ガンガールズ 作:JuJu ■第十四章「後日談」 騒動から二週間後。次の試合開催日になったガンスポのフィールド。 ガンボーイスを倒してからすっかりガンスポにハマってしまった美久(みく)は、試合がおこなわれるフィールドに来ていた。 受付を終えて建物から出ると、美久は声をかけられた。 「今日も来たのか」 声のしたほうに振り向くと、そこにいたのはゴスロリ服ではなく、ガンボーイズの黒ジャケットを着た、男のチカが立っていた。 「あれ? 男に戻ったんだ?」 「姉貴の技法の効果が切れたんだ」 「よかったー。あのままずっと女の子の体のままだったらどうしようって心配していたんだ」 「姉貴がそんなヘマをするはずがないだろう。 ……ただ、検証は失敗した」 「え? どうして? チカはちゃんと女になったじゃない」 「技法の効果が切れたあと、今度はなんどやっても性別は変わらなかった。もちろん他の人にもためして見たが結果は同じだ。 再現……つまり同じ状況と手順で常に同じ結果が起きるのでなければ、それは証明とは呼べない。 再現ができなければ、今回俺の性別が変わったのはジュースとは別な要素があったのではないかとか、単なる偶然ではないかとか言われてもしかたがない。 まあそれ以前に、ちゃんと証明ができなければ性別を変える飲み物なんて誰も信じないだろうしな。 それでも姉貴は、さっそくイタリアに発掘に出かけたけどな。ジュースのレシピの描かれた壁画はまだ一部分しか見つかっていない。欠けた残りの部分が出てくれば、より精巧な、あるいはまた違った効果のあるジュースが再現できるかもしれない。俺としては壁画が時を超えて現存していることを祈るばかりだ。 とにかく今回の検証は失敗に終わった。おかげで俺も姉貴の実験から解放されたってわけだ」 「そっか……。 それで、チカは男に戻ったからまたガンボーイズに戻るの?」 美久は心配そうなおももちで、黒ジャケットのチカを見る。もっとチカと一緒にチームを組んでいたかった。 「いや……。俺はガンボーイズから抜けることにした。まだリーダーには言っていないけれど、会ったら直接話すつもりだ。もともと好きで入っていたわけじゃないしな。 替わりににこれからはミクとチームを組む。変身した女の姿ではなく、本来の俺の姿でミクと一緒に戦いたい」 「本当!? わたしもチカともっと組んでいたいと思っていたんだ! 今度は臨時のチームじゃなくて、正式なチームだね。……あ、でもリーダーがガンボーイズを簡単にやめさせてくれるかな? 抜けたら嫌がらせみたいのうけないの? リーダーはそんなことしそうにないけれど、あのモヒカンの人なんかねちっこい性格っぽいし」 「誰かなんと言おうと俺は抜けると決めた。万一嫌がらせを受けたら、この前見たくお前と一緒に戦う。おまえと一緒ならば負ける気がしない」 そこまで言って、チカは思いだしたように続けた。 「この前といえば、例の返事をまだ聞いていないんだが?」 「例の返事?」 「俺は美久のことが好きになった。だから、恋人としてつきあって欲しいと言ったはずだ。 その返事を聞かせてくれ」 「そ、そんな突然言われても!」 「突然じゃない。前の試合からもう二週間も待っているんだ」 「それはそうだけど……。えっと……でも……」 「どうなんだ?」 チカが返事をせまりながら身を寄せてくる。 美久はうろたえながら言いよどんでいるところに、また誰かが声をかけてきた。 「やっほー、ミクさん。 ほら、やっぱり今日も来ていた! ぼくの言ったとおりでしょう?」 振り向いて声のする方を見ると、黒いジャケット姿のガンボーイズの三人がこちらに向かって歩いてくる。声をかけたのはムクだった。 「げげげっ、噂をすればガンボーイズ……」 ミクがいう。 「おう、ミク! 今日はあのゴスロリは一緒じゃないのかよ? ――っておおぅ? チカ、おまえいつ日本に戻ってきたんだ?」 トサカが言った。 ここで美久は、トサカが髪の色を変えていることに気が付く。 