縁結びの神様なんて大嫌い!!

   作・JuJu


◆ 17

 ヤキソバとのデートをおえ、美加は家に戻ってきた。

「ただいま。お母さん、様態はどう?」

「お帰り。もう大丈夫だ、明日からはお店を開けられそうだ」

「明日からはわたしも手伝うから、あまり無理をしないでね」

 手伝うと言っても、支給や皿洗いくらいしかできそうにないが……。それでも美加の母親の役に立てるだろうと美加は思った。

 階段をのぼり美加の部屋に向かう。

 部屋のドアを開けると、明が勝手に上がり込んでいた。しかも美加の目に入ったのは、女装している明のうしろ姿だった。

「なっ!? なんてカッコウをしているんだよ!?」

 美加は目を見開いて叫んだ。

 ところが動揺している美加とは対照的に、明は堂々としたものだった。

「これはわたしの服なんだから、わたしが着てなにが悪いのよ?」

 明は美加の方に振り返ると、なに食わぬ顔で言う。

 明はふたたび美加に背を向けると、タンスの中から女物の下着を取り出しはじめた。

「やめろって!」

 美加は明うしろから飛びついて明の体を自分の方に向けさせると、顔をつきあわせ両腕をつかんで問いただした。

「どうしてこんなことをするんだ!?」

 美加は本気で怒鳴った。

 すると明の今までの態度が一転した。

 明はうつむくと、その体が細かく震えだす。

「もうこんなの堪えられないよ……。元の体に戻りたい……」

 恨みごとのようにぽつりとつぶやいた明の言葉に、美加はおもわず腕を離す。

「そうか……。女の体に戻りたい一心で、女の服を着ていたのか……」

 明はうつむいたまま、激しく何度も首を横に振った。

「明はイタ子とデートをして、今度はヤキソバともデートをした。このままじゃ明をイタ子やヤキソバに取られちゃう」

「ヤキソバとはそんな仲じゃないし、イタ子とは前にも言ったがただの試食会だ」

「分かってる! ……でもイタ子やヤキソバじゃなくても、いずれ誰か別の女の子に……」

「とにかくおちつけ。よく分からないが、イタ子やヤキソバと同じようにデートがしたいのか? 俺とデートがしたいならしてやる」

「入れ替わったままじゃイヤ!! わたしの体に戻って、女の子として、明と恋人同士がするようなことをしたいの」

 明は振り返ると、ふたたびタンスに腕を突っ込み乱暴に美加の下着をあさった。

「だからやめろって! 俺が美加の下着あさっているように見えるんだよ!!」


    ◇


 美加の説得のすえ、ようやく明はおとなしくなった。

 美加は明をベッドの端に座らせると、自分は机のイスに座った。

「ごめんなさい……」

 女装姿の明が、今までの行動を悔やむようにうなだれながら言う。

「分かればいい」

「ううん。明の体を女装させたことだけじゃないの。

 ――こうなったのは……、体が入れ替わってしまったのは……、わたしのせいなの」

 それを聞いた美加はわずかに怪訝な表情をした。沈黙をもって明に話の続きをうながす。

「今まで怖くて言えなかったけれど……話すね。

 体が入れ替わったあの日、肝試しをしようって洞窟(どうくつ)に明を誘ったのは覚えているでしょう? 本当は肝試しなんて嘘だったの。明をあの洞窟に連れて行きたくて嘘をついたの」

「……」

 美加は沈黙を続ける。

「洞窟の一番奥にほこらがあったでしょう? あれは縁結びの神様のほこらなの。好きになって欲しい人を連れて来て神様に願うと、ふたりは恋人になれるって言うほこら。――ううん、本当は何の神様をまつってあるのかなんて分からなくて、わたしが勝手に縁結びの神様のほこらだとみなしているだけ。

 それでね、明を連れて来てほこらの神様に願ったの。

『明のことがもっとしりたい』『明といつも一緒にいたい』『明をわたしだけのものにしたい』って。

 そしたら神様は何を勘違いしたのか、わたしたちの体を入れ替えてしまった。

 神様もずいぶんな勘違いをしてくれたと思うけれど、そもそもあのほこらの神様は縁結びの神様じゃないんだし。恋愛のお願いをしたわたしがお門違いだったのよね。

 わたしもまさかこんなことになるとは思わなかったけれど」

「しかし、どうしてほこらにそんな願いを……」

「まだわからないの? だから明は鈍感なのよ! わたしが明のことを好きだからに決まっているでしょう!! 明と恋人の関係になりたかったから神様に願ったのよ!」

「……! そうだったのか。美加は俺のことが好きだったのか……。

 ――確かに俺は色恋に関して鈍感だな。だから自分自身の気持ちさえも、先程まで気が付かなかった。さっきデートの帰りにヤキソバにも言われたよ。デートしているあいだ俺は美加のことばかり考えているって。俺は美加のことを愛しているんだろうって……。

