「市民プール」

                 PN.月より





気温38度、湿度79%、蒸し暑い猛暑日の昼、二人は市民プールの水に浸かっていた。
市民プールは泳げる隙間がないぐらい老若男女で溢れていた。二人はまるで温泉に浸かっているような気分だった。

toshi9「...熱いねぇー...」

月より「漢字間違えてますよぉー...」

toshi9「...いや、プールの湯加減が...」

月より「ははは...」


周りを見渡すと、はしゃいでるのは子供だけで5m先は蜃気楼のように見えていた。


月より「そういえば、今回“憑依”でしたねぇ...」

toshi9「...あぁ、記念のテーマね...」

月より「あの“憑”って漢字、書けます?難しいでしょ」

toshi9「...あぁ」


toshi9は重そうな腕を水中から出し、人差し指で空中に書いてみせた。


月より「さすがですね!toshi9さん。この中で誰か憑依したい人いますか?」


toshi9は3m先のスクール水着を着たポニーテールの女の子を指差していた。


月より「・・・」

toshi9「...いや、元気そうだから...」

月より「男の子でもよかったのでは...」

toshi9「・・・」


空を見上げると、天空の城ラピュタに出てきそうな入道雲が出来ていた。


月より「じゃじゃぁーん♪ここに、飲めば憑依できるドリンクがありまーす!」

月よりは水中から1.5リットルのペットボトルを取り出した。いつから持っていたのだろうか?
ペットボトルをtoshi9に手渡した。


toshi9「...ぬるそうだね」

月より「ドリンクを全部飲み、憑依したい人を見つめてください。頭の中に『この人に何をしたいですか?』と文字が浮かぶので、『憑依したいです』と思うだけで、身体が消えて憑依できますよ♪」

toshi9「...これ、全部飲むの?」

月より「はい、そうですよ。飲みやすいように、スプライト味です!」

toshi9「...元に戻れるの?」

月より「はい、元に戻りたい時に」


toshi9は何とか全部飲み干し、先ほどのスクール水着を着たポニーテールの女の子を凝視した。すると、頭の中に文字が浮かんできた。


『この人に何をしたいですか?』

toshi9『憑衣したいです!』




   :
   :




太陽は西へ傾き、人々はそれぞれ家路へと着いていた。あのポニーテールの女の子も楽しそうに母親に連れられて帰って行った。


月より「toshi9さん、あの時なぜ憑依しなかったのですか?」

toshi9「...あぁ、喉が渇いていただけだから...」

月より「そうだったのですか。それにしても、今日はプール熱かったですね!」

toshi9「...あぁ、暑かったなぁー...」


toshi9「...なぁー」

月より「はい?」

toshi9「...あのドリンク、もう無いかなぁー...」

月より「あれ、最後の1本だったから...」

toshi9「...そうか。...何かジュース飲むか?」


toshi9はポケットから小銭を取り出し、ジュースの自販機に硬貨を投入した。
あの時、頭の中に浮かんだ文字を思い出しながら...。





『この人に何をしたいですか?』

toshi9『憑衣したいです!』

『...残念!漢字が違います。よって、憑依できませんでした...』





toshi9「...はぁー...」




(おわり)