以前はニワトリのようにモヒカンは真っ赤だったはずなのに、今日はモヒカンが青い。まるで美久がペイント弾を撃ちまくってトサカのモヒカンを真っ青に染めた時そのままだ。 確かにわたしもあのペイント弾で髪を汚されたときははなかなか落ちなかったけれど、それでも一週間しても落ちないなんてあり得ない。 ――もしかして、わたしがリベンジを誓って髪を切ったように、わたしに復讐することを誓って髪の色を青色に染め直したとか? ガンボーイズが前回負けた腹いせをしにきたのではないかと美久はあせった。 「リーダー、ちょっといいか? 俺、ガンボーイズ抜けるから」 不安に駆られている美久など気にせず、あっさりと脱退宣言をするチカ。 それを聞いた美久もガンボーイズがどうでるか心配する。 ところがリーダーは「そうか。好きにしろ」と捨てるように言った。 「だって、どうせもう、ガンボーイズは解散することにしたんだもんね」 ムクが言葉を繋ぐ。 「ええ? どうして?」 美久が問うと、トサカが代わりに答えた。 「そんなの決まってる。俺たちミクのことが気に入ったからだぜ!」 「うん。だからミクさん、ぜひぼくたちのチームに入ってよ」 ムクが言う。 「つまりこう言うことだ。 ガンボーイズを一旦解散して、ミクを迎えた新たなチームを作ろうと考えているんだ。 おまえは初めての時からくらべてだいぶ強くなった。そうとう特訓を積んだんだろう。俺は努力をする人間は尊敬する。 そういう俺もマイナーで無敵になってからすっかり訓練をおこたっていたがな。だがこれからは違う。初心に戻って訓練にはげむ。そこでだミク……、俺とふたりで訓練をやらないか」 「ちょっと、美久さんを迎えた新チームを作るって話だったじゃないか。リーダー、さりげなくぬけがけはずるいよ。だったらぼくだってミクさんと一緒に練習がしたい」 ムクが言う。 「俺もあの時は頭に血が上っていたがよぅ、頭を冷やしてみたら、強い女っていうのもいいなと気が付いたんだ。あの時は酷いことをしたよな。お前への詫(わ)びと反省の証(あかし)としてこうして頭も青に染め直した」 トサカは美久にモヒカンがよく見えるように頭を前に倒した。 「まあなんだ……。ようするに俺たち全員、あんたに惚れた――ってわけだ」 リーダーが総意をまとめるように言う。 「どうしてわたしだけなの? あんたたちを倒したっていうならゴスロリの女性もいたじゃない」 そう言って美久はさりげなく隣りに立っているチカを見ると、彼は横を向いてそしらぬ振りをした。 「たしかに強かったし、美人でスタイルもいいけれど……。大学でもゴスロリを着てくるような人を彼女にするのは、ぼくはパスだなぁ」 ムクが言う。 「そうそう。ガンスポのフィールドだけならまだギリギリでセーフだが、外でもゴスロリのコスプレをしているのはちょっとな……」 トサカが言う。 モヒカンをしているお前が言うな、と美久は思った。 そういえば、チカのお姉さんは大学の教授で、チカも時々教授の元にいっているって言っていたっけ。そしてガンボーイズもその大学の学生。キャンパスでゴスロリ姿を見ていてもおかしくはないか。 「あの子、ガンスポのフィールドや大学内だけじゃなく、町中でも着ていたわよ? ゴスロリを普段着として着ている見たい」 美久が言う。 「ゲェッ……」 トサカが驚く。 「うわー。実のことをいうと、ぼく……ゴスロリの人も、ほんのもちょっとだけいいかなって思っていたけれど……、むりだよ」 「同感だな」 リーダーが言った。 リーダーはさらにつづける。 「――そんなわけだ。俺たち元ガンボーイズは全員、ミクの恋人候補に立候補する!」 「まっ、待って。ちょっと待って! どうしていきなりそんな展開になるのよ!?」 「まったくだ。第一美久に先に告白したのは俺だぞ。それも二週間も前に」 傍観していたチカが割ってはいる。 「それで返事はもらったのか?」 リーダーが問う。 「それは……」 「まだなんだな? だったら俺たちが立候補をしても、なんの問題もないはずだ」 それから四人のイケメンたちが、顔を揃えて迫ってきた。 