「はい、では続いて近藤詩織ちゃんです。曲は勿論大ヒット中の、『TSアイラブユー』!!」

 司会の声がスタジオ内に響き渡る。

 歌い終えて戻ってきたさやかちゃんが小声で「がんばって」と声をかけてくれた。
 よーし、どうせ口パクだ。振りは大丈夫みたいだったし、やるだけやるさ。

 俺はマイクを持って立ち上がるとハミの所まで歩いていった。

 ライトの光がやけに熱い。

 マイクを口元にあてて歌い始める。スピーカーから俺の声は出ない。

 よーし、これなら。

 俺は安心して振りをこなすことに専念した。

 激しくはないけれど手振りの多い『TSアイラブユー』の振りつけ。
 少しローアングル気味に構えているカメラにスカートの中身が映っているんじゃないかと気になったけれども、俺は曲の振りを間違えることなくこなしていった。

 だって、テレビでいつも見ているからねっ。