姉は僕のもの
作:Tira





やっとこのときが来た。
僕は心臓が飛び出すかと思うくらいドキドキしていた。

目の前で横たわる姉、稚夏。

何時しか姉を、姉弟という感情を通り越して好きになってしまった僕は、八歳年上の姉と結ばれたいと思っていた。
でも、それは僕の倫理観が許さなかった。
で、苦しんだ挙句に考えたのが、「姉自身」を手に入れることだった。
姉の容姿を手に入れる。
そして、僕が姉になって好きな事をする。
それが出来れば、僕は納得できるんじゃないか?
中学二年になった僕はそう思った。

そう、僕にはやりたい事がたくさんあった。
だから、僕は姉になることを望んだ。
そして、今、僕の手元には特殊な樹脂のようなもので出来た非常に薄いスキンがある。
これは、人の形をした全身タイツのようなものだ。



――姉の部屋。
目の前にあるベッドには、薬で気を失った姉の稚夏が横たわっている。
ピンクのハイネックノースリーブに丈の短いデニムのスカート。
そして茶色いパンストに白いショルダーバッグ。
きっと今から街に出る予定だったのだろう。

「これさえあれば、僕が姉ちゃんになれるんだ」

何時までも心臓のドキドキは収まらない。
手に持っているスキンのうなじについている、ほくろの様な小さなスイッチ。
このスイッチに稚夏の指を触れさせれば、スキンは姉そっくりの形に変化するのだ。
それを着る事で、僕は姉の容姿を手に入れることが出来る。

「はぁ、はぁ。姉ちゃんが目を覚まさないうちに……」

僕は手に汗を握りながら、気を失っている稚夏の指をスキンのスイッチに触れさせた。
すると、ツルツルしたスキンの頭からニョキニョキと茶色い髪が生え始め、見る見るうちに
姉の姿を模擬した物へと変化していった。

「す、すごい……」

スキンの胸が膨らみ、ウェストが細くなり、お尻に女性特有の丸みが帯びてゆく。
そして――

変化が止まった。
どうやら、姉のスキンが完成したようだ。
僕はドキドキしながらスキンの背中についているファスナーを開き、そこから中に足を入れ始めた。
中はヌルットしたような感触。
それが気持ちいいような――僕がつま先まで足を入れると、スキンの足の指が動いた。
僕が足の指を動かすと、同じように動くんだ。
少しきついけど、両足を入れた後、腰まで引き上げる。
不思議な事に、スキンに包まれた僕の体は、軋みもせずにすっぽりと入り込んでしまった。
しかも、密着して隙間も出来ていない。

「…………」

僕は言葉を失った。
腰まで引き上げたスキンは、僕の下半身を完全に包み込み、姉の下半身に作り変えているんだ。
白い肌。
ほっそりとした長い足。
そして弾力のあるお尻に――女性の股間。
目の前で起きている事実が信じられない。

「こ、このまま上半身も着込んだら……」

更に鼓動が激しくなる。
僕の手がスキンの中に入り込み、そしてだらんと垂れ下がった頭をかぶる。
両肩を入れて弛みの無くなった背中のファスナーを引き上げると――

「すご……あっ」

声が――声が姉ちゃんそっくりになっている。
そして、この張りのある二つの胸や、背中をくすぐるライトブラウンの髪も!

「ね、姉ちゃん……俺、姉ちゃんになったんだ」

心の底から嬉しさがこみ上げてくる。
誰が見たって、今の僕は稚夏なんだ。
両親にだってバレるはずがない。
それほど完璧な「変装」だった。
そっと胸を触ってみると、柔らかな感触が手のひらいっぱいに広がる。
そして、触った胸からも『触られた』感触が伝わってきた。
このスキンは僕の皮膚に連動しているんだろうか?
それなら、僕は姉と同じ感覚を得る事が出来ることになる。

「すごい。ほんとにすごいや」

姉はこんなしゃべり方をしないだろう。
その違和感がたまらなかった。

「よ、よし。後は姉ちゃんが着ている服を……」

僕は姉が身に着けている服を剥ぎ取った。
申し訳程度に下着だけを残して。

「気が付いても大丈夫なようにっと!」

適当な縄で姉の体を縛り付け、白いタオルで口を封じた僕は今さっきまで姉が身に着けていた服を着始めた。
もちろん、下着は姉のタンスから拝借している。
少し皺の寄った茶色いパンストをスキンの上から穿きこむ。
そして、まだ姉の温もりが残っているピンクのハイネックノースリーブ。
そして、デニムのスカート。

「やった……これで完璧に姉ちゃんになれた!」


そして肩には白いショルダーバッグ。
この姿で外に出る。
街に出る。
女性専用の店に入る。
クラスの男子生徒に会う。
クラスの女子生徒に会う。
姉の友達に電話する。
――両親を騙す。

さっきまで考えていたのに――
僕は一番何がしたいのか、頭の中で整理できずにいた。
そんな時、後ろからモゴモゴと声が。

「あ……起きちゃったんだ」

姉は目の前にいるもう一人の自分の姿に、目を丸くしている。



「ふふ。しばらくあなたの姿、借りるわね!」

僕はニヤリと笑うと、何が起きているのか分かっていない姉を置いて街へと繰り出した――




姉は僕のもの……終わり




あとがき
う〜ん、イラストの部分だけ書いちゃいました(笑
後は脳内補完バリバリでよろしくお願いします。
それにしても、HIROさんのイラストはTS野郎の心もしっかりとくすぐってくれますねぇ。
大好きですよ。

それでは最後まで読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。
Tiraでした。