「恋と魔法の夏休み」
 作・JuJu


 第14話

「夏花、よく聞いてくれ。俺のこの姿は、本当の姿じゃない。俺は本当は――」
 そこまで言ったところで、俺が何をしようとしているのか気が付いたユイか言葉をさえぎった。
「ちょっとヒロミ!?」
「もうこれ以上、夏花をだまし続けるのはいやなんだ」
「……そう。わかったわ。
 それならばあたしに先に言わせて。
 だって、もとはと言えばあたしのせいなんだから」
 そういうと、ユイは姿勢を正して夏花を見た。
「夏花、いままでだましていてごめんね。
 あたしも、この姿は本当の姿じゃないの」
「なんだとっ!?」
 ユイの告白に、驚愕したのは俺の方だった。
「え? どういうこと?」
 一方夏花は、なにを言われているのか分からない様子だった。ただ、ユイの真剣な面持ちと、俺の驚いている表情を見て、ただならぬことが起こっていることは察したようだった。
「じゃあ、おまえは何者なんだ?」
 ユイは俺の方を向いた。
「三人の幼なじみにして、夏花の親友の結衣。って、こんなことしておいてもう親友なんて言えないか」
「結衣って……結衣か!?」
 ユイはふたたび夏花に向いた。
「でもこれだけは憶えておいて。すべてはあたしが画策したの。計画を立てたのもあたし。ヒロミをそそのかしたのもあたし。魔法をかけて変身させたのもあたし。全部あたしが悪いの。だから夏花、ヒロミの正体が分かっても、ヒロミのことを嫌わないで」
 いかに鈍感な俺でもユイがなにをしようとしているのか理解できた。ユイは自分が嫌われても、俺をかばおうとしている。
「まて結衣。夏花にあやまるのは俺の方だ。
 夏花、いままでだましていてごめん。
 俺の正体は、幼なじみの広海だ」
「え? ええ!? なに?
 ちょっと、ふたりとも落ち着いてよ。
 私、あなた達がなにを言っているのか理解できないよ」
「そうだな。じゃ、俺から話そう。
 これから話すことは、信じようが信じまいが、すべてが真実だ」
 俺は夏花に包み隠さず、ユイに逢った時からのことを、すべてを語った。一週間前にユイが来たこと。ユイに今の女の姿にされたこと。女の姿であることを利用して、夏花に近づき、裸を見たり、一緒に風呂に入ったこと。
 夏花は、真剣に俺の話を聞いてくれた。
「それじゃ今度は、あたしの番ね」
「ああ。俺も、どうして結衣が猫娘の姿をしているのか知りたい」
 ユイは小さく頷くと話し出した。
「憶えている? あたしたちが小さい頃、みんなで子猫を拾ったでしょう?
 あの猫が来てね。願いを叶えてくれるっていったの」


      ★〜★〜★


 ユイが語ったのは、こんな話だった。

 一週間前。
 結衣の前に、白い色の和服を着て、器用にも二本足で立っている猫がやってきたそうだ。
「じゃあ、あなたはあの時助けた子猫だっていうの? 突然、神社からいなくなっちゃったから、あの後みんなで心配したんだよ。元気にしていたんだね」
「はい、結衣様。あのあと母が探してくださり、無事に自宅に帰れました」
「お母さんが探しに? じゃあ捨て猫じゃなかったんだ! ごめんね。あたしたち、てっきり捨てられていたと思ってた」
「気にしないでください。
 あの時命がけで助けていただいてなければ、わたしは車にひかれていたでしょう。母の元にも戻れず、こうして天寿だってまっとうできなかったでしょうから」
「天寿をまっとうって……。え、それじゃ死んじゃってるってこと?」
「はい。私はもう死んでいるんです。俗に幽霊とか物の怪と言われる存在ですね」
「そうなんだ……」
「正しく生きて天寿をまっとうできた猫は、あの世に行く前に、ひとつだけ願いを叶えられるのです。
 そこで、今日はあなたの願いを叶えに来ました」
「にわかには信じがたいけど……しゃべる猫が言うんだものね。あたしの名前まで知っているし。わかった、信じるわ。
 でも、願いごとってひとつだけなんでしょう? あたしのために使っちゃってもいいの?」
「あなたに使って欲しいのです。助けていただけなければ、あの時点で死んでいたんですから」
「猫の恩返しってわけね」
「本当は、助けていただいた広海様と、夏花様にもお礼をいいたかったのですが、私には、もう時間がないのです。もうあの世に行かなければなりません。あなた一人だけでも見つけられて、ほんとうによかった」
「そっか。わかった。ふたりには、あたしからよろしく言っておくよ。
 それでさ。これはたとえばなんだけど、あくまでもたとえよ? 広海にあたしを振り向かせるとかもできる?」
「それがあなたの願いならば。ただし、猫の願いの効果は一週間です」
「なんだ。一週間の期限つきか〜。それじゃつまらないな。
 んー。じゃああたしはいいから、広海か夏花の所に行って願いを叶えてあげて」
「私もお会いしたいのです。が、繰り返しになりますが、私には残された時間がほとんどないのです。いまこの場で、願いを決めて下さい」
「でもなあ、車にひかれそうなところを、捨て身で救出したのは広海なんだし。あたしは見ていただけだものなー」
「どうしても広海様にとおっしゃるのならば、私の願いを叶える力を結衣様に譲渡する方法も、あるにはありますが……」
「なになに? あたしがあなたの代わりに願いを叶えさせられるの? それっておもしろそうじゃない」
「ただしその場合、結衣様には魔法の効果がある間、猫になっていただかないとなりません。猫の願いが使えるのは、猫だけですから」
「マジ? 一週間猫の姿か。
 ん〜。
 そうだ! いいこと思いついた。
 これならは、あたしたち三人全員の願いがかなえられるかも!」


      ★〜★〜★


「こうしてあたしは、猫の魔法を使うためにこの猫の姿に変身して、広海の願いをかなえてあげたわけ」

(最終話へ)