代役
作:Necro



「素晴らしい!」
ある1人の男性の賛辞の叫びと同時に、会場は盛大な拍手で包まれた。

ここは公民館の舞台。
学校対抗で劇をやって競っている所であった。
だが、1人の美少女の演技があまりに素晴らしく、会場に来ていた地元演劇関係者も驚きのあまり無心に拍手をしていた。
「有難う御座いました」
舞台中央に白いワンピースを着た栗色のロングヘアの1人の美少女が観客席に向かって頭を下げ礼を述べる。
細い手腕とメリハリの利いた体型が観客を引きつけ、圧倒的な演技力で魅了する。
彼女が劇の主役であり、この拍手の対象でもあった。
美少女は観客席に向かってもう一度丁寧にお辞儀をすると、そのまま幕が閉じた。
幕が完全に閉まったにも関わらず拍手は止まらない。
拍手の音は、騒音と言えるほど激しかった。

「凄く良かったよー」
舞台の端から1人の少女が駆け寄り抱きつく。
この美少女の友達だ。
「君、演劇の道に入らないか?君になら幾ら金を掛けても惜しくない」
舞台の端から、もう1人成人男性が入ってくる。
彼の名前は胡香把持(ここうこうじ) 有名な演劇の演出家だ。
だが、美少女は笑顔で返事する。
「申し訳ありませんが、その気はありません」
風のように少女は演出家の脇を通る。

胡香把持が振り返ると、既にそこに美少女は居なかった。
ただ、彼女がつけていた大人びいた香水だけがその場に漂う。
「その気が無いのなら、その気にさせてみよう。それだけの価値はある」
男は1人うんうんと頷き、再び舞台の端へ消えていった。



「またねー」
「またー」
一杯の花束を抱えながら、学校を出た。
今日の主役はこの美少女だ。
もちろん、主役扱の重要な役目を持った人も劇中たくさん登場したが、その全員が彼女への賛美を否定しなかった。
「有葉由佳里」
この美少女の名前である。
「っと」
足元にある水たまりを軽く飛んで超える。
由佳里は家には帰らず近くの山へ向かって脇道に入って行く。
舗装されていない山のあぜ道に入って行き、上がり下がりを繰り返し、
木々の間に隠れるように建っている山小屋に辿り着く。
山小屋には天窓が一つと、人間が通る事が出来ないほど小さな窓―――換気口が南側に1つ、西と東にそれぞれ2つ存在した。

由佳里はカバンから鍵を取り出し小屋のドアを開け、中に入る。
入って左側に壊れた掃除機やモップが置いてあり、モップが立て掛けてある壁には電気のスイッチがある。
右側にはシーツが三枚掛かったソファーとガラクタ、そして灯油を入れる缶。
左奥にもガラクタがあり、その向こうに木製洋服箪笥がある。その洋服箪笥の隣に六段の木製整理箪笥がある。
右奥には数枚のシーツがかけられている脚付きベッド、枕は無い。

内側からドアに鍵をかけ、由佳里は持っていた鞄や花束を床に落とす。
「疲れた」
そう言って由佳里は、小屋の隅にあるベッドの上に座る。
「優勝したよ」
由佳里はベッドの上に寝ている自分と同年齢程度の少女を模したダッチワイフに話し掛けながら頭を撫でた。
ベッドに座ったまま由佳里は制服から下着を脱ぎ、全裸になる。
そのまま、ダッチワイフにキスをする。
由佳里が後ろ髪を掻き分けて何かを掴む、彼女は両手でそれを掴み、左右それぞれに引っ張った。
すると由佳里の背中に首から腰にかけてまで綺麗な裂け目が出来る。
由佳里が両手で自分の頭を掴み、がばっと背中から抜け出た。
由佳里の顔はしわくちゃとなり、背中から出てきたのは由佳里と同年齢程度の少女。
だが、その少女の顔は美しいとは言えなかった。
ニキビがおでこや頬に幾つか点在し、その周りには爪で潰されたニキビ跡が幾つかある。
鼻は大きく、目は平べったく小さい。
顔の輪郭も由佳里の逆三角形のように綺麗ではなく団子の様に丸く頬には贅肉がついて顎は二重顎になっている。
体型も由佳里のように引き締まっておらず、腹が出て太っている。

