ガンガールズ

 作:JuJu




■第一章「美久の憂鬱」

 時は一週間前にさかのぼる。

 九月も終わりに近づいたある日、美久(みく)は、友人の麻由莉(まゆり)にガンスポに誘われていた。

「ねぇミク、今度の日曜日いっしょにガンスポやらない?」

 午後の授業が終わった大学の講堂で、美久が「んー」とうなりながら腕を伸ばしてのびをした後、のんびりとノートをカバンに片付けているときだった。出ていく人の流れに逆らって麻由莉が入ってきて、視界一杯まで顔を近づけて話しかけてきたのだ。

「ガンスポ? なにそれ」

「正しくはガン・スポーツって言うんだけれど、略してガンスポ。

 サバイバル・ゲームは知っている? ガンスポはその派生で、サバイバル・ゲームをスポーツとしてやろうってやつ。ここ数年ではやりだしたらしいんだ」

 サバイバル・ゲームならはわたしも聞いたことがある、と美久は思った。たしかおもちゃの銃を使って戦う――早い話が戦争ごっこだ。

「参加してみたいんだけど、ひとりだと不安じゃない? それにチームを組んで参加するのがガンスポのが常識らしいし」

 麻由莉がいった。

「それでわたしに、そのガンスポっていうのに一緒に参加して欲しいってわけだ」

「そういうこと」

「でもサバイバル・ゲームみたいなものなんでしょう? 野山とかをかけまわるんでしょ? 泥まみれになりそうでいやだなぁ」

 これでも花も恥じらう乙女なのだ。土や泥まみれになってまで、聞いたこともないスポーツなんてやりたくない。

「服が汚れるという理由でやりたくないなら、ガンスポは整備されたフィールドっていう専用の試合会場でやるから大丈夫。さすがに汚れないってことはないけれど普通のスポーツと同じだよ」

「それに、おもちゃの銃なんてもっていないし」

「わたしも持っていないからインターネットで調べたら、トイガンは安いのは三千円からあるみたいだけど……。ガンスポで使う制式のは、最低でも四万から五万はするみたい。それとは別に、公式の弾(たま)とか、バッテリーとか、バッテリーの充電器とかも必要だけどね」

「そんな大金、急にはだせないよ」

「まあまあ。必要なものはフィールドで借りられるっていうし。わたしたちは五千円のビギナー・レンタルセットってやつでいいでしょ。これなら撃ち方の指導もしてくれるんだって」

「五千円かぁ、それならなんとか出せるかも」

「あと交通費もね。今回行くフィールドは山の中にあるから、アクセスも大変だよ。

 でも昼食はカレーが出るから用意しなくていいのは助かるわ。『カレー名人が作ったカレーチャーハンと豚汁』。これって「チャーハンにカレーを掛けたものだって! 五百円」

「お金ばかりかかるなあ」

「そうそう試合の参加費は一人五千円ね」

「高いなあ」

「フィールドは整備とか保守とかあるからしかたないよ。

 それに優勝チームには賞金として参加費の合計の二割がもらえるんだって。毎回五万以上は出るみたいだから、ふたりで分けても二万五千円ずつ。諸経費を引いてもお釣りがくるよ」

「初めて出場して優勝なんてできるわけがないでしょうが」

「あはは、それもそうだね」

「まったく……。それにしても執拗なまでに勧めてくるわね。そんなにガンスポがやりたいの?」

「うーん……。実をいうとガンスポがやりたいっていうよりも、このフィールドにすっごくかっこいい男子大学生がよく現れるってうわさがあってさ!」

「どうりで」

「ただ単に顔がいいってだけじゃないんだよ? ガンスポも全国大会優勝レベルの腕前。それになんたってお金持ち。資産家のご子息らしいわよ!? しかもそんな人たちが四人もいてグループを組んでいるんだって」

「マユの気持ちもわかるけど……わたしも美形は好きだし」

「でしょでしょ? だったら一度だけでもいいからつきあってよ。つまらなかったらやめればいいんだし」

 麻由莉が強引に誘うので、まあ一度だけならばつきあってやるかと思い、美久はガンスポに参加することにした。