 俺は鈍感だから、こうして体が入れ替わって、その上ヤキソバに教えられて、そこまでされてようやく美加のことが好きだって自覚できた」

「えっ!? 今なんて言ったの?」

「だから、俺は美加のことが好きだって言っているんだ」

「本当!? 本当に明はわたしのことが好きなの?」

「今そう言っただろう」

「だったら証明して見せてよ! わたしのことが好きだって、愛の証(あかし)を見せてよ!」

「愛の証と言ってもな……」

 明はそこまで言ったところで、デートの終わりにヤキソバがいった言葉を思い返した。

《次からのキスは、美加にしてやるんやで》

 美加はイスから立ち上がると、明に近寄った。

 ベッドの端に座っていた明を抱き締める。


    ◇


 明はゆっくりと目をつむった。

 強く抱き締められているのを感じながら、明は心の中で神様に感謝した。

 ほこらの神様は本当に明とわたしの縁を結んでくれたんだ……。

 ほこらの神様……ありがとう……。


    ◇


 くちびるに美加のくちびるが当たる感触がした。

 その時だった。ふたりはふいに、浮遊感のあるめまいに襲われた。それはかつて経験した洞窟で転がった時の感覚に似ていた。思わずふたりはあの時の事件を思い出して、身を守るように互いを強く抱き締めた。

 めまいはすぐに去った。キスでのぼせたのだろうかとふたりが疑問に思いながら体を離し目を開くと、互いに相手の姿が映っていた。美加の前には明が、明の前には美加がいた。

「俺たち……」

「わたしたち……」

 そして異口同音で叫ぶ。

「もとにもどった!!」

 キスをしたことで、ふたりの体は元に戻ったのだった。

「うふふ……明、変な格好?」

「?」

 明が下を向いて自分の体を見ると、美加の服を着て女装をしている自分の姿があった。

「これはおまえがやったんだろう!」

 明は顔を真っ赤にして言い返した。

「ふふふ……。ほんとう変な格好……。変な格好だけれど……元の明に戻ったんだ……」

 笑っている美加の目に涙が浮かんだ。

 涙を見た明は美加に近づくと、あらためて彼女を抱き締めた。

「本当に元に戻れたんだな、俺たち」

「うん……元に戻れた……」

 美加は抱かれながら、うなずいた。

 ふたりは元に戻った互いの体を確かめあうように、長い間抱き合い、くちびるを合わせ続けた。



◆ エピローグ

 その後。ふたりはヤキソバに、元の体に戻ったことを連絡をした。

「そっかー。体が元に戻ったんかー。よかったなー」

 ヤキソバもふたりが元に戻ったと聞いて喜んだ。

 すぐにヤキソバが美加の家に来たので、三人は自転車で小学校の裏にある洞窟(どうくつ)に向かった。ふたりが晴れて恋人になれたことを、縁結びの神様にお礼を言うために。


    ◇


 縁結びの神様の洞窟を歩いているとき、美加が注意をうながした。

「この先はコケが生えていて足が滑りやすいから気を付けて」

 するとヤキソバが答える。

「うん。知っとる」

 今回はそれぞれが懐中電灯を手にしている。しかもヤキソバが持参した懐中電灯はひときわ明るいものだった。これだけ明るければ、足元を見ただけで滑りやすいことがわかった。

 三人は脚を滑らせないように注意しながら坂道を降りた。

 歩きながら美加が言う。

「それでねヤキソバ! わたしたち、恋人になったの。相思相愛だったの!」

「それはよかったな! これもすべてウチのおかげやな!」

「そうだな。ヤキソバが俺に、美加のことを愛しているって気付かせてくれたからだな」

「ちゃうちゃう、そのことやない。実はな――」

 そういってヤキソバは語り始めた。


    ◇


 それは美加と明が洞窟で入れ替わる数時間前のこと。

 ヤキソバも縁結びの神様の洞窟にやってきていたのだった。

 彼女は京都の縁結びのほこらのことは知らなかったが、この洞窟にほこらがあることは小学生の頃に男の子と混じって秘密基地を作っていた時から知っていた。美加が明のことを好きなことに気が付き、彼女の恋を応援することを決めたヤキソバは、美加がしたのと同じようにほこらの神様に明と美加が恋仲になれますようにと願いをかけたのだ。

 その時ほこらに向かって「そのためには、入れ替わりなんかどうですか?」と神様に提案しながら焼きそばパンを供えた。


    ◇


「いや〜。お供え物の焼きそばパンの効果は絶大やったなー。やっぱり神様も焼きそばパンが大好きなんやね」

「それじゃあ、あの日子供たちの秘密基地に焼きそばパンが置いてあったのは、あれはやっぱりヤキソバが置いたものだったの?」

「ウチも小学生の頃は秘密基地の隊員やったからな。隊員の後輩へのウチからの差し入れや。誰もいなかったから勝手に置いたんやけど食べて貰えたかな。将来の焼きそばパンファンが増えるようにという下心もあったけどな」

「――話をまとめると、つまり俺たちの体が入れ替わったのは、実はヤキソバの仕業だったってことか?」

「どうりでヤキソバにわたしたちが入れ替わったって言った時、あっさりと信じたわけね」

「なにしろ入れ替わらせた、当の元凶なんだからな」

「まあまあおふたりさん。ウチもふたりのためを思ってしたことだし。それに最後にはこうして恋人同士になれたんやから許してや」

 明と美加は、同時に深い溜め息をついた。

「しかたない。結果はよかったから許してやるか」

「そうね」

 三人は坂を下りきり、洞窟の一番奥まで来た。

 壁には縁結びの神様が彫ってある。

「――それにしても……。あらためて考えてみると、神様はわたしの願いじゃなくてヤキソバの願いを叶えていたっていうの? わたしの愛の想いじゃなくて、焼きそばパンのお供えにつられて願いを叶えたっていうの?