少女が由佳里の背中を開けた事で、由佳里の皮は内側から押される形で下半身は醜く膨れ上がっていた。
少女は自分の下半身が入っている由佳里の皮から出ると、由佳里の皮を持ち上げて一度だけはたいた。
そして由佳里の皮をうつぶせにし、開いた背中を上にして床に広げた。
次に少女は立ち上がって部屋の隅の埃を被っている洋服箪笥を開けた。
その中には無数の人間の皮と思われる物が入っている。
少女は二つ皮を手にとり、下品に口元を緩めてにんまりと笑い、皮を抱えたまま洋服箪笥を閉めた。
抱えた皮の一つをソファーに置き、一つを背中を開けた状態にして由佳里の皮の上にかぶさるように置いた。
その皮は由佳里の皮を覆ってしまうほど太っていて、べたんと広がった。

少女はダッチワイフを抱え、ダッチワイフの頭髪に隠れた頭部のジッパーの取っ手を掴む。
取っ手を掴んだままダッチワイフの腰までジッパーを動かし背中を開けると、中には人間の形になっているゼリー状の物体が入っていた。
少女はそのゼリー優しくゆっくりと抱え上げ、由佳里の上に被さっている太った皮にそのゼリーを入れた。
ゼリーは太った皮よりも小さいので、皮はぶかぶかであった。
少女が皮に綺麗にゼリーが入るようにゼリーの手の部分を皮の部分の手に、脚は脚に、頭は頭に。
それらを全て入れ終えると、少女は皮の背中の開いた部分の皮膚を重ねるようにして閉じる。
皮膚と皮膚の隙間は溶け込むようにすうっと消えて行き、ぶかぶかだった皮はむくむくと膨らみだす。
「ふふふ」
愛らしい物を触るように少女はゼリーの入った太った皮の顔を手でなでる。
その皮の顔は少女の顔であった。
ニキビがおでこや頬に幾つか点在し、その周りには爪で潰されたニキビ跡が幾つかある。
鼻は大きく、目は平べったく小さい。
顔の輪郭も由佳里の逆三角形のように綺麗ではなく団子の様に丸く頬には贅肉がついて顎は二重顎になっている。
そして腹は出て、太っていた。
「もう1人の、私」
少女はそう呟いて、今度は由佳里の皮を持ち上げる。
それをもう1人の自分に着せて行く。
太った人間を由佳里の皮に着せるのはさほど難しくなかった。
だが、由佳里の皮は顔胴手足全てが伸び切り、どう見ても美少女とは言えない容姿となった。
少女は由佳里の皮の中にもう1人の自分を入れ終えると、同じように背中の開いた部分の皮膚を重ねるようにして閉じる。
皮膚と皮膚の隙間が溶け込むようにすうっと消えて行き、今度は醜く伸びきった由佳里の皮は元の由佳里のように綺麗な顔、綺麗な体型となっていった。
少女はダッチワイフをソファーの下に隠し、ソファーにおいてあったもう一つの皮を着始めた。



「ん……、あっ」
由佳里は気が付くと山小屋で制服を着て寝ていた。
「起きた?由佳里」
メガネをかけた純情そうな細身の女の子が由佳里に声をかけた。
「あ、どうだった?やってくれた?」
「うん、ばっちり。ほら」
そう言ってメガネを掛けた女の子は花束を由佳里に渡した。
「さっすが祐美ね。代役ありがと!」
相田祐美と言う名前を持つメガネを掛けた女の子は、由佳里の手を取って起こした。
「優勝おめでと」
「やだ、祐美が代役してくれたからだって」
「でも、私がやっても優勝出来ないから」
「あ、ごめん……」
「いいの、だから商売でこれをやってるから」
「そうそう、報酬だったね。はい」
そう言って由佳里は学校鞄から白い封筒を取り出して祐美に渡した。
「一応確認するね」
祐美が確認すると、そこにはお札が20枚入っていた。
「ん、ありがと。お金工面するの大変だったんじゃない?」
祐美は話しながら自分の鞄にお金の入った封筒を閉まった。
「お父さんの貯金から、ちょっとね」
由佳里は悪びれることなく、可愛く舌をちょろっと出す。
「そこまでして優勝したかったの?」
「あの舞台で優勝すれば志望校の推薦枠もとれるし、先生も内申で後押ししてくれるって言ってたの」
「良かったね」
「祐美は頭いいから、そんな事しなくても推薦とれるよね、一緒に同じ学校行かない?」
祐美の顔を下から覗き込む由佳里。
「私は、もっと違う道選んだから」
「え?どんな道?」
「代役の道」



