ガンガールズ

 作:JuJu




■「序章」

 ふたつ、背中に硬い鉄の塊を突きつけられる。

 冷たい銃口の感触に、美久(みく)は体を震わせた。生ぬるくてねっとりとした嫌な汗がほおに流れる。敵は四人、しかも全員男だ。女のわたしでは絶対かなわない。絶望に飲み込まれそうになるのをこらえながら、彼女は目を閉じて現実をさえぎることによってどうにかわが身を奮い立たせた。

 あきらめるな。引き金はまだ引かれていない。わたしはまだ死んではいない。生きているかぎり反撃のチャンスはある。

「手を挙げろ。それから、ゆっくりと振り返るんだ」

 目を閉じた闇に、低い声が響き渡る。敵のあいだでリーダーと呼ばれる男の声だった。背中に当たっていたふたつの拳銃の感触がふいに消える。美久はゆっくりと拳銃をにぎったままの腕を肩の高さまで上げて、無抵抗をしめすホールドアップのポーズをするしかなかった。

 美久はおそるおそる目を開く。早秋とはいえ野外に立つ彼女を照らす陽光はまだ強く、そのまぶしさに彼女は目を細めた。どんなに気を強く持ったところで、目を開けば殺されるのを待つばかりの現実が待ち構えている。

 ホールドアップをしたまま振り返る。銃口を向けたふたりの若い男の姿が目に入った。女の自分よりもはるかに背が高い。くやしいが相手の顔を見るためには見上げるしかない。

 リーダーと呼ばれる男は、髪をオールバックにしていた。背が高く、筋肉質で逆三角形の体をしている。筋肉質といってもボディ・ビルダーとかマッチョと呼ばれる人とは違い、柔軟で俊敏な体操選手のような体格をしていた。真面目そうなへの字口をしていて、自分にも他人にもきびしい性格をあらわした顔だちをしている。こちらに銃口を向けている銃は、拳銃にしてはかなり大きなものだった。たしかデザートイーグルとか呼ばれる銃だな、と美久は思った。

 リーダーのとなりに立っているチカという男は、黒くてきれいな長髪をした人だった。しかも女性に見まごうようなやせ形で女顔だ。これでリーダーと肩を並べるほど背が高くなければ女とまちがえてしまったかもしれない。無表情というか、無気力無関心を絵に描いたような表情をしている。髪が長いのもオシャレというよりも単に切るのがめんどうくさいからといった所だろう。銃はガバメントという百年の歴史がある軍用銃だ。

 くやしいことにどちらもものすごい美形だ。しかもメンズファッションにはあまり詳しくない美久でさえ、ひとめ見ただけでブランド物だとわかるほど高そうな黒のジャケットでキメている。走り回れば汗もかくし泥だって付くというのに高そうな服を着ているのは、よほどの馬鹿かあるいは相当なお金持ちしかいないと美久は思った。彼らは間違いなく金持ちの方だろう。

「ポニーテール、よく聞け」

 リーダーが低い声で言う。

 美久は男たちの観察を中止して、リーダーに視線を向けた。

「俺はな、戦場という男の世界にお前らみたいな浮ついた気持ちで踏み込んでくる女が大嫌いなんだよ」

「そんなの、戦いの世界に男も女も関係ないでしょ!?」

 美久はリーダーをにらみつけて口答えをするが、しょせん銃の前に言葉など無力だ。

 美久は助けを求めてパートナーの麻由莉(まゆり)に視線を向けた。彼女も美久と同じように、ふたりの若い男に背中に拳銃を当てられて身動きがでとれなくなっていた。

 麻由莉は美久と揃えた同じ服を着ていた。トップスは黒のタンクトップ。パンツは迷彩柄で、足は黒の靴下とトレッキングシューズ。腰の右側にホルスターを付けて中にはベレッタという拳銃が入っている。マガジンポーチと呼ばれる小物入れも腰にベルトで巻いていた。

 パートナーの麻由莉の背後に立っているのは、ひとりは頭をモヒカンにして髪を赤く染めている男だった。つり目でニヤニヤと薄笑いをしている顔がいやらしい。背が低く、男たちの間で唯一の小男だ。背が低いのと、筋肉質のリーダーを見たあとのため目立たないが、彼もそれなりに鍛えた体をしている。周囲を警戒しているのか、ニワトリのようにやたらと首を動かしてあたりに目くばせをしている。赤いモヒカンをしているので、美久は彼のことをトサカと呼ぶことにした。

 リーダーが美久から銃を離したのを見て、トサカも同じように麻由莉の背中から銃を外す。

 トサカの持っている銃を見て、美久は心は踊った。

 あ、あの銃ならば知っている! ルパン三世がもっている銃だ! その名もワルサーP38!!

 銃の知識のとぼしい美久が唯一よく知っている物を見つけて喜んだのも束の間。トサカはワルサーを自分の口元に近づけると、ぺろぺろと舐め始めた。変態だと美久は思った。

 麻由莉を捕らえているもうひとりは、背の高いリーダーよりもさらに一回り背が高かった。目がたれていて糸のように細い。髪はかなり短く刈り込んで、高校野球の選手のような坊主頭にしていた。あごに短いひげをたくわえている。体格はかなりの大柄で、力自慢の大男といったところか。美久にはムクっとした大型犬を感じさせた。そこで美久がつけたあだ名はムク。トカレフと呼ばれる旧ソ連の拳銃を麻由莉に向けている。

 こちらもリーダーたちとお揃いの、すごく高級そうな黒のジャケット姿をしている。このふたりも美久を捕らえたふたりにはじゃっかん劣るが、それでもかなりの美形だった。いい男に弱い美久はこんな状況だというのに見ほれてしまう。

 それも当然だった。彼らこそ美形四人組として名を馳せている、ガンボーイズその人たちだったのだから。