コードNo. S−N04
作品名 変身(Changeling)
作者名 グレアム・マスタートン:Graham Masterton
(尾之上浩司訳)
掲載メディア 「震える血」祥伝社文庫(小説)
ジャンル 入れ替わり






解説&内容紹介

 イギリスから出張していたギルは、ある日ホテルで白い服の美女とすれ違うが、妻がいるにもかかわらず、彼は彼女に一目ぼれしてしまう。その夜、息苦しさにホテルのバーに行った彼は、彼女と再会する。彼女に何と話しかけようかと思い悩むのもつかの間、彼女のほうから彼に話しかけてきた。「私が欲しいのね」ズバリ言われたギルは、だがその夜、白いドレスの美女・アンナの言うままホテルの部屋で彼女とセックスする。朝までセックスを繰り返す二人。アンナはギルに自分の家に来るように誘う。出張を二日延長すると会社と妻に偽り彼女の家に向かうギル。毎夜彼女の家でセックスに明け暮れる二人。二日目が過ぎ、もう一日とせがむアンナ。だがギルは体調の異変を感じていた。髭が生えない。無意識に便器に座って小用する。帰ろうとする彼のペニスをしごきセックスをせがむ彼女にギルは抗うことはできなかった。そして三日目の朝、彼は自分の体の変異に驚愕する。胸には大きな乳房、細いウエストにへこんだ腹、シルクのような陰毛、目をつぶって股間をさぐる指はそこに1本のヴァギナを探り当てる。「こんなこと、現実のはずがない」そう思いながら等身大の鏡の前に立つものの、そこには美しい裸体の美女が映っていた。
 困惑する彼に男が声をかける。それは昨夜までのアンナだった。
彼女はギルの姿を奪っていた。いや、アンナもかつて同じように体を奪われアンナの姿になってしまった男・デビッドだったのだ。ギルが男に戻るには、誰か別の男を同じようにひっかけるしかない。今までみんなそうしてきたと説明するデビッド。しかも奪われたのは姿だけではない。ギルの記憶さえもデビッドに奪われていたのだ。
 ギルに成りすましてイギリスに向かうデビッドを尻目に、アンナとして残されたギルは絶望の中一人オナニーを始める。「ここに男のペニスを受け入れたらどんな風に感じるんだろう」と。湧き上がるさらなる好奇心を振り払うようにシャワーを浴びるギル。だがアンナの下着を、スカートを、セーターを着るという行為もその下着の感触も男としてのギルには許せなかった。錯乱するギル。やがて落ち着いた彼は今までアンナになった男たちが連綿と書き残した日記を読み始める。軍人、ビジネスマン、警官、牧師……その数は第2次大戦の頃から実にから700人余りにも及んだ。
 空腹を覚えたギルは服を着替えるとレストランに向かう。しかしそんな彼を待っていたのは言い寄る男たちだった……。
 そして彼はイギリスの自宅近くに向かい、デビッドが現れるのを待つ。そこには彼の姿を、妻を、息子を、彼の人生の全てを奪ったデビッドがいた。妻のことをあだ名で呼ぶデビッドに逆上し、ナイフを振りかざすギル。しかしその刃は揉み合う中、逆にギルを傷つけてしまう。アンナの姿のまま絶命するギル。そしてその夜世界中で暮らす700人余りのアンナになった男たちも一斉に絶命してしまう。
 アンナとして埋葬されるギル。その墓碑を遠くから見つめる黒服の美女がいた。そんな彼女を祖父の墓参りに来た男がじっと見つめる。彼女が見返すと彼は微笑んだ。すると彼女も彼に微笑み返すのだった。



 絶品です! 翻訳作品ですが、ダークでエロチックなTS作品のお手本のような作品です。セックスした相手の男と自分の姿を入れかえてしまうアンナとは何者だったのかは謎のままですが、最後に出てくる黒衣の美女は、ギルが死んでも第2のアンナが存在することを暗示していて、どきどきさせられました。解説には劇場映画化の予定もあるなんて書いてありましたが、実際どうなったんでしょうね。ちなみに作者のグレアム・マスタートンはホラー映画「マニトウ」の原作者だということです。
 さて、この作品は「震える血」という短編集に収載されていますが、この「震える血」という短編集について簡単に説明しますと、「Hot Blood」というアメリカのアンソロジーを日本語訳したものです。この「Hot Blood」は、その序文の言葉を借りるならば「世界中の主要なホラー作家たちが心のうちに秘めていた性的悪夢を読者に提供するために編まれた、初の本格的エロティック・ホラー・アンソロジー」です。ですから収載されている12の作品は、バラエティに富んだセックスとホラーの絡んだ作品群なのですが、その1番目の作品がこの「変身」です。尤もTS或いはTG的作品はこの1本だけなのですが、私が入手した限りではこの本の後に2冊のシリーズ本が刊行されており、それぞれ1本ずつTS要素を含んだ作品が収載されています。
 それらの作品については、いずれまた紹介したいと思います。



ということで、作品は
「震える血」(祥伝社文庫:平成12年初版)に収載され刊行されています。