「またねー」
由佳里が花束を抱えたまま元気良く手を振って自分の家に帰っていった。
無言のまま、祐美は手を振る。
マンション群へ向かう振りをして、再び祐美は山小屋へ向かった。

山小屋の中に入って、再度内側から鍵を閉める。
祐美が隅にある埃を被った洋服箪笥を再び開け、一つの皮を取り出し抱き締める。
「また一つ手に入った」
その皮の顔は、由佳里そのものの皮だった。

祐美は興奮して着ていた制服を脱ぎ、メガネを外した。
そして全裸になると、背中をガバッと開け皮を脱いだ。
中から太った少女が再び出てくる。
鼻息を荒くしながら、少女は由佳里の皮を着る。
そして由佳里となった少女は、ソファーの下からダッチワイフを取り出した。
ダッチワイフの背中のファスナーを閉じ、祐美と呼ばれていた皮を拾い上げ、ダッチワイフに祐美の皮を着せていった。

「祐美、ああ、祐美」
由佳里となった少女は、祐美となったダッチワイフと全裸で絡み合った。
「さすが祐美……ね……。代役…ありがと……」
少女は、さっき由佳里が言った言葉を繰り返す。
「やだ…、祐美が……代役…してくれたから…だって……」
少女は、突然ぎゅっと祐美となったダッチワイフを強く抱き締め、
「あっ、あっ、ああっ」
魚のように体をびくびくと震わせ、少女は幸せそうに息をゆっくりと出す。
「気持いい……」

幸せを余韻を存分に味わうと、少女は由佳里の皮を脱いだ。
そして再び洋服箪笥から一つの皮を取り出し、その皮を着込んだ。
幾ら伸び縮みするとは言え、その皮は由佳里の皮より小さい為に着るのに苦労した。

少女は自分の顔に手を当てた。
「恵理ちゃん・・・」
恵理と言う名を持つこの皮を着込んだ少女。
恵理は由佳里や祐美と同じ学年の生徒で、元気な女子。
由佳里はみんなから美しいと言われるが、恵理は可愛いと言われる人物だ。
小柄な体型で、小さくて幼さが残る顔が特徴の恵理。

恵理が六段ある整理箪笥の引き出しの一番上を開けて中を見ると、様々な学校の制服が入っていた。
恵理は由佳里や祐美の学校と同じ制服を身に付けると、その上から由佳里の皮を被りさらに同じ学校の制服を着る。
その上にダッチワイフから脱がした祐美の皮を着込み、その状態でさらに学校の制服を着た。
つまり今の少女の状態は制服を着た恵理の皮を着て、さらに制服を着た由佳里の皮を着て、その上にさらに制服を着た祐美の皮を着ている。

今度は部屋の端に置いてある灯油入れを持ってくる。
中にはゼリー状の物が入っており、祐美はそれをだくだくとダッチワイフの中に注いだ。
ダッチワイフのジッパーを上げ、ファスナーを閉じる。
「貴方の番は明日ね」
ゼリーで一杯になったダッチワイフに向かって祐美はそう囁き、彼女は眠りについた。



次の日、
学校の最上階のトイレで泣き崩れている少女がいた。
トイレは今は物置部屋となっている空き教室の向かい側にあり、
屋上を除く5階建て最上階の一番奥に設置されているので利便性も悪く生徒も教師も全く利用しない。
だが、今このトイレには2人の少女が入っていた。
1人の少女は泣き崩れ、1人の少女が慰めている。

「何が起きたの」
泣き崩れている少女は自らが着ている制服を捲り上げ、自分のお腹を見た。
白い透き通った肌は……ストッキングが破れたように千切れ、その下から赤黒いでっぷりと太った腹が出てきた。
その太った腹が白い肌を少しずつ破く。
時節破けるぶちぶちと言う音が泣き崩れている少女の焦りと恐怖感を高めた。
「助けて、祐美」
少女はもう1人の少女に助けを求めた。
「安心して、私が何とかするから、由佳里」
祐美は由佳里にそう話し掛けながら、彼女に見られないように口元を緩ませた。
「だから、代役してあげる」
そう言って泣き崩れている由佳里の頬に祐美はキスした。

