運動会と見習い魔法使い 作・月より === 10月9日(土)朝 === 莉々:おはよー!玉ちゃん、チョコ♪ 玉ちゃん:おはようございます。リリさん。 チョコ:おはよー、りっちゃん! その日の朝も、仲良し3人組の私たちは、並んでおしゃべりしながら登校していた。 私は、平坂莉々(ひらさか りり)。なので「りっちゃん」。小学5年生。 自分で言うのもなんだけど、運動・スポーツ大好き!でも、勉強は...えへへっ。 左の女の子が、同じクラスの玉乃屋瑞穂(たまのや みずほ)ちゃん。なので「玉ちゃん」。おっとりしているけど、クラスで一番勉強できて美人だし、羨ましい。 右の女の子も、同じクラスの黒鳥千代子(くろとり ちよこ)ちゃん。なので「チョコ」。運動も勉強も苦手なんだけど、とても頑張り屋さん。 そしてこの3人だけの秘密なんだけど、チョコのおばあちゃんやお母さんは「魔法使い」で、チョコも今は見習いで魔法修行中。チョコちゃんは将来、魔法使いになって、みんなに“チョコっと”、幸せになれるような魔法を与えるのが夢なのだそうです。 莉々:あした、いよいよ運動会だね♪今から楽しみだよ。 玉ちゃん:でも、あした、天気予報では、朝から雨って言ってましたよ。 莉々:えっ!?1年に1度の楽しみなのに、そんなのないよぉー。 チョコ:りっちゃんは50m6秒台で走れるんだからいいけど、チョコは走るの苦手だから雨の方がいいよ。 玉ちゃん:てるてる坊主、軒下に吊るしとけばいいんじゃないかな? 莉々:てるてる坊主? チョコ:そうだよ。白い布なんかで頭を作って顔かいたりして、てるてる坊主を作るの。心を込めて作れば、魔法のように願いは叶うかも♪(お母さんの受け売り) 莉々:わかった。帰ったら早速、作ってみる!でも、チョコ、魔法で天気どうにかならないの? チョコ:雨にする魔法なんて難しいし、チョコみたいに「雨」を願う人もいるから、不幸な人が出る魔法は、かけちゃいけないんだって教えられてるの。 莉々:そっか。そうだよね。それじゃ私、家こっちだから。 そう言うと、莉々は走って帰っていった。 チョコは大きな声で、遠ざかる莉々に叫んだ。 チョコ:『照るてる坊主は、逆さに吊るすんだよぉー!!』 莉々:『ん?わかったぁー!』 玉ちゃんが、じーっとチョコを凝視している。 玉ちゃん:...チョコちゃん、いじわるですね。 チョコ:だって、雨がいいもん。えへっ。 === 翌日(10月10日、日曜日) === パン、パン、パーン。 雲ひとつ無い、青空が広がり、絶好の運動会日和となった。 莉々:正義は勝つ! 玉ちゃん:よかったですね。リリさん。 莉々:うん。昨日、てるてる坊主5個作ったからね!そのおかげかな。 チョコ:てるてる坊主、逆さに吊るしたの? 莉々:うん、ちゃんと逆さに吊るしたよ。 玉ちゃん:チョコちゃん、残念でしたね。ふふふ。 チョコ:はぁー・・・、それじゃあ、パンくい競争、行ってきま〜す。 莉々:チョコ、頑張れ!(ガッツポーズを作る) 玉ちゃん:私も応援しますからね。 チョコは、とぼとぼとスタート地点へ向っていった。 午前中は、チョコの「パンくい競争」と莉々の「50m走、200m走」があり、午後には、玉ちゃんの「借り物競争」、莉々の「クラス対抗リレー」がある。 そして午前の部が終わり、約1時間の昼食の時間となった。3人は一緒にグランドに敷いたレジャーシートの上でお弁当を食べていた。 玉ちゃん:それにしても、チョコちゃんもリリさんも1位だなんて、私、嬉しいです! 莉々:チョコのパンくい競争には驚いたよ。いつも走っているように走って、パンをいつの間にかくわえているんだから。 チョコ:どうせ私は、50m走12秒8だからですよぉー(腕を組んで怒っている) 玉ちゃん:なんだか私、緊張してきちゃった。 莉々:私たちにまかせといて!借り物競争なんだから、チョコと私で、いろんな物持って待っているから。 チョコ:紙を引いたら、すぐにこっちに来てね! 玉ちゃん:はい。すぐに行きますから、お願いしますね。 莉々:それよりも今は、しっかり食べなきゃ。 チョコ:食べすぎだよ、りっちゃん。 莉々:チョコも食べすぎだよ。さっき、アンパン食べてたでしょ。 チョコ:ジャムぱんだから、だいじょうぶなの。ね、玉ちゃん。 玉ちゃん:チョコちゃんは、もう出場しないけど、二人ともほどほどにしなきゃだめだよ。 莉々&チョコ:はぁ〜い♪ 午後の部が始まった。 玉ちゃんが出場する「借り物競争」は最初に、莉々の「クラス対抗リレー」は最後にプログラムされている。