 そんな軽い神様に感謝して損した!

 前に神様に感謝したけれど、前言撤回!」

 続けて美加は、天に向かって叫ぶように言った。美加の声が洞窟内に響き渡る。

「縁結びの神様なんて大嫌い!!」

〈おわり〉





◆あとがき

 みなさまごきげんよう! ジュジュです。

 このたびは「縁結びの神様なんて大嫌い!!」をお読みいただき、まことにありがとうございました!

「TS解体新書」さんのお祭りも、今回で最後だそうですね。

 お祭りが終わるのはまこと残念ではありますが、いたしかたありませんです。

 あとお祭りは全部投稿してやるというひそかなジュジュの野望が達成されました!(プロデューサー! 皆勤ですよ皆勤!!)

 次は何を目標にしてやろうかな? かな?


    ◇


 執筆に関しては、最近は(漫画)「ハクメイとミコチ」(樫木祐人先生)の緻密な背景描写に憧れています。(絵と文という違いはありますが)

 背景風景の描写をものすごく緻密に描く漫画家は他にもいらっしゃいますが、これだけ細かく描きながら読んでいてまったく邪魔ににならないというのは神業としかいいようがありません。

 わたしも見習いたいのですが、風景とか詳細に書こうとしても地の文が無駄に長くなるだけで、単に読みにくくなるだけだったりするんですよねぇ。読んでいてじゃまにならない背景描写ってむずかしいです。


    ◇


 製作のこぼれ話をひとつ。

 執筆中にキーボードがダメになりまして……。

 そこで前から気になっていた、ダイソーの「千円キーボード」を購入してみました。(百円ショップなのに千円する)

 使った感想は(※個人の感想です)――

〈悪かった点〉
・箱を開けたときの感想→「想像以上にショボい」。
・キャシャに出来ていて、キーを打っているとき、たわむのですが…。(わたしの指圧が強すぎるだけ?)

〈良かった点〉
・意外と打ちやすい。
・小型軽量薄型なので、場所をとらない、持ち運びが楽にできる。
・安価。

〈結論〉
・正直おすすめは出来ませんが、
 千円という値段を考えれば相応の品かなぁ‥‥‥。

〈余談〉
 千円なら「失敗してもへっちゃら」と思って買ったのですが、実際に失敗するとちょっとヘコみますね。(苦笑) 好奇心は満たされたので、まぁいっか。


    ◇


 さぁて、ここからは、アニメ漫画のよた話コーナーです。TSと関係ないし、興味のない方はここからは読み飛ばしてにゃ☆

 二〇二〇年の、年間私的ベストのアニメは、「アクダマドライブ」ですかねぇ。

 詐欺師ちゃんの死にざまが格好よすぎました。

 放映終了からそれなりに時間が経ったのに、目を閉じれば思い浮かべられるほど忘れられません。

 あとは「進撃の巨人」とか、実写ですが「ゆるキャン△」(テレビドラマ版)もよかったです。

「耐え子の日常」の最終回は、耐え子は最後にハトと入れ替わってしまいましたが、これもTSと言えるのでしょうか?(マイナー過ぎるアニメを持ち出すな!)

 マイナーといえば「りばあす」も好きなのですが、アニメファンの間でも、まず話題にあがりませんにゃぁ。

「ひぐらしのなく頃に業」もよかったけれど、「うみねこのなく頃に」はおいてけぼりですかぁ!?

 余談ですが、「異世界食堂」は二期が決定して嬉しいです。近ごろは「異世界食堂」みたいな原作を敬する気持ちを感じられる作品が好みですにゃ。

 これからも、素敵なアニメや漫画がいっぱい作られますように☆


    ◇


 あとがきといいつつ、いつもどおりな取りとめもないない話でごめんなさい。

 みなさまの人生が、しあわせに包まれますように!

 最後になりましたが、十数年という長期に渡って「お祭り」と言う作品を掲載する場を運営していただいたtoshi9氏、ならびによしおか氏、両氏に心から感謝をいたします。(よしおか氏は今回はお休みでしたが、長い間ありがとうございました!)


    ◇


 それでは、ふたたびお目にかかれる日を楽しみにしております!

 Ciao!(チャオ!)



 JuJu拝

 −−− クランクアップ!! 二〇二一年(令和三年)六月二十六日 −−−





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・この物語はフィクションです。実在する人物・団体・組織等とは一切関係がありません。

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 間違っていたなら教えて下さい、今のうちに。