「恋と魔法の夏休み」
 作・JuJu

 最終話

「俺の願いを叶えるったって、おまえは強引に俺を女に変えただけじゃないか」
「だって広海って、いつのころからか夏花のことを避けるようになってたじゃない。だからもう一度、広海と夏花を仲良くさせたいと思ってやったことなの。
 夏花もごめんね。でも、こうしてふたたびなかよくなれたんだから、ゆるしてね」
「じゃあ、やっぱり本当に広海と結衣なの?」
「だから、そういっているだろう。
 それで、結衣は俺と夏花を仲良くさせておいて、自分の分の願いはどうしたんだ?」
「あたし? あたしの願いはふたりが昔のように元に戻ってほしかったの。そうすれば、また昔のように三人でなかよく過ごせるじゃない。
 それに――」
 と、ユイは、わずかに照れながら言った。
「こうなったら話すけど、実はあたしも広海のことが気になっていたの。でも広海と夏花が相思相愛なことを知っていたし、ふたりは親友だから、あたしは身をひいて、一週間の家族旅行を蹴ってまで、ふたりを応援することにしたわけ」
「えっ?」
 相思相愛という単語を聴いて、夏花が顔を赤らめた。
「ま、まて、相思、相愛って。俺は、その、あの……」
「もう、ここまで来たら腹をくくりなよ。
 あのね夏花。広海は夏花のことが大好きなんだよ」
「ば、ばか、おまえ!!
 だいたい夏花が俺なんかのことを相手にするはずがないだろう」
「よく聞いて広海。
 夏花はこんな美人なんだから、男がほおっておくわけがないじゃない。それなのに、浮いた話ひとつないのはどうしてだと思う? 答えは、全部、振っちゃったのよ。
 どうしてかわかる? 広海、あんたを待っていたのよ。広海から告白される時をひたすら待っていた」
「そんな……ばかな……」
「ちょ、ちょっと結衣……」
「広海は気がついていないようだから、夏花の代わりにいうけど、夏花は小さな頃から、ずっと広海が好きだったんだよ」

 その時、猫の魔法の時間切れが来たらしく、魔法が解け、結衣が元の姿に戻った。
「広海、女物の服、似合うわね」
 結衣がにやけながら言う。俺は自分の服を見た。女物の服のまま、体だけが男の姿に戻っていた。つまり、女装した姿になっていた。
「ゲェーッ!?」
「本当に、広海と結衣だったんだ……」
「くそぅ。なんで結衣だけがメイドの服から普段着にもどっているんだよ」
「あら? そんなにあたしのメイド姿が見たかったの?
 ご主人様ぁ〜。
 なんてね」
「うるさい!」
「まあ、広海はちょっとおかしな格好だけど。さっさとけりをつけちゃいましょう。あんたちを仲良くさせるために、猫の魔法まで使ったんだからね。でも恋人としてつきあうかどうかは、あんたたちが決めることよ。
 それじゃ、ずばり聞くわよ? 夏花、答えて。広海のこと好き? それとも嫌い?」
「ちょっとまって。まだ、頭が追いつかないの。
 まさか、本当に広海だったなんて……。
 それじゃ広海は、一週間も、女の子のふりをして、わたしの着替えとか裸とか見ていたわけっ!? 信じられない!! 許せないっ!!」
「うっ……、そ、それは」
 夏花の剣幕にたじろいでいると、結衣が中を割って入ってくれた。
「あのね夏花。夏花が怒るのはもっともだし、広海も嫌われても仕方ないと思う。
 でもね。広海だって悪気があってやったわけじゃ……いえ、悪気はあったんだけど……、そ、それもこれも、元はといえば夏花の魅力のせいなのよ」
「だからって、そんな、一週間も、女の子になりすまして……、わたしをだましていたなんて……」
 結衣は押され気味だったが、とうとう開き直った顔をした。
「ふ〜ん。じゃあさっきの質問の答えだけど、夏花は広海のこと嫌いってことでいいのね?
 なら、あたしが貰っちゃおう!」
「あ?」
「ええっ?」
 結衣は俺の正面まで歩いてきた。
「広海は夏花だけじゃなく、あたしのヌードだって見まくっていたしね」
「おまえのは自分から見せて来たんだろうが」
「だって、変身した体で自分の裸じゃないから、別にはずかしくなかったし」
「だいたいそれは猫のユイの姿での話だろ。俺だって、あんな子供の裸を見せられたところで、なにも感じねえよ」
「ふーん。広海は、いまのあたしの裸が見たいんだ? いいよ。見せて上げる」
「え? ま、待て!」
「広海ならべつにいいよ」
 そう言うと、結衣は目の前で本当に服のボタンに手をかけた。
「ちょ、ちょっと結衣!」
 夏花が走り寄ってきた。結衣の手を掴んでとめる。
「なんてね、冗談冗談。本当に脱ぐわけないでしょ?
 でもね夏花。あんたは性に関して堅すぎ。それじゃ、いつか今みたいに、広海を色仕掛けで奪うやつがでてこないとも限らないわよ?」
「そ、それは……そうかも知れないけれど……」
「あと、これはあたしが保証するけど、広海が見ているのは夏花だけだから。エッチな視線も含めて、広海は夏花のことしか見ていなかったから。少なくとも、あたしが知る限りではね」
 夏花は逡巡していたが、やがて決心したように言った。
「わかった。広海が女の子に変身してわたしの体を見たことは許す。その代わり、これからは他の女の子を見たら嫌だからね」
「今までも、これからも、俺は夏花一筋だ。夏花以外の女に、興味なんてない」
「それじゃ、ふたりの仲もそろそろけりをつけるとしますか。
 広見は女装しているけどね」
「俺だって好きでしているわけじゃねえ」
「いいからいいから。
 それで広海。夏花はもう何年も、ずーっと告白をまっているんだけど。どうするの。この際だから、はっきりしてよ」
「わかった」
 俺は息を大きく吸うと、それから、しずかに口を開いた。
「好きです夏花。俺とつきあってください」
「女装で告白するなんて、とんだ変態ね」
「うるさいうるさい!」
「それで、夏花のこたえは?」
「はい。私でよければ」
 それを聞いた結衣はちょっと悲しい目をした気がした。が、すぐにあふれんばかりな、いつもの笑顔に戻って、元気よく言った。
「よっしゃ、おかまで、女装で、でばがめな、変態男の夏の恋、これにて一件落着、ね!」
「おかまで、女装で、でばがめな、変態だけよけいだ!。
 まあ、これもおまえのおかげだ。ぜったいに幸せになる」
「……失恋なんて誰でも通る道って、広海に言ったけど、なってみるとやっぱりつらいね」
「ん? なんか言ったか?」
「ううん。とにかく、おめでとう」
「ああ。いろいろ、ありがとな結衣」
「うん。わたしからもありがとう」
「よしっ! ふたりとも幸せになりなよ!」

(おしまい)


【あとがき】