「ミク!」「俺たちの中で」「誰がいちばん」「好きなんだ!?」 「そんなこと言われてもぉ!!」 ――このあと、美久を含めた新生チームを結成。これをキッカケにメジャーと呼ばれる大きな大会に進出して大活躍。同時に美久をめぐる男たちの恋の戦いも白熱するのだけれど、それはまた別のお話。 【おわり】 ■あとがき みなさまこんにちは! 地元密着型アイドル、フランジュジュです! 探そう佐賀県! (――ってわたし佐賀って行ったことなかとよー? 聖地巡礼してー!!) このたびは「ガンガールズ」をお読みいただき、まことにありがとうございました! 今回は「TS解体新書」さまの「令和元年変身モノ祭り」に参加させていただきました。 お祭りということで、楽しんで書けました。願わくば、お読みになる方々も楽しんでいただけるとうれしくおもいます。 ちなみに今作品は、 ひとつは少女漫画っぽいのを書いてみたいと思ったので【少女漫画】、 もうひとつはアニメ化もした時雨沢恵一先生・著のライトノベル「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」(以下GGO)が面白かったのと、 『男「サバゲーでもしようぜ、ほら」』と言うSSが面白かったので、 触発されて【サバイバルゲーム】。 このふたつをモチーフにして書いてみました。 GGOは小説・アニメーションどちらも面白いですよね! (尚、アニメは一期・二期とも見ましたが、原作小説はまだ二巻のみ(※アニメでの二期・前編に当たります)しか読んでいません‥‥。なんかすみません) あとわたしはサバイバルゲームってやったことありません。それどころか銃に関する知識もほとんどありませんです。 なにしろほとんど知らない手探りなものだったので、いろいろちょっと大変でしたが、銃器関連については前から興味があったし、これからモノを書く上でこの手の知識はむだにならないと思うので、いい勉強になりました。 そんなわけで、銃器とかサバイバルゲームとかについておかしな点も、それはもううじゃうじゃあるとは存じますが、そこは作り話ということでどうか御寛恕でお願いします。 あと、作中で『的を得る』は誤用であり、『的を射る』が正用法だという会話がありますが、これは作品内の演出のために書いたのであり、わたし自身はどちらもアリだと思います。「的を得る」も採用している辞典もあると聞きますしね。 それではみなさま! 最後までお読みいただき、まことにありがとうございました!! よろしければ次回作でまたお会いしましょう! Ciao!(チャオ!) JuJu拝 追記:このあとがきを書いた後、「GGO」原作一巻を読み始めました! ☆☆☆ クランクアップ! 2019年(令和元年) 9月3日 ☆☆☆ ---- ・この物語はフィクションです。実在する団体・組織・人物等とは一切関係がありません。 ・トイガン・エアガン等を使用する時はゴーグル等で必ず目を守るようにして下さい。また不必要に銃口を人や動物・鳥類等に向けないようにしてください。 ・発表の場を設けていたいた、主催のtoshi9様、ならびに実行委員のよしおか様。ありがとうございます。 ・「ゼリージュース!」はTira氏とtoshi9氏の考えたシェアワールドです。詳細は「TS解体新書」様(http://tskaitai.x.fc2.com/index.html)まで。 ・『男「サバゲーでもしようぜ、ほら」』のアドレスはこちらです。(※現在は削除されているようです) http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1419134569/ ・誤字脱字等の指摘・報告は「TS解体新書」様の掲示板(http://toshi9bbs.bbs.fc2.com/)までお願いします! 間違っていたなら教えて下さい、今のうちに。 |