莉々とチョコは、借り物競争のため、ボールペンや消しゴムといったものから、帽子・時計・ベルト、チョコの横には担任の先生まで連れて準備していた。 莉々:これだけあれば、大丈夫でしょ。 チョコ:うん! よーい・・・パン! 玉ちゃんがスタートして、紙を取るとチラッと見て、こちらへやってきた。 玉ちゃん:はぁ、はぁ...ごめんね。これはダメみたい。 莉々とチョコは紙を見ると、『ウサギ(本物でなくてもよい)』と書かれていた。 3人は準備していたものに「ウサギ」がないか見ていた。 莉々:ネコやイヌのイラストが入ったのならあるけど、ウサギはないよ。 チョコ:先生、何かウサギの入った物、持ってないの?もう、役立たずなんだから。 玉ちゃん:飼育小屋にウサギは飼っているけど、ここからだと離れすぎているし。 チョコ:もう、仕方がないなぁ。りっちゃんはしゃがんで!玉ちゃん、先生を手で目隠しして! 莉々:しゃがむの? 莉々は本能的にしゃがんだ。チョコは莉々の頭を両手で押さえつけながら、何かつぶやく。チョコの手はガクっと地面近くまで落ち、莉々の身体がなくなった。 先生の目を押さえていた玉ちゃんは、あっけにとられていた。 チョコ:玉ちゃん、ほら、ウサギ。急いで! チョコは、莉々の体操服の中に埋もれていた白いうさぎを掴むと、玉ちゃんに手渡した。 玉ちゃんは、驚きながらもゴールへ向って走ったが、1着にはなれなかった。 莉々&チョコ:玉ちゃん、ごめんなさい。1着になれなくて! 玉ちゃん:気持ちだけで十分。リリさんのうさぎ姿も可愛かったし、ずっとだっこしていたい気分でした。 莉々:チョコがもっと早く、私をうさぎに変身させてれば1着になれたかも。 チョコ:だって難しいんだよ、変身させるのって。ほんと成功してよかったよ。 玉ちゃん:失敗していたら、どうなっていたの? チョコ:うーん、消えちゃってたかも。えへっ♪ 莉々:えへっ♪ってごまかすんじゃな〜い! いよいよ、プログラム最後「クラス対抗リレー」、莉々、3度目の出場。もちろんアンカー。 ところが、出場選手が集合する十分前、莉々に異変が起きていた。 玉ちゃん:リリさん、大丈夫ですか? 莉々:お、おなかいたぁーい・・・。 チョコ:お昼の弁当、あれだけ食べるからだよ。 玉ちゃん:チョコちゃん、なんとかならない?腹痛が治る魔法とか? チョコ:薬で治るものは、魔法で禁止されているの。薬屋さんが困るから。 莉々:そろそろ行かなきゃ。 玉ちゃん:だめだよ。そんな身体では。出てもクラスメイトに迷惑かけちゃいますよ。そうだ、私が出るわ。チョコちゃん、リリさんをうさぎに変えたみたいに、私をリリさんにして! 莉々:だ、だめだよ。はぁ、はぁ...失敗するかもしれないんだよ。 チョコ:うーん...。変身魔法は失敗するかもしれないけど、別の方法なら大丈夫だと思う。 玉ちゃん:ほんと?ありがとう、チョコちゃん。 チョコは、莉々と玉ちゃんを背もたれのない椅子に座らせ、背中と背中をもたれさせた。両手で二人の頭を押さえて何かつぶやくと、先ほどまで莉々が苦しい表情をしていたのが和らぎ、玉ちゃんがお腹を押さえ、苦しみだした。 莉々(玉ちゃん):あれ、私、リリさんになってます。 玉ちゃん(莉々):はぁ、はぁ...玉ちゃんになってる。 チョコ:これで、大丈夫♪ 莉々(玉ちゃん):意識じゃないのですね。 チョコ:うん。中身、脳とか内臓が替わってるの。筋肉は替わってないよ。 玉ちゃん(莉々):...私は大丈夫だから、はぁ、はぁ...玉ちゃん、リレー頑張って♪(力なくガッツポーズ) 莉々(玉ちゃん)は、アンカーに出場した。今まで体験したことないスピードで風を切り、ゴールテープを切った。 その後、チョコから続けて魔法をかけるのは身体に負担がかかるということで、玉ちゃん(莉々)の腹痛が治ってからということになった。 === 1週間後(10月17日) === 莉々:それにしても先週の運動会は面白かったね♪ 玉ちゃん:50m走と200m走で1着になって、弁当いっぱい食べて、うさぎに変身したね。 チョコ:...食べ過ぎて、腹痛したしね! 莉々:玉ちゃんもリレーで1着。チョコもジャムぱん食べて1着。よかったよ♪ 玉ちゃん:リリさんのウサギになった姿、もう一度みたいですね。 莉々:あっ、そうだ。飼育小屋のウサギを連れてきて、中身(ウサギと人間の内臓)は無理だから意識だけ交換するって、どうなの。チョコ? チョコ:今、りっちゃんと玉ちゃん、意識だけ替わっている状態で、中身が戻せなくなっているので、ウサギとの意識交換はちょっと無理なんです。 莉々:そうなんだぁー・・・ 玉ちゃん:・・・ 莉々&玉ちゃん:私たち、だいじょうぶかな? (おわり) |