「代役?」
泣き過ぎて横隔膜が痙攣を起こし、シャックリをしながら由佳里は尋ねた。
「そう、また私が由佳里になってあげる」
「これ、直せないの?」
そう言って由佳里は完全に腹が出てしまった自分の腹をさする。
履いている制服のスカートはでっぷり太ったウエストを収めきれず、ボタンははじけとび破けている。
「直ぐには無理、今日はまだ学校あるよ?」
「一時的な事なのね?」
「だから、代役してあげる」
無言で由佳里は頷いた。
「じゃあ、そこにいてね」
祐美は由佳里にそう断ると制服を脱ぎ始める。
「な、何してるの」
「黙ってて、ちゃんと代役するから」
祐美の態度が真剣になり、邪魔になってはいけないと思って由佳里は黙って祐美を見続けた。
制服も下着も脱いで全裸になった祐美は背中に爪を引っ掛け、ばくっと音を鳴らして開く。
祐美の体がみるみる萎びて梅干しのようになる。
続いて祐美の背中の中から制服姿の由佳里が出てくる。
「あ、ああ……」
驚きの連続で、言葉にならない由佳里。
「こんにちは、腹の出た由佳里さん」
そう言ってくすくすと笑う由佳里。
「ゆ、祐美ちゃん?」
「私は由佳里」
脱ぎ捨てられた祐美の皮をただ呆然と見詰める腹の出た由佳里。
かつて祐美であった由佳里が、もう1人の由佳里に祐美の皮を手渡す。
「そして、貴方は祐美」
びりびりっ
その時、腹の出た由佳里の下半身は全て破けた。
「い、いや……」
由佳里の下半身は完全にでっぷり太った腹と太い脚になってしまった。
「ちょっと、がまんしてね……」
そう言ってかつて祐美であった由佳里は、もう1人の太った由佳里の皮の破けたヘソの上辺りを掴む
ぐいっと上に引っ張ると、上半身の皮も全て破けた。
美しい由佳里の顔が剥がれると、その下から二重顎がぼよんと揺れながら飛び出た。
「な、なにこれ、あたし、誰なの」
「これが貴方の本当の姿」
かつて由佳里であった少女の顔はニキビがおでこや頬に幾つか点在し、その周りには爪で潰されたニキビ跡が幾つかある。
鼻は大きく、目は平べったく小さい。
顔の輪郭も由佳里の逆三角形のように綺麗ではなく団子の様に丸く頬には贅肉がついて顎は二重顎になっている。
「はっ……、はっ……」
かつて由佳里であった少女は発する言葉を見つけられず、視線が泳ぎ呼吸が乱れて行く。
少女の呼吸が早くなり、段々とその音も大きくなって、ついに少女は叫ぼうと口を開けた。
「はっ、はっ、はっ、はぁ、はあ、ああっ――!!」
その時、もう1人の由佳里はさっきまで自分が着ていた祐美の皮を手に持ち、
それをかつて由佳里であった太った少女に強引に被せた。
「ふ、ふが、もが」
太った少女は皮に遮られ叫ぶ事は出来なかった。
皮を被ったかつて由佳里であった少女の視界は真っ暗になる。

「動かないでね」
かつて由佳里であった少女は、もう1人の由佳里の声を皮越しに聞いた。
それは自分が自分で無くなるような、そんな恐怖感が彼女を襲う。
「………誰?」
小さな声で皮を被せられた少女は言葉を発した。
そして祐美の皮を半分被ったままの状態で、少女は気を失った。
気を失ったと分かっても、もう1人の由佳里は淡々と作業を進める。
でっぷり太った少女の背中を乱暴にも足蹴にし、強引に祐美の皮の中に押し入れた。

「入れ替わり終わりっと」
祐美の皮に太った少女が入ったのを確認して、由佳里は先程まで自分が祐美であった時に着ていた制服を着せる。
「代役の醍醐味はね、主役を食っちゃうこと」
由佳里はクスクスと笑いながら、祐美を置いて一人トイレから出た。
「明日は恵理ちゃんの代役かぁ、楽しみ」