霧散してしまったりとまだ危険が多いんだよね。」

「と言う事は、イメージできる物が制限されているって事か」

「そう、だからこのゼリージュースには制限がかけてあって。
 赤、青、黄と3つのイメージしか反応しないようにしてるよ。」

「イメージした後は普通のゼリージュースと一緒か?
 それともなんか変化でもあんのか?」

「ううん、特に何もそのまま人にかぶされば模写や憑依や入れ替わりが可能だよ。
 まだまだ開発段階だけど、とりあえずは一本で使い切りだけど数種類のゼリージュースの効果を選べるって事、だからね。」

俺はそこまで聞いたところで、大野が言いたいことが判った。

「そうか、青でめぐみの皮をかぶっているやつに憑依か!」

「そう、ボクがロープで縛られているフリをしてるから、注意を引いている間に後ろから頼むね」

「わかった、じゃあ透明になるまで時間がかかるからもう飲んでおくか」

俺はそう言うと、大野が手に持っていた試験管を取り、ゼリージュースを飲み始めた。

「うわ、なんだこの味・・・」

「へへ、コーラレモン味。
 おいしいでしょ」

「・・・・・製品として出すなら、味は変えたほうがいいぞ」

なんとも言えない、微妙な味に俺は気持ち悪くなった。

「あ、体が透明になってから色をイメージしてね。
 ならないうちにやると、体が不安定になるから注意して」

「判った」

俺は飲み終わった試験管を大野に渡し、じっと待った。
渡してすぐに、体がどんどん透けて行くのがわかった。
手、体、じょじょに透明になっていき。
5分後、俺は服だけ見える透明人間状態になっていた。

「もう、色のイメージしていいのか?」

服を脱ぎながら、大野に尋ねる。

「キャ!もう、いきなりぬがないでよ
 あの皮をかぶった人が来てから、イメージした方がいいよ。
 かぶさる前の最後のイメージが効果になるから」

「おい、男に戻れなくなるぞ。
 自分が男だって、しっかり意識しろよ」

服を脱いで、透明人間の状態になった俺は大野に向かって言った。
異性が服を脱ぐのに反応していると言う事は、中期の進行状況まできている・・・
早く薬を飲ませないと間に合わなさそうだな。
思った以上の進行の早さに、俺は頭が痛くなった。

「じゃあボクはロープで縛られているフリをしてるね。
 君が覆いかぶさったのが判ったら、彼女を押さえつけるよ」

「判った、俺は扉のそばで待機している」

「了解!」

大野は俺がどこにいるのかわからないらしく、見当違いの方向に返事をしていた。
あとはあの女を待つだけだ・・・
来い!そのときがお前の最後だ。

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・こない。
時計が無いので時間の感覚はわからないが、2時間くらいは経っているだろう。
いい加減体も冷えてきて、寒い。

「こないね」

大野が心配そうな顔をしている。
しかし、外にも声が漏れている以上、俺はあんまり声を出すわけには・・・・
ん?

「なぁ・・・」

「なに?」

大野は顔をきょろきょろとさせながら返事をする。

「もしかしなくても、ここの部屋モニタリングとかされてないか?」

「あ!」

「されてたら、丸判りだよな。
 つうかそれぐらいしか、部屋を急に出て行った理由が思い浮かばない」

「そ、そうすると、ボクらはもしかして・・・?」

「あぁ、この行動全部筒抜けかも知れないな。
 しかしこの可能性にかけるしかない」

「そうだね、ボクもがんばるから山本君もがんばって」

再び、ドアが開くのを待つことにした。
しかし、あの女どうやってこの部屋を用意した・・・?
あの皮の男、結構な金持ちだったな・・・。
そこから引っ張ってきたのか、心が犯されきった奴を見るのは・・・・。
そこまで考えて、俺は気持ち悪くなった。
再び扉の方に目線をやり、じっと待つことにした。
1時間、2時間、もう時間の感覚がわからないくらい待ったそのとき。

コツコツコツ

「「!」」

コツコツコツコツ

ガチャガチャ

カチャリ

部屋の前で止まった足音をさせて来た人物がドアの中にやってきた。
ばれているか、否か。

「さーて、おとなしくしてたかなー」

めぐみの皮をかぶったまま、奴は入ってきた!
よし、あとは隙を見て、体をかぶせるだけだ。

「もう一人は!!」

女はキョロキョロと辺りを見渡す。

「ボクを・・・おいて行っちゃって、逃げちゃった・・・」

縛られているフリをしている大野が泣いたフリをしながらそう言った。
アドリブにしちゃ上出来だ・・・・。
大野の前に行った、よし!
今がチャンスだ。
俺は後ろから一気に覆いかぶさった。

「う・・・」

その声を聞いて大野は立ち上がって、女に抱きつき動きを止めた。
めぐみがうめき声を上げているようで、躊躇したがこれ以外でチャンスはもうない。
青・・・青・・・・青・・・・。
大野に言われたとおり、イメージをしていった。
体に沁みこんで行く・・・・

「お、大野・・・もういいぞ。」

俺は体をつかんで放そうとしない大野にそう言った。

「山本君?」

「ああ、この感覚はいつになっても慣れそうに無いな」

「やった!成功したんだね」

「じゃあ皮を、脱がないといけないな・・・」

そう言うと俺は、脱げそうな切れ目を探していった。

「お、あった」

開いた切れ目から、めぐみの皮を脱いでいく。
脱いだ姿を手や足を見て確認する・・・・。

「山本君・・・」

「こんな女の子が・・・、こんな事をさせるまで心が壊れたのは俺たちの責任なのかもな」

俺がその少女の姿で、呟くと急に大野が泣き崩れた。

「わ、私・・・今までなんて事を」

私・・・・?、やばい精神的なショックで一気に女性化が進んだか!?

「おい!とりあえず、めぐみをもどすぞ!
 ほら立て!」

俺たちはめぐみを元に戻し、この隔離された場所を後にした。
外に出てビックリしたが、なんとそんなに店から離れていない場所のマンホールから出れたのだった。
こんな施設があるなんて、誰かが人知れず行方不明になるなんて訳ないってことか・・・。
そんな事を考えていたら、おれは背筋がブルっとした。

え?
俺たちが捕まえた少女はどうなったって。
とりあえずは危ないから、俺が拘束させてもらっている。
俺は死んでもゼリーにした皮なんかで記憶を読み取りたくないしな。
こうなった以上はケツを持たなきゃいけないだろう。
この子の身元もいろいろ調べないといけないな、家族が助かっているかも。
男の皮を焼かれちまった所為でわからなくなちまったし。
問題は、もう一つの方だ・・・・
目の前にいる、Y−シャツを着ている女を見て頭を抱えた。

「はぁ・・・。
 おい、大野!
 お前どうするんだ、薬が効かないって事はもう元に戻れねーぞ。」

すると大野は女性的な可愛いしぐさで、笑いながらこっちを向いた。

「えー、何を言っているの山本君。
 私は最初から、女性だったじゃない。
 めぐみちゃんも助かったし、万々歳ね」

「あの子が大野君?
 ちょ、ちょっと!明君これはどういうこと!」

「どういうことって言われてもなぁ。
 はぁ・・・」

目の前にやり取りされている展開を見て、頭が痛くなってきた。
痛くなった頭に手をやりながら、俺は大野の方に顔を向けた。

「なぁ、大野・・・」

「何、山本君?」

「小野って人に、会わせてくれないか?」



-続く-