チャイナ服が似合う女性になりたい

作:Tira






――チャイナ服が似合う女性になりたい――

僕は中学生になった頃からずっとそんな事を思っていた。
中学生の頃テレビで見た、黒髪を結い上げてほっそりとした顔立ちのお姉さん。
赤い袖なしのチャイナ服を身にまとい、そのスリットの隙間から覗く白くて滑らかな太もも。
あんなお姉さんと結婚したい。いや、どちらかと言えばあのお姉さんになりたい。

僕はそう願った。

その夢が今日、叶えられようとしている。
僕がネットで三年間探し回って見つけた【女の子布団】。
この布団で夜に眠ると、次の朝には女の子に変身出来るという代物だ。
ネットに乗っていた情報によると、この【女の子布団】と言うのは五種類くらいあって、それぞれが違う女性に変身出来るらしい。
手に入れた布団が、どんな女性に変身できるのかは分からないが、僕はずっと願っていた。

黒髪で、チャイナ服が似合う素敵な女性になれると。

家賃三万三千円のボロアパート。
四畳一間の部屋。
いつもの汗臭い布団を部屋の片隅に寄せ、可愛らしい布団を敷くと、僕の部屋の雰囲気がガラリと変化する。
ちゃんとコスプレショップで赤い袖なしチャイナ服も買ってきた。
五千円というお金は、【女の子布団】に大金をつぎ込んだ僕にとっては非常に厳しい金額だったが、夢を叶える事が出来るんだ。
明後日のバイト代が入るまで飯抜きで過ごせばいいだけさ。
そう思って電気を消し、布団に潜り込んだ。
心なしか、女性のいい香りがするように思える。
今の僕には似合わない香りだが、朝目覚めた時にはふさわしい香りになっているはず!
そうさ。
そうに違いない。
僕はドキドキを抑えきれず、布団の中で妄想していた――



黒髪の女性になったら、まずは何をしようか?
やっぱり、買ってきたチャイナ服を着てみるか。
そういえば、女性用の下着を買ってなかったな。
とりあえず、ジーパンとTシャツを着て買いに行くか。
あ……そうか。金が無いんだ。
それまではトランクスを穿いておくか。
でも、僕が女性になったと知ったら、バイト先の奴らはどう思うだろうな?
ちょっと胸を触らせてやれば金を払うだろうか?
いや、俺の姿を見るなり、襲い掛かってきたりして。
そうなったらちょっとやばいよな。
いきなり襲われるのだけは勘弁してほしいよ。
バイトの女の子達は、僕の姿を見てどう思うだろう?
仲良くしてくれるかな?
案外、僕の容姿を見て嫉妬したりして。
それに、もしかして……レ、レズ行為なんて出来たりして。
それなら雪子ちゃんがいいな。
三歳年下だけど、彼女とエッチ出来るなら最高だよ。
それから……







――僕は深い眠りに落ちた――








そして朝。
目を開けると、いつもの天井が見えた。

はっ!

僕はガバッと布団から跳ね起きた。

「女になってる!?」

俯くと、黒いタンクトップが異様に盛り上がっているのが分かる。
それは、明らかに女性の胸だ。
しかも、めちゃくちゃデッカイ胸!
果たしてチャイナ服に収まるのか??

「や、やった……」

声も昨日までの僕のものじゃない。
少しハスキーだけど、女性の声だ。

ただ――

僕の耳をくすぐる髪の色が黒くなかった。

「き、黄色い髪?」

四つん這いになって、テーブルの上に置いていた手鏡を手にすると、女の子布団の上に胡坐をかいて座る。
そして、僕の顔を手鏡に映してみた。

「……が、外……人……」

そう。
僕は腰にまで届く長い金髪をした若い外人女性に変身していた。

「はぁ……僕がイメージしていた女性じゃないや」

僕は左手で頭をぼりぼりとかきながらため息をついた。
二度と手に入らないであろう【女の子布団】。
それが外人の女性に変身するものだったなんて。

「こんな女性になりたかったんじゃないんだ。僕は黒髪の似合うアジア系の女性になりたかったのに……」

手鏡の中で困ったような、情けないような表情で僕を見つめる……僕。
戻り方なんて分からない。
きっと僕はこの姿のまま、一生過ごさなければならないんだ。

「……チャイナ服、似合わないだろうな」

また一つため息。

「よく考えれば、誰かに試させてから使えばよかったんだよな。あ〜あ」

僕は女性の声でそう呟いた。

「ああ……チャイナドレスが似合う女性がよかったなぁ……」

そして、何度も何度もその言葉を繰り返した――







チャイナドレスが似合う女性になりたい……おわり




あとがき

はい。
そういう事で、主人公クンが思っていたチャイナ服が似合うアジア系の女性には
変身出来ませんでした(笑
きっと、そんな女性に変身出来る【女の子布団】があるんですよ!

それでは最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。
Tiraでした。